第2話 ベランダ

 まだ僕が幼い頃の話。

 姉と二人で家で遊んでいて、ベランダに出た。

 当時住んでいた家は9階にあり、ベランダから向こう側は手前にマンションの敷地の庭、その先は電電公社(現・NTT)の建物が見える。

 家の中では、遊びに来ていた祖父と談笑しながら、母が掃除機を掛けていた。


 何故、そうなったのか。

 ベランダの向こう側に僕が落ちそうになってしまった。

 姉は必死に僕の腕を掴みながら、部屋の中にいる祖父と母に助けを求めた。

 しかし、掃除機の音にかき消されているのか、サッシがしっかり閉まっているからか、声は届いていない様子だった。

 幼い姉は僕の体重を支えるのが辛くなってくる……。


 もうダメだ、と思った瞬間、祖父が異変に気付き、物凄い形相で駆け寄って助けてくれた。


 ……大きくなってから、姉とこの話をしていると、母も祖父も覚えが無いという。


 え?

 いやいやいや。

 あったよね?

 あったよ。

 僕がベランダから落ちそうになって、

 そうそう。私が掴んでて。

 助けて!って言っても掃除機の音で聴こえて無い様子で。

 そうそう!

 じいちゃんが助けに来てくれてさ。

 うん。


 姉と僕の記憶は同じなのに、母も祖父も覚えていない。


 この話を聞いた人は皆、口を揃えて「夢でも見たのだろう」という。


 確かに夢の中の出来事だった様な気もする。


 でも、夢なら夢で二人揃って同じ内容のものを見るだろうか?

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