第38話 A complete the mission on DESSERT MANPUKU.
先ほど不意打ちを食らった坂を下りて町道へ戻り、国道二〇一号まで出てきた。すぐそばには
自転車は通行出来ないので、三人には特に関係なかった。
三人は八木山峠へ向かう国道を東へと進む。
途中に札所となっているお寺の名前が複数箇所書かれた縦長の案内看板が建っていた。右側に曲がって進むと有るらしい。一番遠いところで二・五キロと書かれている。
意外と距離が無い。
四国八十八ヶ所は四県に跨がっているが、篠栗四国八十八ヶ所は町内。札所の間隔も短くて当然だ。
でも、雷音寺みたいに近そうで遠いという可能性もある。
左側には先ほど間近で見た篠栗線の高架が、かなり高い場所に見えた。右に有る八木山バイパスよりも高く見える。
さらに進むと、その鉄道高架へと伸びる階段が見えた。これは
筑前山手駅は高架駅で、高さは大体十五メートル。そこまで階段で登っていく。今は無き
光先輩は駅の手前から高架をくぐるように延びる狭い道路の方へと進む。
そして高架をくぐってすぐ左側に見えるのが、十一番札所の
入口に修行大師像が建つこの札所は、お堂と十三仏が祀られた堂がL字のように建っている。外側の堂に有る十三仏は石仏、御本尊と一緒に祀られている堂内の十三仏は黄金に輝いている。
こうやって見ていると、お堂でも各札所で個性が出ていて面白いなと思う。
読経まで終わらせて、石仏十三仏の所でセルフ御朱印を捺す。
札所前の道路を進むと、広い道路へと出てきた。広いと言っても、中央線の無い道路。今通ってきた道路が狭すぎて、広く感じるだけだろう。
この道路を渡って橋も渡ると、五十二番札所の
この札所の見所は、老僧が三年の歳月をかけて十万人の名前で書き上げた巨大な大師像。フラッと現れた老僧は喜捨した人々の名前で書き上げると、フラッとどこかへ立ち去ってしまった。この像は有志によって大切に飾られ、それが御本尊を祀る堂よりも目立つ光名閣として存在する。
近付いてみると、確かに人名らしき物がびっしりと書かれている。こういうレジェンド的な話が残るのも面白いと思いつつ、読経まで終わらせて御朱印を捺した。
「時間的にも次がラストだね。ここでヤメてもいいけど、どうする?」
山手観音堂を後にした所で、光先輩が聞いてきた。
「坂、なんですよね?」
「そう。まぁ、その次も坂なんだけどね。次の札所のもっと上。明日途中で寄るか、寄らずにそこまで行くかの違い」
それは悩む。
光先輩はデザートと言っていたが、そんなに優しい物だろうか。今までの経験だと、そんな気はしないのだが。
脚を動かしてみた。疲れてないと言えば嘘になるが、もうひと踏ん張りぐらいは行けそうだ。
愛紗は決断する。
「行きましょう」
明日以降どうなるか分からない。一つでも多く札所を回っておきたかった。
「よっし。ラストは気合い入れて行くよ!」
三人は札所前の道路を山の方へ向かって進み始めた。山に向かうと言っても、緩い上り坂。これならデザートだ。川沿いの道を進んでいると少しずつ勾配が増していってるが、まだ許容範囲。
やがて、石積擁壁に旅館の看板が貼られているのが見えてきた。
「ソコ、入るよ」
旅館に? と思ったが、近くに小さな札所の看板が建っていた。
旅館や札所へ向かう道路は横溝のグルービングがされたコンクリート舗装。勾配も増しているが、急と言うほどでもない。
これならデザートだな。明日でも良かったかもしれないと思う。
「着いた!」
と光先輩が言うが、札所らしき物は見当たらない。見えるのは行事予定が書かれたお寺の掲示板と階段。階段を見上げると、階段に沿うように大量の赤い幟が建っている。
嫌な予感しかしない。
「……まさか?」
