第44話 坂っとステージ
光先輩と愛紗は桐ノ木谷大日堂を出発する。
登ってきた道を下って、三差路まで戻ってきた。
ここから右に曲がると登ってきた道だが、左へと曲がる。カーブミラーの所に案内も有ったので、間違いない。
さらに坂を下っていると、トイレが見えてきた。
そのトイレの向かいに建つのが、五十三番札所の
道路側に有るカラフルな大師様がいる大師堂の壁には『
ここもお堂前が広めで、山の中に有るお堂としては大きく見える。
読経まで終えてセルフ御朱印を捺した。
「あとはまた坂を下ってくだけだね。登りが全く無いワケじゃないけど、まぁちょっとした坂レベルだから」
ホントかなぁ? と光先輩の言葉を疑う愛紗。
でも今は信じるしかない。
光先輩と愛紗は桐ノ木谷阿弥陀堂前の道路を進む。
道は本当に下るだけ。こんなに楽で良いのだろうか。坂を登れば同じぐらい下りが有るのだから、当然の話ではあるのだが。
下っている途中で南蔵院の涅槃像がチラッと見えた。ブロンズ製では世界最大級だという。遠いこの場からでも大きく見えた。すぐ近くに札所が有るというので、近くまで行けそうだ。
さらに下っていると、やがて擬宝珠の付いた赤い橋が見えてきた。これは八木山バイパスの跨線橋。それを聞くだけで、かなり高い場所まで登ったのだと実感する。
橋を渡り八木山バイパスの北側を東方面へ下っていると、今度は白い建物が見えてきた。
この消防団車庫と隣に建つ公民館の先を左側に入った所が、五十六番札所の
入口に『交通安全』と書かれた石柱が建っているが、これは元々松ヶ瀬地蔵堂が国道二〇一号線二瀬川観音堂寄りのカーブ付近に有った頃から存在していたものである。近年この地へ移転した際に、この石柱も移転してきている。
松ヶ瀬地蔵堂は未舗装の広場を囲むように御本尊や石仏を祀ったお堂が建てられている。
読経まで済ませてセルフ御朱印を捺す。
次の札所は民家を挟んで隣に建つ、二番札所
先ほどの松ヶ瀬地蔵堂よりも大きなお堂である。
ここは篠栗四国八十八ヶ所霊場の札所で御本尊は阿弥陀如来なのだが、それ以上に目立つ赤文字で書かれているのが
読経まで済ませてセルフ御朱印を捺す。
次の札所は南蔵院付近になる。ここから行くのであれば松ヶ瀬地蔵堂と松ヶ瀬阿弥陀堂の間の道が一番近道なのだが、狭い上にコンクリート舗装なので、堂前の道路をそのまま進む。
多々良川に架かる橋を渡ると、右側に大きな駐車場が見えた。これは南蔵院の第二駐車場。
そこからちょっとした坂を登ると、国道二〇一号線へと出てくる。
ここから、西の福岡市方面へと走る。カーブの辺りで左下の方に広大な駐車場と、その奥にお寺の様な横長の建物が見えた。この建物は篠栗線の
南蔵院の境内は自転車で入られないので、駅周辺に駐輪して歩く事にする。
「私、小さい時に来た記憶有るんですよね。あー、これこれ」
二人がさしかかったのは、多々良川に架かる城戸橋。この橋は別名メロディーブリッジ。橋の欄干にアルミの音板が取り付けてあり、順番に叩くとメロディーが鳴るのである。右側通行で正常なメロディーを奏でられるようになっており、『ふるさと』か『めだかの学校』を奏でられる。
愛紗はマレットで音板叩きながら渡っていった。
「懐かしいなぁ」
「だいたい鳴らしたい時ってさぁ、マレットが反対側に全部ありがちなんだよね。取って戻ってきて鳴らしたりさ」
「あー、小さい時に反対から持って来た記憶が有る」
国道二〇一号には横断歩道が有り、押しボタン式の信号が付いている。
横断歩道を渡ると、まっすぐは参道の坂道。左側に新しめの大きなお堂が見えた。これは三天女が祀られた
そしてその女人天照堂の右側に建つ小さなお堂が、三番札所の
新しめのお堂だが、これは女人天照堂建立の時に建て直した為。元々小さなお堂だったので、立て替え前とお堂の大きさはあまり変わってはいない。
読経まで済ませてセルフ御朱印を捺して次へ向かう。
参道へ戻ると土産物店が有った。ここでは篠栗八十八ヶ所遍路シャツなど、ちょっと変わった物も取り扱っている。
その少し先の右側に架かる橋を渡れば、三十一番札所の
ここは札所唯一の文殊菩薩が祀られたお堂。
三人寄らば文殊の知恵という言葉があるが、文殊菩薩は物事の判断や、正解へ導く智慧の仏様。記憶的な知恵の担当は虚空蔵菩薩になる。
読経まで済ませてセルフ御朱印を捺して次へ向かう。
参道を進むと、参拝者が触るのかおなかがテカテカの布袋様が両側にいる階段が見えてきた。この上が南蔵院の本堂になるが、光先輩はスルーして坂道を進む。
この上に有るのは……小さい頃の記憶では大きな像。。
