第20話 党員#3 男のいない村 その20
疫病神的な存在だった〝乱暴者〟は死んだ。
取り敢えず村人たちは安堵したようだったが、(当時12歳の)嫁さんには
まだまだやらなければならない仕事があった。
『あと、二つ・・・ 私にしかできない仕事・・・ですね。』
大けがを負った少女の延命処置に、後先考えないほどの全力で秘術を注ぎ込んだ当時の嫁さん。 やはり、その反動は大きかったようだった。
少女の容態が峠を越えたと、分かった途端・・・
崩れ落ちるように倒れた嫁さん。
意識はハッキリしているどころか、頭は冴えまくっているのに・・・
長時間正座した直後の足に起こる、例の〝痺れ〟。
それが全身に起きていたのだった。
身動きできなくなってしまった嫁さんの様子を見かねた村人の一人が、何かを持ってきた。
村人の両手に、何かが入っている木のお椀。
それぞれ(木の)スプーンが差し込まれている。
『で、私に何かを食べさせてくれるのか飲ませてくれるのだろうと・・・』
嫁さんの頭を膝枕にして、もう一人の村人がスプーンで口に運んでくれた。
『ハチミツにお湯を少し加えて濃いめに溶かした飲み物と、数種類の木の実を粉砕し、ペースト状にしたものを食べさせていただきました。』
「どんな味だったんですか?」
『砕いた木の実は、まあそれなりにだったんですけど、ハチミツは激甘でした。』
こうした村人の手助けもあって、嫁さんの体力は徐々に回復していった。
そして、あと二つ・・・ 嫁さんにしかできない仕事。
一つは、〝乱暴者〟の「火葬」。
ん・・・? でも、それって村人たちで普通に執り行いできるのでは?
そう思ったのだが・・・ やはり、それなりの理由はあった。
『自分が死んだという自覚が無い魂は、未練がましく元の体の周りをうろつきます。
一度身体から離れてしまっては、もう元に戻るなんて不可能なのに・・・
このままでは〝動く死人〟となってしまうか、死んだ動物に憑依して魔獣と化して
しまう恐れがあります。
そうなってしまう前に、私が何とかしなければなりませんでした。』
そうだった。 そういう事が起こりうる世界でもあったのだ。
火葬を執り行う準備として、破壊された家屋が廃材として搔き集められた。
そして、場所として選ばれた所は・・・
土器(焼物)等を焼く竃だった。
その竃に廃材が敷き詰められ、〝乱暴者〟の死体がその上に乗せられて・・・
どうやら準備は完了したようだった。
だが、村人の一人が懸命に火を起こそうとするも、煙が少し立ち昇るだけ。
そんな苦心している村人を制し、嫁さんはある行動に出る。
当時12歳の嫁さんは、着ている服を脱いで全裸になった。
そして、股間に指を入れ、何かを取り出した。
大きさは鶏卵ほどの、透明な水晶玉のような物体。
それを再び股間に押し当てると・・・
水晶玉のような物体は、見る見るうちに赤く染まっていった。
12歳少女の経血。
水晶玉のような物体の中心部に鈍く光が灯り始める。
その様子を確認すると、血まみれの太もも内側を気にする素振りも無く竃の方へ
近付いていき、その玉を死体のみぞおち部分に置いた。
さらに、紅葉のように赤い尖った形状の葉を8枚放射状に置くと・・・
煙のようで綿埃のようにも見える、何かの塊りが竃の上に現れた。
その煙玉のような何かは、数分間その場に浮遊。
吸い込まれていくのか、取り込もうとし始めたのか・・・
死体に置かれた玉へ徐々に集まっていくように見えた。
次第に煙玉が消え、死体に置かれた玉に曇ったような濁りが生じると・・・
パァン!!
嫁さんが柏手(かしわで)のように強く手を叩いた音だった。
さらに、玉の置いてある方向に向かって何か字を書くような仕草。
回数にして17回。
そして、もう一度・・・ パァン!! と、強く手を叩いた。
すると・・・
死体に置かれた玉の中心部が光り輝き始めた。
その光量はどんどん増していく。
眩し過ぎて直視し辛くなった時、死体の下に敷かれた廃材に引火。
〝乱暴者〟の死体は炎に包まれていった。
周囲のあまりの熱さに、近くで見守っていた村人たちは堪らず避難。
その場にへたり込んでいた嫁さんも村人に抱きかかえられ、一緒に避難した。
かれこれ、もう4時間は燃え続けているだろうか。
すでに夜は更けているが、竃の周囲は充分に明るい。
村人は誰ひとりとしてその場から帰ろうとせず、それぞれ食べ物や飲み物が
振る舞われるなど、さながらキャンプファイヤーというイベントを楽しんでいる
ようでもあった。
朝になって、ようやく火は消えた。
竃全体が変に綺麗な色になっており、その内側は表面がガラスコーティングされた
ようになっていた。
竃の内部は・・・
骨、廃材、火を起こした玉。 全て白い灰と化していたのだった。
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