「この上だよ」
光先輩は階段の上の方を指差した。
天にも昇るような長い階段。
これはデザートじゃない。メインディッシュだろう。もしくは、注文しすぎたデザート。食べる前からおなかいっぱいだよ。
覚悟を決めて一歩一歩登り始めたが、終わりが見えない。
「光先輩、これ何段ぐらい有るんですか」
「んー……下にある駅の階段と同じぐらいだった気がする」
あの駅、高架までがすごく高かった気がするんですが。
「これは……中々ハードだな……」
下の方で部長が言う。部長は二人から少し遅れていた。
階段を登るのに電動アシストなんてない。自力だ。
部長は私たちよりも体力無いのかな? と思う。
階段の長さは最初の方にあった八十六番札所金出観音堂が長いらしいが、終盤で来たこっちの方が、階段はキツく感じた。
やっぱりこの札所、今日来てて良かったと思う。明日一発目だとキツかったかもしれない。
「くっはぁ……」
重い足取りながらも、頑張って階段を登り切った。
そして見えるのが、二十五番札所の
四国八十八ヶ所二十五番札所
いきなり一つと言われても困る。ここまで来られた感謝を伝えた。
御朱印は先ほど見えたサッシ扉から入った所。墨書でいただいて、今日の巡拝は終了になる。
登る時は長く感じた階段も、帰りは足取りも軽い。
「今日一日走ってみて、どうだった?」
階段を下りながら、光先輩が聞いて来た。
「なんか……すごく疲れたけど、妙な充実感が有ります」
今日はずっと自転車に乗っていた訳じゃないが、一日中走っていた気分になっている。
「距離で行けば……多分学校からと合わせて志賀島の時より少し長いぐらいかな?」
そんな距離なのか。もっと長く感じたが。いや、走っている時間は長かった気がする。坂でスピードが出ていなかったせいで。
「ま、八十八ヶ所だけなら、一番標高が高いのは呑山さんだからね。後はそこまで高くないよ」
「うむ。私も心配していたのは、そこだからな。初日がクリア出来たのなら、後は大丈夫だろう」
二人の言い方がひっかかる。明日行くであろう方向には山が見えていた。あそこまでは行かないのだろうが、坂は登らないといけないのだろう。
まぁ、坂も程度による。
「私も用事が有るから初日だけはなんとか付き合ったが、明日から二人で頑張ってくれ」
そっか。明日から部長はいないんだ。それは少し寂しい気がする。
「という事で、平田の荷物は返そう」
愛紗は部長に移動の時だけ預けていたリュックサックを受け取った。朝よりもズシッと重く感じる。これを持って走っていたら、多分一日目で心が折れていただろう。
軽さは正義。
そう言っていた意味が分かってきた気がした。
帰る方向は途中まで一緒と言う事で、篠栗駅の辺りまでは一緒に走る事にした。
途中には鉄閣寺が有る。京都の金、銀、銅と来てここが鉄なのは、この建物が町に本社のある鋼板加工会社が建てた寺院だったからだそうだ。今は町の葬祭場となっている。
国道二〇一号から県道六○七号へ進み、篠栗駅の方へ向かう。途中、札所の番号が書かれたお寺がいくつか有った。数日以内に訪れるのだろう。
そんな事を考えながら走っていると、もう駅まで着いてしまった。
「
部長は自分の家へ向けて、県道を西の方へと走って行った。
「んじゃ、あたしたちも帰りますか。明日の為の飲み物とか買っとくなら、もうちょっと進めばドラッグストアも、スーパーも、ディスカウントストアも、コンビニもあるけど」
一番近いドラッグストアで飲料を確保した。
これから光先輩の家へと向かう。
当たり前だが、光先輩の家に行くのは初めてだ。
一体、どんな家なのか。今日一番、気になっていた部分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます