第11話 きょうからコグがおもしろい。

 先輩二人が部室に入ってから、しばらくの時間が経っていた。

「愛紗ちゃーん」

 呼ばれたので部室の方を見てみると、光先輩が部室の鉄扉を少しだけ開けて顔を出していた。

「入ってきてよ。実走前の最後のレクチャーするから」

 光先輩はそう言いながら、手招きしている。

 買う前も色々教えて貰ったが、まだ教えることがあるのか。

 そう思いながら、愛紗は自分のクロスバイクを押して自好部部室の中へと入った。

 部室内へ入ると、二人の先輩は先ほどまでと全く違う姿になっていた。

 光先輩はぴったりしたトップス。サイクルジャージと呼ばれてる奴だ。

 ボトムスはレーサーパンツと……スカート? ひらひらした短いティアードスカートをレーパンの上から履いている。

 確かにスカートを、とか言っていた記憶は有るが。

「スカートをレーパンの上にとは言ってましたが、こういうのなんですか?」

「これ? こう見えても自転車用なんだよ。カワイイでしょ」

 光先輩はクルッと回って全身を見せてくれた。ひらりとスカートが舞う。

 なんというか……光先輩は金色に走らなければ、まともなんじゃないかと思ってしまった。

 対して、結理先輩のボトムスはレーパンの上にベージュのショーパン。レッグカバーで脚を覆っていた。

 そしてトップスはというと、少し緩めのシャツ。腕にはアームカバーをしており、背中にはバックパック。

 よく見れば、所々にシマノのようなロゴが見え――いや、シマノだ。ほぼ全身シマノだよ。

 結理先輩の範囲はパーツだけじゃ無かったのか! そこまでシマノが好きか!

 結理先輩を見ている事に気付かれたのか、結理先輩と目が合った。

「みっちゃんみたいにぴったりしたのじゃないと思ったでしょ」

 そう言いながら、結理先輩はシャツを指で摘まんで引っ張った。

 そうじゃ無いんですけど。

「身体に合うのが無いからこうなってるだけ」

 身体が小さいって大変だなぁ。

「ちなみに、これは釣り用のウェア」

 シマノで探したのか。それは大変な。

 でも釣り用を自転車に――って、どっちもアウトドアか。問題は無いだろう。

「じゃあ座って。最後に注意事項説明するから」

 光先輩がイスを持ってきた。

 クロスバイクを停めて、イスに座る。自転車が一台増えただけで、部室がすごく狭く感じた。

「さ、これから走る訳だけど、自転車はどこを走る?」

 相変わらずイスではなく、机に座る光先輩が聞いてきた。

 え? いや、それはもう一つしかないでしょ。

「道路」

「そういうのを聞きたいんじゃない。道路のどこを走るって話」

「上」

「う……うん」

 光先輩が呆れてるのは、明らかに分かる。

 でも、それ以外にどんな回答が有ると言うのか。

「みっちゃんは……道路上のどの位置を走るか聞いてるんだと思う」

 黄色いフロアポンプを持って自分のクロスバイクの方へ歩いていた結理先輩が助け船を出した。このままだと日が暮れるとでも思ったのだろう。

「真ん中は人や車が来て危ないから、端っこ?」

「んー……半分正解」

「半分……」

 半分正解って、端っこ以外どこを走るんだろう。

「正解は、基本的に車道の左端」

「あれ? でも歩道走っている自転車、いますよね?」

「うん。それは後で説明する。道路って状況が違うから、状況に応じて走れる場所が違うの。歩道有る無し、片側一車線まで、片側二車線以上でそれぞれ違う。って言っても、片側一車線の道路までは左の端っこでいいんだけどね」

