第52話 チャイ(薬壺犬)
山王寺から荒田高原から降りてきた道へと戻ってきた。右へ曲がって、再び道を下っていく。
多々良川の向こうに有る鉄閣寺が見えてくる。もうほとんど若杉山を下りてきたようなものだろう。登りはあれだけ時間かかったし苦労もしたのに、下りは一瞬だった。早い。
やがて左側前方に低いフェンスで囲まれた多目的グラウンドが見えてきた。
光先輩は左を指差す。
グラウンド……の手前に道が有った。
曲がると狭い道で、ちょっとした坂になっていたが、坂は緩いレベル。これぐらいなら、何の問題もなく登れる。
坂を登っていくと、旅館が見えてきた。
この右隣に有るのが、九番札所の
旅館の敷地内に有る札所は、石仏を祀る十三仏堂と小さな本堂のこぢんまりしたもの。
札所の隣に建つ守堂者の旅館は創業から百年ほどで、土日祝は自家栽培の椎茸を使ったつゆが評判のそば処としての顔も持つ。
お堂で読経まで終わらせて、セルフ御朱印を捺した。
「あとは……坂を下ったら、ほぼ平坦だね」
「ほぼ?」
「ほぼ! というコトで、坂は少しの間忘れてね」
「……まだ有るんですね、坂」
「だって、平地って日本の三割しかないんだよ? 平地の方が少ないんだよ」
「いきなり話のスケールがデカすぎるんですけど」
「ま、篠栗も町域の七割が山林だけどね」
その山林の割合、この辺りの地域が高めている気がする。福岡市が
まぁ、この旅ももうすぐ終わりのはず。今登って下りてきた若杉山のような事は無いだろう。
そう思いつつ、山王釈迦堂を出発した。
許可者と参拝者が停められる共同駐車場を通り過ぎると、片側一車線の大きな道に出てきた。これは荒田高原から下りてきた元の道路。
さらに向こうには多くの車が行き交う様子が見える。これは国道二〇一号線。
その国道の向こう側には篠栗線の高架が見える。
「ええっと……こっちね」
光先輩は交差点で止まって右を指差した。
「戻るんですか?」
「ちょっとね」
ということで、右に曲がって東へ進む。少し進むと、川の向こうに鉄閣寺が見えた。四階建ての大きな葬祭場は、元寺院。鋼材会社が建立したので鉄閣寺という。設計は太宰府天満宮の西門横に建つ
鉄閣寺に見とれていると、道路は右カーブにさしかかった。光先輩はカーブの途中に有る小さな橋の方へと進む。こっちは旧道なのだそうだ。
この旧道を東へ進むと、六十七番札所の
堂に貼られた古い千社札が、堂の歴史の長さを物語っている。横長の境内には、十三仏堂、大師堂、弁財天が祀られたお堂が有る。
読経まで終わらせた。お堂に納経所の白いプレートが有るが、納経箱が見当たらない。
「納経箱はココね」
お堂の左面に有る扉を開けると、そこに納経箱が有った。
セルフ御朱印を捺す。
「次も旧道沿いね。真反対だけど」
二人は山王薬師堂を出発した。
反転してさっき山王釈迦堂から下りてきた所まで戻ってきた。ここには大きな廃ホテルが有る。営業していた頃は、お城のような姿のレストランも有ったらしい。
この廃ホテルに沿うように、狭い道が有る。これが旧道。
国道沿いのうどん屋などの裏を通りながら進んで製材所の向かいに有るのが、七十七番札所の
六十七番札所と名前が同じこちらは、赤いレンガ塀が特徴的。レンガ塀沿い、境内側には多数の石仏が並ぶ。
読経まで終わらせて、セルフ御朱印を捺した。
山王薬師堂を出発する。
旧道を西へ進むと、広い駐車場へと出てきた。ここは豆腐料理店やコンビニが建つ。ここで国道二〇一号線に出てきた。
そのまま西へと進む。
国道は中央の車線からバイパスへと続く。側道のような道は県道六〇七号線で、ここから篠栗町の中心部、そして
見本と思われる石像が多数有る石材屋を過ぎると、道路が左側に増えて二本になった。小さな中央分離帯のようなコンクリートが、道路の間に続く。
車はまっすぐ進んでいくが、光先輩は左側の側道へと入って行く。
少し高い白壁塀の途中に白い看板が建っていた。三十九番札所の
階段を登ると、右側に大きなお堂が見えた。そこには『大師堂』と書かれている。これぐらい書かれていると、分かりやすい。左を見ると、本堂を案内する看板が建っている。
途中には手水鉢が有った。水は横に建つ薬師如来立像の薬壺から出てきている。なんかの映像で見たチャイを高い所から注ぐのを思い出した。これで空気と混ざって――何か効果有るの?
案内に沿って階段を登ると、ちょっとした広場になっている。子育地蔵、水かけ地蔵、滝、民間療法発明者の頌徳碑、そして本堂が建っている。
「んー……」
「どうしたの? 愛紗ちゃん」
光先輩は、ここに登ってきて唸る愛紗が気になった。
「……いや、多分気のせいのような気がする」
「あたしが気になるんだけど」
本堂で読経まで終わらせた。ここも納経は大師堂というので、戻る。
階段を下りる途中で、愛紗は足を止めた。
「やっぱり、大師堂の方が本堂より大きくないですか?」
愛紗はそこが気になっていたようだ。
「それは……気のせいじゃないような気がする」
否定は出来ない。
大師堂で御朱印を墨書でいただいた。
なお、延命寺には隣に素泊まりの宿が有る。一日一組で、住職自ら民家を改装している。
二人は延命寺を出発した。
側道は県道六○七号線と合流する。
そして西鉄バスの車庫を過ぎると、十九番札所の
表には『
「光先輩……?」
「だからナイって!」
篠栗の関所は十六番札所呑山観音寺だけなので、安心して通過していい。
古い堂内は、六地蔵や天保仏が派手なコーデなせいか、明るく見えた。
読経まで終わらせる。
堂内に黒い納経箱は見当たらなかった。
「ああ、アッチね」
光先輩が指差したのは、隣に建つ民家。縁側っぽい所のガラス戸に『納経所』の白いプレートが付けられていた。ガラス戸を開けた所に、黒い納経箱が有る。
二人はセルフ御朱印を捺した。
「次もそんなに遠くないよ」
二人は篠栗地蔵堂を出発した。
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