第32話 スタンプ苦楽
三人が川沿いに西へ進んで着いたのは、三十七番札所
「ちっかっ!」
自転車には乗ったが、三十秒も乗っていない。歩いてもあまり変わらなかったんじゃないかとすら思える。
「百メートル無いからね」
「これ、どんどん札所の距離が短くなって、最後は隣とかになっちゃうんですか?」
「確かに最後は隣り合ってるけど、短くなっていってるなら全部で五十キロもナイよ」
読経まで終えてセルフで御朱印を捺すと、北へ進む。
国道二〇一号をくぐってちょっとした坂を上ると、左に道路と一体化したような広場の駐車場が有り、『
読経、セルフ御朱印を終えて、前の道路を東へ進む。案内看板の所から左へ曲がり、入口階段上って左右が狭く天井の低いくぐり岩と呼ばれる通路を抜けると、三十二番札所
「あれ? さっきの札所も同じ名前じゃなかったですか?」
「お堂の所は地域名と御本尊名で名前付けるから、被る所が出てくるのよ。コッチの御本尊は十一面観世音菩薩だから、高田十一面観音堂と呼ばれたりするけど」
十一面観音は文字通り、十一の顔を持つ観音様だ。先ほどの御本尊とは違うと主張するかのように、御本尊真言が少し違った。
この高田観音堂の右隣には、
粕屋郡中三十三ヶ所観音霊場は福岡藩
三人は次の札所へ向かう。
これまで五つの札所を回ったが、特に問題になる様な物は無い。これなら一日で回れそうな気さえしてくる。実際は札所一ヶ所で納経の時間が十分だとしても、十四時間超かかることになるので無理なのだが。
部長の心配しすぎだったのでは無いかと思いながら東へ進んでくると、県道九二号線へと出た。カーブミラーの下に石で出来たへんろ道案内がいくつも有り、全て右を指差している。案内に従い右へ曲がって南に進むと、消防団車庫の裏に大きなクスノキが見えた。
このクスノキが有る公民館の向かいが、四番札所の
大日如来は近年のウルトラマンの様に二つのモードが有り、手の形で見分ける事が出来る。金出大日堂の御本尊は手を縦に組んでいるので、金剛界モードの大日如来である。手を横に組んだ胎蔵界モードは数が少なく、他の篠栗八十八ヶ所で大日如来を御本尊としている所も、金剛界モードの仏像になっている。
境内には石仏や地蔵の横に御本尊が祀られたお堂が有り、緑色した井戸ポンプが見える。石仏は今までで一番多い様な気がするが、敷地が少し広めなせいだろうか。ここもお堂の方が小さい。
蓋を開くと台に変わる手作り納経箱で御朱印を捺すと、次の札所へ向かう。
道路沿いに鯉の泳ぐ水路が見える。この水路沿いに進むと、右側にお寺の駐車場と男女で色の違う公衆トイレが見えてきた。
この向かいが三十五番札所
この珠林寺は篠栗四国八十八ヶ所の創設時から現在まで変わる事無く札所を続けている中で、唯一のお寺である。
山門を抜けると、大きな本堂が目に飛び込んできた。
「すっごい……」
愛紗は明治時代に建てられた本堂の大きな
「この本堂が札所ですか?」
「いや、左側」
「え?」
ここ珠林寺は浄土宗のお寺になる。本堂に祀られる御本尊は
篠栗四国八十八ヶ所の御本尊は、境内左側に小さな薬師堂が建てられ、石仏の薬師如来が祀られている。薬師堂の右側にも観音堂が有り、粕屋郡中三十三ヶ所観音霊場二十五番札所の聖観世音菩薩が祀られている。
読経まで終えたが、納経所のプレートが見当たらない。今までは近くに白地に黒字のプレートが有った。篠栗四国霊場会の物で、そこで御朱印をいただいたり、御朱印のスタンプを捺してきた。
「御朱印はアッチ」
光先輩が指差したのは、境内の真反対側。木々の向こうにガラス窓が見える。近付くと、縁側に納経箱が置かれていた。
「これ、分かりにくくないですか?」
「あたしも最初迷ったよ……」
御朱印を捺すと、山門から表の駐車場に出てきた。
「次は……」
「すぐソコだよ」
光先輩は小さな階段から横の道へと降りようとしていた。
少し歩くと、白い看板と石の階段が見えてきた。近付くと、見上げないといけないほど長い階段が目の前に有る。白い看板には札所で有る事が書かれていた。この長い階段を上らないといけないようだ。
この階段は九十段。札所の階段としては一番長い。看板にも赤字でそう書いてある。
手すりを掴みながら、一歩一歩上っていく。
階段の終盤にさしかかると、お堂が少しずつ見えてきた。上り切れば、八十六番札所
「はぁーーーーーーっ」
なんとか上りきった愛紗は呼吸を整える。
(初日の問題ってこれじゃないの?)
愛紗はそう思う。今日一番キツかった。
少し休憩した後に読経まで済ませ、引き出しの中に有る納経箱で御朱印を捺す。
帰りも当然、九十段降りないといけない。
上る前に見た白い看板の裏側には『らくになった』と書かれているが、全然らくじゃない!
そう思いながら珠林寺の駐車場まで戻ってきた。
「次はドッチからがいいかなぁ」
「どっちからって、同じ場所に有るんですか?」
「同じ場所ってか、向かい合ってる。キツい方かキツくない方か」
愛紗は少し悩んで、
「先にキツい方で。キツくない方が後なら、休憩出来そうなので」
と言った。
「んじゃ、二十七番からね」
先ほど降りてきた金出観音堂の長い階段前を通り、県道九二号線へと戻ってきた。ここを右へ曲がり、北へ進む。左のブロック擁壁には郊外でよく見かける『大木切ります』の赤い広告看板が付けられており、走っている道路は上り坂になっているように見える。先に見える左カーブの所には、『1カーブ』という丸い標識が立っていた。
「あの……これ、嫌な予感しかしないんですけど、ずっと上りなんですか?」
「ずっと上りじゃないよ」
とは光先輩は言うが、カーブを曲がって少し坂を上ると、左にお寺と割烹料理屋の看板、右側には別のお寺の看板が見えた。どちらも札所で有る事が書かれている。左が二十七番札所と書かれているので、こっちへ先に行くと思われる。
それより気になるのは、先に続く道路左側に見える通行止のゲート。そばには道路情報の電光掲示板が立っていて、その先には強雨の際に通行止の旨が書かれており、その先の道路は長い上り坂に見える。
「あの……これ平地とかに無いですよね? こんな通行止ゲート」
「でも、雨量よりは雪で通行止の方が多い気がするよ、
この道、峠じゃないですかー!
これこそが、部長が言っていた初日の問題だった。
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