「二車線以上は?」

「第一通行帯と言って、左端の車線。と言っても、通行帯の真ん中とか走ってたら邪魔だから、やっぱり左端だね」

「なるほど」

「で、自転車通行帯がある時は、左側のそこを走る。大体は青いライン引いてあって、自転車のマークが付いてる所ね」

「だから『基本的に』なんだ。所で、さっきから左って言ってますけど、右は駄目なんですか?」

「ダメ、ゼッタイ。自転車通行帯とか、矢印書いてあっても逆走してくる人がいるけど、アレ何考えてるんだろうね」

「……何も考えて無いから逆走する」

 結理先輩がバルブコアを押し、プシッと音をさせながら言う。

 仏式バルブは固着して空気が入らない場合が有る。ポンプヘッドを装着する前に、バルブコアを押して中の空気を出し、空気を通るようにしないといけない。

「もし逆走して捕まったら、どうなるんですか?」

「知りたい?」

 愛紗は黙って頷いた。

「――――――死罪!」

「それは……恐ろしいですね」

 光先輩の真剣な目に愛紗は信じてしまったが、本当は罰金五万円。また五万です。

「そもそも、逆走した場合、相対速度が、高まる。こっちが、二十五キロとして、十五キロの、普通自転車なら、四十キロ。四十キロの自動車なら、六十五キロで、とっても、危険!」

 結理先輩がフロアポンプのハンドルを上下させて空気を入れながら語り、『危険』と言う言葉と同時に手が止まった。空気を入れ終わったようで、バルブからポンプヘッドを外した。

「早い話、逆走は危険ってことですね?」

「まぁね。でも、車道の逆走は危険って話で、『自転車通行可』の標識が有る自転車歩行者道。これは方向がナイ。でも車道寄りを走んなきゃいけないから、自歩道走るんだったらなるべく左側走りたいね」

「それが走られる歩道ですか」

「そ。あとはいくつか条件あるけど、ザックリ言えば車道走るのがムリな状態の時。これだと自歩道じゃなくても走ることができるんだ」

「状況で変わるって事ですね」

「そうだね。道路は生き物。いつも同じとは限らない。それじゃあ、行こうか」

「え……もう終わり?」

 驚いたのは、愛紗ではなく結理先輩だった。今は光先輩のロードバイクを空気圧チェックしている。

 その様子を見て、愛紗は首を傾げた。

「結理先輩って事前に準備してそうですけど、直前でバタバタやってるなんて珍しいですね」

「仏式のチューブは高圧な分、空気が抜けやすい……チェックは出発の前が普通」

「そうなんだ」

「中の人が誰かでも……空気の抜け方は違う」

「中の人?」

 自転車って中も人力だったのか。奥が深い。

「チューブは主に二種類。安くて重めで空気の抜けが少ない、合成ゴムのブチル……そして高くて乗り心地の良くて軽めだが空気が抜けやすい、天然ゴムのラテックス。このラテックスはチューブラーと呼ばれるタイヤでも使われる」

「チューブラー?」

「昔のタイプだけど、メリットが多いからレースでは良く使われるタイプ。トラブル時に交換が大変だから、イザという時に使う物。最近は中の人がいないチューブレスタイヤもある。それぞれホイールが違うから、タイプを変えようとすると課金が必要」

「私にはまだ、縁の無さそうな世界ですね」

「チューブは通常と軽量の二種類有る。軽量チューブは、軽量にした代わりにパンクのリスクが高まる。これはブチルもラテックスも同じ。でも、パンクするかしないかは、最終的に運」

「なるほど」

 喋りながらも空気圧チェックをしていた結理先輩は、程なくして三台目である愛紗のクロスバイクもチェックし、

「……終わり」

 と、フロアポンプの片付けを始めた。

「よぉし、出発できるぞぉ!」

 なぜか一番気合いが入っていたのは、光先輩だった。

「ちなみに、今日走る距離はあそこまで気合いを入れる距離でもない」

 愛紗のそばにいた結理先輩が、光先輩を親指で差しながら言う。

「でも、歩くと遠い距離ですよね?」

「片道三キロ無いぐらい。往復でも十キロ行かない。歩くと遠い距離でも、自転車に乗ればすぐの距離」

「便利な乗り物ですね」

「私ももっと早く出会えれば良かった。サイズが無いと思ってたから、メカニックこっちの道へ進んだのに」

 まったく選択肢が無い訳では無いが、小柄の人向けの自転車は選択肢が少ない。特に結理のような一五〇センチを切るような身長だと、かなり選択肢が少ない。有ってもフレームサイズだけが考慮してあって、取り付けてあるパーツは考慮されていないというパターンも有る。

