第3話 花火の夜

「お母さんに怒られないのか?」

「大丈夫、大丈夫。」


夜、こっそり会える時間がドキドキして嬉しかった。


何気ない話をしたり、時には中庭でデートをしたり...以前と変わらない様だったが、


違う所があった。


それは恋人同士だという事。


何気ない話の時にも手を繋ぎ、中庭のデートでもずっと手を繋ぎ...抱き締め合う事もあった。


思っていた通りの青春色。

心臓が追いつかないぐらいの幸せを感じる。

彼女の事をこんなにも可愛く、愛しく思う。


もう、死ぬ事なんて忘れていた。


5日目が過ぎ...

「明日、花火が見たい。」

とほのかが言いだした。


「確か明日は花火大会だ。中庭から一緒に見よう。」


ちょうど明日でお別れだ。最後の思い出に花火を見るのはいいな。


死ぬ前にくれた夢の様な時間たち。

ようやく僕は生きたいと思う様になった。

でも、もう...遅い。



6日目


彼女は浴衣を着て現れた。


恥ずかしくて見れないぐらい...可愛い。

長い髪も後ろで束ね、大人っぽい。

あぁ、最後にこんな姿...ズルすぎるだろ。


いつもの様に手を繋ぎ、中庭へ向かう。


...ドーーン!


「花火始まってる。急ごう!」

指を絡ませる様に繋ぎ直し、急いで走る。


...ドーーン!

...ドーーン!


「キレイ!」

「キレイだな。」


夜空へ花火が舞い上がる。


もう僕には彼女しか見えなかった。

この花火の様な儚い恋をもっと胸に焼き付けたい。もっともっと一緒に居たい。


「好きだ。ほのか。」

たくさん伝えたい。


2人の唇が重なる。

それは最初で最後のキス...。


2人は涙を流しながら、強く抱き締め合う。


「私も好きだよ。だから...たっちゃんと一緒に行ってもいい?」


「?どういう事?」


パッと離れ、彼女は話し出した。

「まだ秘密があるの。」


「実は私...眠っているの。この病院で。」


「え?!」


「たっちゃんの病気を知ってすぐ会いたくて、学校終わりに病院に向かっていた時に...

トラックに跳ねられた。」


「頭を強く打って、それから眠っているんだ。」


「え?!」

...眠ってる? じゃあ目の前のほのかは?


「たっちゃんの前に現れた日に事故に合って、だから今の私は魂?みたいなものかな?」

「まだ死んでないから違うか...何だろう?会いたいって思ってたらこの姿になって、会いに来ちゃった。」


「6日間眠ってるって事か?」


「うん、そうかな。」


「じゃあすぐ戻って、目を覚さなきゃ。」


「何で?たっちゃんが死んじゃうなら私も一緒に死にたい。」


「お前は死んだらだめだ。生きなきゃいけない。」


「離れるなんて...嫌だ!」

彼女は泣きながらしがみつく。


離れたくない...でも

ほのかには生きてほしい。

僕の分も生きてほしい。


「よしっ、じゃあこうしよう。」


「僕も1日でも長く生きるから、だからほのかも生きて。」


「分かった...。勝手に死んだら許さない。」


また強く抱き締め合う。


...どうか神様...僕は死んでもいいから...

彼女だけは救って下さい。


彼女と別れ...

幸せだった日々を思い出しながら...

僕は深い眠りへとつく。

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