第23話 党員#3 男のいない村 その23

一時的に頬を紅く染めていた嫁さんだったが・・・


『あなたの身体の調子を万全の状態に整えて、送り出すのが私の役目なのに

私ときたら・・・』


涙目になってきている嫁さん。


『あなたと一緒にいたい、離れたくない、離れたくない、離れたくないんです!』


男冥利に尽きる言葉と受け取っていいんだろう、とは思う。


『わがままなのは自分でも分かっています。 でも・・・

どうしたらいいか、全く分からないんです!』


困った事に俺もどうしていいか・・・答えが出せないでいる。


だが、そんな俺の事情なんぞお構いなく尿意ってヤツは起きるもの。


『・・・そこの細い扉が開いている所を使ってください。』


さすがは俺の嫁さん。 俺の心と身体、その隅々まで知り尽くしている。


その細い部屋に入ってみると・・・ 通常のトイレ同様せまい造りだが、

決定的に違う点。    そこには便器が存在せず、あるのは白い砂だけ。

やけに明るいな、と思ったら・・・ ちゃんと日の光が入ってくるように

なっていたのだった。


それにしても・・・ 思いのほかよく出る。

やはり、朝立ち&シタ後はこんな感じなのか・・・


すぐそばに神社の手水(ちょうず)を思わせる所があった。

その岩は日本の古代遺跡の【洒石】を連想させる。

テーブル大の岩に開けられた丸い穴。

そこからこんこんと湧き出る、澄んだ水。

それぞれ三本、「木の字」の下半分のように掘られた溝に沿って流れ落ちていく。

手と顔を軽く洗ってみると、ある事に気付いた。


「この水って・・・」

手で掬って一口飲んでみた。

「!!!」

いくら味音痴気味な俺でも分かる、日本の名水百選級の水。

ただの水を素直に「美味い!」と思ったのは、もう何年ぶりになるか。

二口、三口と飲んだ時、何かが俺の視界に入った。


今まで立ち入らなかった奥の部屋の・・・ その廊下。

見覚えのある物が・・・置いてあるように見える。


「ああ、間違いない!」

そこにあるのは、俺の登山道具一式。


・・・そうだ、中身は・・・??


バックパックを開けてみると・・・

「やっぱりな、そうだと思ったよ。」


タブレットは見事なまでに画面の亀裂が・・・

では、肝心のスマホはどうなんだ?


驚いたことに・・・無事だ。

一応、ONにしてみる。


電池の図形の赤。 それが点滅して、消えた。

「ということは・・・ 充電すれば!」


・・・ACアダプターはハナっから持って来てなかったような・・・

確か、アレは持って来たよな・・・


頼みの綱の、スマホ用ソーラーパネル。  一応、見つかったが・・・

タブレットみたいに亀裂が入っていたり、断線してなければ使えるはず。

見たところ、ヤバい傷などは無さそうだ。

で、イケるのか??


ともかく、日の当たる場所に置いて様子を見るしかない。

さて、俺のスマホとソーラーパネルをどこに置いてチャージしようか・・・


と、振り返った時・・・ いつの間にか、嫁さんがそこにいた。


俺の頭の中でゴゴゴゴゴゴゴ・・・ という、運命が動き出す音(俺解釈)が鳴り響いているような気がした。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る