 今のクロスバイクは、結理にとって最適な一台だった。

「でも、メカニックも悪くないよ。非シマノをシマノにしたり、シマノじゃなかったらシマノにしたり……ふふふ」

 さすが、自好部の部員だけあって、結理先輩も少し変わってる。

 そう言えばクロスバイク持ってきたら、いきなりシマノパーツに交換してたな。

 シマノの何が、そんなに魅力的なんだろう。

「でも、そんなにシマノが好きなら、本体もシマノにすればいいのに。サイズが無いんですか?」

 愛紗がそう聞くと、結理先輩の表情は曇った。

「え、本当にサイズ無いんですか?」

 軽々しく聞いたのは失敗だったかと思う。

「いや、フレームとタイヤはシマノ製が無い。ロードレースのニュートラルカーも、そんな感じのロードバイクを積んでる」

 ニュートラルカーとは、チーム関係無く利用出来るトラブル時のサポートカーで、有名なのは黄色いマヴィックカーと青いシマノカーである。

 フレーム破断等の重症時用に予備のロードバイクも積んでいるが、ビンディングペダルが合わない、自転車のサイズが合わないなんて事もある。あくまで、チームカーが間に合わない時の緊急用だ。

「飲み物どうしよっかなぁ」

 光先輩は冷蔵庫の前をウロウロしながら、独り言を呟いていた。

「持っていけば? 無くて後悔するより、万全の備え。私は水を持って行く」

 結理先輩はボトルをケージに載せていた。

「じゃ、いっかー。郊外に行く訳じゃ無いから、必要なら手に入るだろうし。愛紗ちゃんは何か持ってきた?」

「はい。これで」

 愛紗はキャップを取り替えたミネラルウォーターのペットボトルを振って見せた。これなら投資額は百十円で済む。ボトルはそんなに高い物でもないが、最初にお金をかけすぎたので、削れる所は削った結果だった。別に今すぐ全部揃えないといけない訳じゃあ無い。必要になってからでいい。安くてカワイイジュラルミン製のペットボトルケージを付けたので、ボトルにするならゲージも交換になるのだが。

「んじゃあ、今度こそ行きますかぁ」

 光先輩は壁のフックにぶら下げていたネットバッグを手に取った。この部室に初めて来た時、疑問に思った物体だ。

 そのネットバッグの中から取り出した謎物体は、ヘルメットだった。

「それ、ヘルメットだったんですね。スイカでは無いと思ってましたが」

「なんでスイカをここにかけるのよ。ヘルメットをただ置くだけだと場所ないし、保管棚を作ろうにも、そんな技術ないし、かといってそのままフックとかに引っかけると、自重で中の緩衝材に影響あるんじゃないかなーってことで、この形になったのよ」

 愛紗は自分の部屋にヘルメットを保管しているが、玄関にこうやってぶら下げるのもアリかなと思ったのであった。


 三人は自転車を押して正門まで出てきた。

 距離が無いとはいえ、この周辺は住宅街で道路は狭い。大通りは大通りで車の往来が多いが、車線の数も少なくて道路幅もそこまで広くない。自歩道になっている事も多いが、歩行者も多い。なかなかに苦労する。

 この県では、鉄道は炭鉱、炭都を繋ぐように線路が作られてきた。石炭産業が盛んな頃は、県北の石炭積み出し港そばに有る駅が、県で一番格上の駅だった。

 そんな鉄道網も、エネルギー革命に伴う炭鉱閉山による衰退で、相次いで廃線となっていった。格の高かった積み出し港そばの駅も、今では朝の時間帯以外は無人である。

 そういった理由も有り、バス、車を中心とした社会として発展していく。市内を東西に走っていた私鉄の路面電車も、車社会化の波にのまれて国鉄の一部路線を巻き込みつつ市営地下鉄へと変わった。

 こうして形成された車社会だが、車バスが多い割に道路が狭い。この都市まちの大きな欠点だ。慢性的な渋滞は悩みの種となっている。

「今回、そんなに危険じゃないルートは選んだつもり」

 ルート作成をした光先輩が言う。

 あまり走行経験の無い愛紗には、危険の程度が分からない。事前にルートは見せてもらったが、あまり通らない裏道が中心だった。イメージが出来ない。

「危険じゃないと言っても、車がまったくいないワケじゃないから、その辺は気をつけてね」

 気をつけてと言っても、どう気をつけるのか。

 愛紗はふと視線を感じた。その方向を見てみると、結理先輩がじーっと見ていた。

 不安が顔に出てたかな?