そして見えてきたのは、広場にある真っ赤な炎をまとう巨大な不動明王像。昭和に建てられた像は、涅槃像が出来るまでは南蔵院を象徴するものだった。高さだけなら涅槃像と変わらない。
この不動明王像が有る広場を過ぎると、登りは坂道から狭い階段へと変わる。この辺りから木々に囲まれて、薄暗い。横は川が流れ、絶えず水の音がしている。
階段だが先がなんとなく分かっている分、キツさは無い。
やがて豪快な音を立てる滝が見えてきた。この滝は見覚えがある。
階段を登り切れば、正面にあるのが四十五番札所の
城戸ノ滝不動堂の左側にある城戸不動の滝は、四国からの帰りに立ち寄った尼僧の
不動の滝というだけあるのか、滝の周囲には多数の不動像が有り、滝行する人は不動明王に見られながら滝に打たれる事になる。
不動堂の左側、滝の前を通ると岩場が有る。ここは平家の落人が隠れていたという平家岩。ここの中を登って行くと、八十八番札所大久保薬師堂の方へ抜ける道が有る。
また、城戸ノ滝不動堂は南蔵院の奥の院にあたる。
二人は読経まで済ませた。
納経所は南蔵院本堂になる。ここから戻って南蔵院本堂へ進む。
本堂は二階建てで、御本尊が祀られているのは二階。
不動明王の広場から階段を登れば、一番札所の南蔵院に到着。
南蔵院の御本尊は阿弥陀如来で、一番札所の御本尊は釈迦如来になる。中央に阿弥陀如来、その左側に釈迦如来という形で祀られている。
南蔵院は元々は高野山のお寺で、明治時代に廃仏毀釈で霊場廃止を求められた際に、霊場存続の為に移転してきた経緯を持つ。
さすがに知名度の高い南蔵院だけあって参拝客も多いが、そんな事は気にせず読経まで終えて、隣で南蔵院と城戸ノ滝不動堂二体分の御朱印をいただく。
次は少し離れた場所に有る。
光先輩と愛紗は階段を下りて、七福神トンネルへと入る。ここはトンネル中央に博多人形の七福神が宝船に乗って祀られている。また、トンネルの両壁には小さなお地蔵様の銅板がびっしりと貼られているが、これは参拝記念で奉納された仲良し地蔵。貼るスペースが埋まったのか、現在は奉納出来ない。
トンネルを抜けると、広場へと出てきた。
右側にお堂が見えるが、これは大黒堂。宝くじで高額当選した住職が巻いていたという大黒天札の有る場所で、昔は七十一番札所だった。札所は現在、国道沿いへと移転している。
二人はさらに東へと歩く。
坂などを通ってやってきたのは、広大な広場。
「おお……」
思わず声を漏らした愛紗の目に飛び込んできたのは、巨大なブロンズ製の涅槃像。
全長四十一メートル、高さ十一メートルはブロンズ製の涅槃像では世界最大級。ブロンズ製以外であれば、北海道のFRP製(元々は鉄鋼加工会社が開発したリゾートホテルに有った物)や、タイのレンガと漆喰製や、ミャンマーのコンクリート製など、南蔵院よりも大きい涅槃像は有る。
少し離れれば全身を見る事が出来るので、これが丁度良いサイズ感なのかもしれない。
また涅槃像は頭の後方から有料で胎内に入る事ができ、胎内では四国八十八ヶ所のお砂踏みが出来る。
さて次の札所だが、この涅槃像の頭の前にある。
六十番札所の
名前は愛媛六十番札所
寺と付いているが、小さなお堂。大きな涅槃像を見に来た人は何か有るという認識。八十八ヶ所回っている人は、涅槃像に気を取られて見落としやすい。
それほどに涅槃像が目立っているが、神変寺は涅槃像が建つ前に八木山から数度の移転を経てこの地へと移り、涅槃像を建てる際に現在の大黒堂付近の仮堂へ移って、完成時に戻ってきている。後から来たのは涅槃像の方である。
読経まで終えてセルフ御朱印を捺す。
これで駅周辺から歩きで回る札所は終了。駅へと戻る。
時刻は十五時前。
「うーん……思ったより進んでるなぁ」
駅へ戻る途中、光先輩がポツリと呟いた。
「これなら追いクライム出来そうだね」
「え?」
いや、まぁ初日に比べたら、坂を登っている時間は短いような気はする。
その分濃いが。
脚は下り区間で回復はしている。
最初の頃に比べたら坂も登れる様になってきた気がするし、行けない事は無いと思うが……迷う。
「よし! 行っちゃおっか」
え? 選択権無し?
「これ行っとくと、三日目がラクになるよ」
これは光先輩の重要な情報。それで二日目は楽になった。
一日目以上にキツい坂が待っていたが。
となると、三日目も二日目よりキツい坂とか待ってるのかな?
「三日目は間違いなく高原に行くからね」
「光先輩。是非、追いクライムさせて下さい」
愛紗は間髪入れずに返事をした。
ていうか、高原ってなに?
本当に一日目が一番標高が高かったの?
高原って峠より高そうなイメージ有るんですけど?
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