第83話 ザ・キング・オブ・ルート3本
話の流れから、光先輩と愛紗は能古島へ行くことになった。
が、
「今のシーズン、過度の期待はダメだよ。皿山公園でも言ったけど、春に向けての準備期間だからね。その代わりにお客さん少ないからゆったり出来るけど」
と言われた。
アイランドパークは民営の自然公園。
筑後から移住して島を開拓し、広大なサツマイモ畑を作り上げたものの、これから必要なのは自然の中の癒やしと考え、農業から転換。
構想から十六年かけて作り上げたのが、アイランドパークである。
春はデージー、菜の花、ポピー。
つつじ、マリーゴールドから初夏のあじさい、ダリアへと変わり、夏はケイトウ、そしてひまわり。
残暑を感じつつサルビア、もう一度ダリアが咲くと、十月には一面のコスモス。
オキザリス、サザンカから年が変わって日本水仙、ツバキ、梅。
そしてまた春の花に戻る。
園内の花は、四季を彩る。
今のシーズンなら、サザンカ、オキザリス、日本水仙あたりが咲いているだろう。
地図を見ながら、ルートを考える。
「能古島って、ルート三つ有りますよね?」
地図を見ると、島の北側に有るアイランドパークまでは、三本のルートが有る。
左、右、中央だ。
「実質一つだけどね」
光先輩は一年生の時に山さんや前部長と行った事が有るそうだ。なので、ルートについても分かる。
「真ん中は通称バス道。文字通りバスが通るルート」
「え、バス走ってるんですか?」
「走ってるよ。西鉄」
「え……」
恐るべし西鉄。エリアが福岡市周辺だけの自動車事業本部だけで、神奈川県の広範囲を走る神奈川中央交通に次ぐ台数を保有しているだけ有る。どこでも走っている。
しかし、
「離島にバス……一番初めのバスはどうやって入れたのか。考えたら一晩中寝られなくなりそうです」
「地下鉄か! 普通にフェリーだよ!」
「車も行けるんですか?」
「行ける」
なお、車の場合は往復でそこそこの運賃がかかる、島内は観光客用の駐車場があまり無い、道路が入り組んでいる、フェリーは住民や仕事で利用する車で多い等の理由で、姪浜渡船場横の駐車場に停めて人だけ船で渡り、島内をバスかレンタル自転車(ノーマルや電動アシスト付きが有る)か徒歩で回る事を推奨されている。
「車が載るなら、自転車も余裕で載りますね。志賀島航路みたいについでに自転車載っけるよ! 的なのじゃないんですね」
「アレは運賃も特例で百円にしている状態だから。社会実験で一年といいつつ、ずっと百円。本当は四倍ぐらいするから、正規料金なら片道千円超えてる」
ありがとう、福岡市。
「まぁ、今のシーズンならバスも臨時便出て大量に走っててー、なんてのはないと思う。基本は船に合わせた一時間に一本ペース。展望台行く時にバス道は少しは通るけど、渡船場からアイランドパークに行くのならアップダウンが激しいから初心者にはオススメできないルート」
「アップダウンが激しいのなら、やめましょう」
愛紗は即決断。
「坂好きなら楽しいルートだけどね」
坂が好きな訳じゃない。
「次に島の西側ルートだけど、こっちは自然探勝路」
「シマノ……」
作業場に戻った結理先輩が反応してる……。
「この自然探勝路は道が狭い」
「どれぐらい狭いんですか?」
「標識に『離合が困難』って書かれるぐらい」
離合とはすれ違いのことで、九州から広島にかけての地域で多く使われる。標識や道路にも書かれているので、地域限定の言葉だと思っている人は少ない。離合と言ってしまい、出身地域がバレるパターンも有る。
「それは狭いですね」
「あとは落ち葉も凄い。距離も一番長くて坂好きには楽しいけど、初心者にはオススメできないね」
「となると、こっちのルートですか」
愛紗は右側に有る島の東側を走る道路を指差した。
「そっちは一番短い初級ルート。パークまでが大体三キロぐらい。最初の八〇〇メートルが海沿いで、残りは登りね」
光先輩がルートを指でなぞっていく。
二・二キロで標高一二〇メートルほどまで登る。決して緩い坂では無い。だが、バス道のようには曲がりくねってはいないし、計算上は激坂という事もない。
計算上は。
初級ルートと言うのも分かる。
「途中に分かれ道あるけど、基本は道沿いに走れば大丈夫」
光先輩の指は、パークの少し手前にあるバス道との合流地点で止まった。
「展望台はココから一・三キロ登っていったトコロね」
結構距離が有る。バス道はアップダウンが有ると言うぐらいなので、港から直接展望台に行くと更に大変なのかもしれない。
「で」
光先輩の指が再び動き出す。
「最後の二〇〇メートルぐらいがラスボス」
その付近にはキツめの左カーブが有る。
坂道の途中に有るカーブは、内側を走ると勾配がキツい。登りなら激坂になる可能性も有り、下りだと速度をしっかり落とさないと曲がりきれない。
これは相当大変そうだ。
と思ったが、
「このカーブ前後の坂が最後に脚を削ってくる。カーブのトコロはそうでもないんだけどね」
予想の逆だった。珍しいパターンだ。
「カーブの後の坂でパークが見えてくると、力が出てくるんだけどねぇ」
「うーん。初級コースとはいえ、何も無く終わらせてはくれないんですね」
「まぁ、比較的ラクだけどね。剛の者ならレンタルのノーマル自転車でぐいぐい登っていくぐらい。普通の人なら力尽きて途中から歩くけど」
「私、貧脚なんですけど」
変な話だが、脚に自信が無い事には自信が有る。
「クロスバイクなら、ペース配分さえ間違えなければ行けるよ。愛紗ちゃんも、色んな坂を経験してきたんだし」
そう言ってもらえると、自信が持てそうだ。
「続き。アイランドパークのあとは、バス道分岐まで戻って登る。ここからひたすら登る」
光先輩の指はラスボスの前に有った分岐点からバス道へ入る
「パークまでの坂より、コッチの方が勾配キツいね。ハッキリ言って」
一・三キロずっとキツいのか、局所的にキツいのか、現時点では分からない。
バス道をなぞっていた指は途中で曲がり、島の中央付近で止まった。
「ここが展望台ね。島で一番高いトコロ。坂の後に登るとキツい階段が待ってる」
それもそれでキツそうだ。
「展望台からは元の道へ戻って、ひたすら下る」
再び動き出した指は来た道を戻り、バス道との合流点から東側の道路を通って渡船場まで戻ってきた。
「とまぁ、走るならこんなルートだろうね。どう? 行けそう?」
「ラスボスの後に出てくる展望台までの坂の方が強そうなんですけど」
「ん? ああ、隠しボスだから、ソレ」
光先輩は軽く言う。
「隠れてません」
「みっちゃん……」
作業場に居た結理先輩が、いつのまにか机の所まで来ていた。気配を全く感じなかったが。
「私も……行きたい」
「ユリ?」
それに驚いたのは光先輩で、目を丸くしていた。
「咲いてる花は食べれないよ?」
「ちゃんと
花、食べるんだ……。
「一昨年は行かなかったから……私も行きたい」
「それじゃあ今年は……今年も? 三人で行こっか」
こうして、光先輩、結理先輩、愛紗の三人で能古島へ行く事になった。
今回のライドは何が待っているのだろうか……。
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