 そう思っていると、結理先輩が一言。

「……大丈夫。殿しんがりは任せて」

 いや、しんがりってなに? コーン?

 別の疑問が増えてしまった中の出発となってしまった。


 三人は学校を出て川沿いの道を走っていた。

 先頭に光先輩、後ろに結理先輩。間には愛紗がいる。

 ここは区の南西部からの抜け道になっていて車通りもそこそこあるが、他の自転車も走っている事が多い。それらに紛れる形で走る。

 川沿いの道から、再開発地域の方へと抜ける。再開発地域は自歩道になっており、幅もそれなりに広いが車道をそのまま進む。

「うわぁ、この辺随分と変わってる。こんなんじゃ無かったですよ」

「来たことないの? 家近いのに」

「通らないですよ、この辺は」

 さらに進み橋を渡ると、交差点を左に曲がる。右手には、紡績工場跡地に作られた大きな商業施設が見える。紡績工場跡と言っても、工場自体は昭和三十年代に閉鎖されており、その後はボウリング場やゴルフ練習場、プール等を経て平成の時代に商業施設へと変わった。

 左手には川を挟んで西日本一とも言われたりする歓楽街が有る。まだまだ明るいので静かだ。

 まぁ、夜もある意味明るいのだが。

 ここには佐賀の呼子店が有名過ぎて支店と思われがちな活魚料理店の本店が有る。

 商業施設の前を通り抜け、ポンプ場の辺りで東西に走る国道へと出てきた。

 ここの少し複雑で大きな交差点は渕上とも呼ばれる。

 一本隣にある駅から延びている道路側の角に、呉服店から百貨店、そしてスーパーマーケットへと転換してきた店があったのが由来だ。スーパーマーケットは大手に吸収されてしまったものの、店舗名として残っていた。それも、また別の大手に吸収されて名前も消えてしまったが、今でも昔の名前で呼ばれる事は多い。

 国道に入って次の信号を曲がると、目的地の櫛田くしだ神社に到着である。

 櫛田神社は千二百年以上の歴史があり、博多総鎮守として有名だ。

 三大祭りの一つである博多祇園山笠は櫛田神社の奉納神事であり、この時期が近付くと参加者は長法被はっぴという正装で街を歩く。

 なお、三大祭りの残りは、


 ・博多どんたく港まつり

 ・ルミエール創業祭


 となっており、いずれも多くの人出で賑わう。


「ねぇ……思ったけど」

手水舎で身を清め、中神門へ近付いた所で、結理先輩が口を開いた。

「櫛田神社の御利益って、商売繁盛、不老長寿、縁結びだった気がする……次回の部活の安全を祈願するのに合ってるの?」

「まずは、愛紗ちゃんと自転車の縁を結んでくれたことに感謝してお礼を言うのよ。不老長寿――なんだから、事故にも遭わず、無事帰って来れるってことでしょ? 商売繁盛――お小遣い増えますように! カンペキじゃない!」

