第59話 大鳥居
竈門神社を出発して、駅まで戻る四人。
県道三五号線から登ってきた二キロ弱の道を下っていく。
跨道橋までの下り坂はかなりのスピードが出てしまった。跨道橋までは緩いカーブか直線なので、流れに任せる。
跨道橋を越えて県道までの下りは、上の坂ほどスピードが出なかった。跨道橋を境に勾配が違うようだ。
間違いなく上の方が勾配キツい!
下りの時に知っても遅いが。
県道三五号線を左に曲がって南へ進むと、太宰府駅に到着。駅前が無料駐輪場になっているので、ここに駐輪する。
駅の正面側に来ると、駅前広場から西へ真っ直ぐ参道が延びているのが見える。
「太宰府……人多いですね」
参道の両脇には店が並び、その間を貫く参道は多くの参拝客が行き交う。
「太宰府天満宮はCMもしてて有名だしね。あのCMソング『遙かなる
「あと二つはなんですか?」
「TNCの天気予報ソング『FANTASTIC VISION』とミスターマックスよ」
四人は参道を歩いていく。
参道沿いの店は土産物店や梅ヶ枝餅の店が多い。江戸時代の頃から参拝で賑わっており、周辺は宰府宿として宿も多数有った。この辺りに並ぶ土産物店も、元々は宿だったという店も多い。
やがて十字路とその向こうの一の鳥居が近付いてくる。これは江戸時代の物。
「ここと駅の間にもう一個、鳥居有ったんだよ」
光先輩が言う。
「そうなんですか?」
「うん。そっちも江戸時代の物だったけど、青銅の鳥居だったから戦時中に持って行かれたらしいよ」
残っていたら、また違った風景だったかもしれない。
「ん?」
光先輩は、十字路を左に進もうとする結理先輩に気付いた。
「ユリ?」
「こっちに……ハンバーガーが……」
「ユリ、家が近いんだから、いつでも来れるでしょ!」
光先輩は結理先輩の手を引っ張って、引き戻した。
「ああ……ハンバーガー」
参道沿いの店は食べ物系も多い。
光先輩は、
(ユリの欲望のままに任せていたら、いつまでも進めない)
と思っていた。
なので、今日は厳しめに行く。
一の鳥居を過ぎると、最中屋や梅ヶ枝餅屋など、列の有る人気店が目立ち始めた。
やがて二の鳥居が近付く。明治末期に建てられた物で、この参道の直線上に有る鳥居の中では、一番新しい。
二の鳥居を過ぎて、愛紗は左側に気になる建物を見つけた。
建物の壁や天井はコンクリート。その壁や天井に貼り付くように多数の木材が組まれている。
木の圧倒的存在感に目が奪われた。
見ていると、丸い緑の人魚マークが見えた。アメリカの有名コーヒー店である。
「あれ、なんですか?」
愛紗が聞くと、
「「「え!?」」」
部長と光先輩と結理先輩が同時に驚いた。
「アレが有名な隈さんデザインの店よ」
「篠原勝之!?」
「そっちだったら木じゃなくて鉄でしょ!」
隈研吾は建築デザイナー。近年は木材が目立つ設計が多く、各地で特徴的な建物をデザインしてきた。一般に広く知られるようになったのは、新国立競技場採用以降と思われる。
この店舗は二〇一一年オープン。色彩的には落ち着いたデザインで、見た目は目立つものの華美では無い。
「へぇー。こういう店が有るなんて知らなかった」
「ものすごぉーく有名だよ?」
光先輩の言葉に、部長と結理先輩が黙って頷く。
「太宰府天満宮って小さい頃に来た気はするんですけど、遊園地しか覚えて無くて」
「ああ、だざいふ遊園地ね」
昭和三十年代、太宰府天満宮内に作られた遊園地は、昔『だざいふえん』という名前だった。時代が変わっても大きく発展する事は無く、いつの時代も子供たちの思い出となっている。
参道を進んで店が無くなる辺り、案内所の前に建つのが三の鳥居。これも明治時代に建てられている。
三の鳥居をくぐって正面に見えるのが、
息子の
この延寿王院は現在宮司の自宅になっていて、私邸なので公開はされていない。
その門の右前には、御神牛の像が有る。
「牛さん!」
頭や身体が光る御神牛像は、多数の人が撫でた証。御神牛は撫でると御利益が有ると言われ、境内に十三体有る御神牛像の中では一番有名で、一番撫でられている。
太宰府天満宮の始まりは亡くなった菅原道真を牛車で運んでいる途中、牛が足を止めて伏せた場所に建てた菅原道真の墓である場所に後年建てられた社なので、牛が多く奉納されている。
太宰府天満宮に訪れた人の多くがやる牛撫でと写真撮りを終わらせると、左に曲がって北に進む。
すぐに見える鳥居は室町時代初期、南北朝の頃に建てられたようで九州最古の鳥居にとなるが、あまり注目はされない。
なお、現存する日本最古の鳥居は山形に存在している。
鳥居をくぐると、アーチ状の橋が見えてきた。
これは水を抜かれた事も有る心字池に架かる三つの太鼓橋。
これらの橋は過去・現在・未来の三世を表わしており、心字池を渡る事で邪念を払って清められる。江戸時代の図にも池と橋は描かれており、神仏習合の名残でもある。
橋を渡ると、再び鳥居。これは明治時代に千年大祭で建てられた鳥居である。
この鳥居をくぐれば、右前方に手水舎が見えてきた。
「こうして改めて歩くと、太宰府天満宮って広いな」
部長が手や口を清めながら言う。
「これでも一部。全部見ようと思うと、何時間有っても足りない」
手水舎で清めると、次は大きな赤い楼門。お寺なら両側に阿形と吽形の仁王像が有るが、ここは阿形と吽形の護衛官である随身が居る。
楼門をくぐると、正面に大きな唐破風向拝の本殿が見えた。江戸時代より前に建てられており、築四百年以上となる。
その本殿の右前には、御神木である
この飛梅は太宰府に左遷された菅原道真を追って、京都から道真が幽閉されていた
反対の左前には
こちらは貞明皇后が大正時代に香椎宮、筥崎宮、太宰府天満宮を御参拝の際、葉山御用邸の梅を植えられたもの。春には紅い花を咲かせる。
四人は本殿でお参りを済ませた。
楼門側に移動すると、おみくじをひく場所がある。
太宰府天満宮のおみくじは季節をイメージしたカラーになる事で有名。今の時期は稲をイメージした黄色のおみくじになる。
ひいてみた結果、
部長:大吉
結理先輩:吉
光先輩:中吉
愛紗:末吉
「…………うん」
どうも愛紗はおみくじ運が悪いらしい。
太宰府天満宮のおみくじは凶が無いので、末吉が一番下になる。
愛紗は書いてある事をよく読んで、実践しようと思った。
「さて、次は天開稲荷社だね」
「あれ? 光先輩、御朱印はいいんですか?」
「天開稲荷社の御朱印も太宰府天満宮だから、あとで来るよ」
「それで、天開稲荷社はどこから行くんですか?」
「あっち」
光先輩は本殿の左側を指差した。そっちの方向には裏へ行ける通路が見える。
「私、ここから向こうって行った記憶無いんですよね」
「まぁ、行く人少ないしね」
「人が多くないから……茶屋は落ち着く」
結理先輩は人混み苦手そうだからなぁ。
「ま、奥の院とか狭いし、あんまり来て貰っても困るんだけど」
奥の院ってどういう所だろう。気になってきた。
「光先輩、行きましょう」
「行こっか」
四人は天開稲荷社へ向けて歩き出した。
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