 光先輩の解釈が合ってるかどうかは別にして、山笠の時も櫛田神社ここで安全祈願をしているんだ。きっと大丈夫と思いつつ、拝殿で旅の無事を祈る事にした。


「お櫛田さんに、なんばお願いしたとね?」

「なーいしょっ。結理先輩は?」

「そりゃあ、内緒くさぁ」

「こすかーっ!」


「――あんたら、なにしてんの?」

 楼門の端に座って話す結理先輩と愛紗に我慢出来ず、光先輩は思わず割り込んでしまった。

「ダメですよ、光先輩。光先輩は寝っ転がってクシャミする役ですよ」

「やらねえよ?」

「普通の人だったら、ここで通りもんごっこやりたくなるじゃないですか」

 結理先輩は黙って頷く。

「いや、ねえよ」

「ま、通りもんば食べんね」

 結理先輩がそっと薄い黄色の個包装に包まれた通りもんを差し出した。

 通りもんと言えば、駅や空港でもお土産として人気のお菓子で、しっとりした薄めの皮とぎっしり詰まったなめらかな白あん、そして口の中に広がるバターの香りで幸せになれる饅頭である。

 日本における饅頭は、宋で修行して帰国しこの地にお寺を開いた僧が、お世話になった茶屋の主人に酒饅頭の作り方を伝授したのが始まりと言われている。

「持ってきてるんかーい!」

 と言いつつ、光先輩は通りもんを受け取る。

「貰うけどね。おいしいから」

「貰うんですか……」

 まぁ、断る理由も無いだろうが。

「平田さん、安心して。みんなの分有るから」

 結理先輩はもう一つ、通りもんを取り出していた。

 愛紗も通りもんを貰う。断る理由は無い。

「これで『好いとう編』が出来る」

「やりましょう、結理先輩。光先輩は『俺を?』と聞く男の子役で」

「いや、やらねえよ」


 三人は周囲にある末社も回ったり、常設の飾り山を見た後、手水舎近くの休憩所へと戻ってきた。ここには飲料の自販機やイスが有り、参拝者が休憩出来るようになっている。

「今回、プレデビューってことで短ぁい距離だったけど、どうだった?」

 光先輩が自販機で買ったミネラルウォーターを飲みながら、愛紗に聞く。

「なんか、すごく近所感覚でしたね。うちから博多駅まで歩くより早かったですよ」

「移動速度違うからね。自転車は十キロがすぐソコと感じるようになってからが、本番だから」

「え、十キロって遠いですよ?」

 これは一般人の普通の反応である。自転車を趣味とする人は、この辺りの感覚がマヒしている。

「本格的に乗るようになれば、近く感じるのよ。十キロか……短いなって思うようになるから」

「もっと乗りたいって事ですか?」

「そ。だからこの辺りまで行けるんじゃないかなって行動範囲が少しずつ広がっていくから。そのうち、市内大体どこでも行けるようになるんじゃないかな? 半径二十キロも進めば市外に出るし、山越えする気力があるなら、佐賀へも行けちゃう。山じゃなくて海岸沿いで行くなら四十キロぐらい走るけど」

「まず、この市の広さにビックリなんですが」

「自分の住んでる市のことぐらい知っておこうよ……まぁ、あたしも自分が住んでる町を全部知ってるワケじゃないけど。これでも狭いからね? この市。北九州や熊本の方が広いんだから」

 狭いのに、自分の住んでる市のことを全然知らない。それは少し勿体ないような気がしてきた。もっと知りたいという思いが湧いてくる。

 まずは次回行く志賀島だ。ここも市内とはいえ、行った事が無い。

「長い距離を走ろうとするなら、体力をいかに温存するか。それにかかってる。だからこそ、効率よく漕ぐようにするのよ。体力を使わないようにね。体力使わないようにとは言っても、それなりのカロリー消費はあるけどね。運動強度を高めれば、それだけカロリー消費も増える。でも、行き先でおいしいもの食べちゃうから、結局プラスマイナスゼロのような気がしちゃうんだけどね」

「それは……有る」

「いや、ユリの場合はいつも食べてるでしょ」

「そんな事……無い」

 自転車は奥が深い。もっと長い距離を走れば、違う感じ方をするのだろうか。

 次回、走るのが楽しみになってきた。

「さーて」

 そう言って光先輩が立ち上がった。サザエさんの次回予告かな?

「帰りは別の神社寄って帰るよ。小判が有るから、授かっていきたい」

「……住吉? そっち行くなら、柳橋やなぎばしで角天買いたい」

 自由すぎるな、この先輩たち。

 この自由さが、自転車の魅力なのかもしれない。

 次回、本格デビューだ!

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