第19話 党員#3 男のいない村 その19
「その双子・・・二人とも殺されてしまった・・・?」
『片方は生き延びています。 ですから、こうやって経緯をあなたにお話できる
訳ですね。』
「・・・??」
〝乱暴者〟は、村人二人分の大きさのカメに貯蔵してあった【酒】を相当気にいったらしく、乾ききった喉を水で潤すようにがぶ飲みしたのだった。
やがて〝乱暴者〟は、すっかり酔いつぶれてしまい・・・
その場に寝込んでしまうと、大イビキを掻き始めた。
そのうるさいイビキ音を聞きつけたのか、村人が様子を見に集まり・・・
中の惨状を見たとたん、一斉に悲鳴があがった。
『そんな時に、私が到着したんですね。村人の悲鳴がはっきりと聞こえましたから、
これはもう・・・ただ事ではないと、私も〝祭儀場〟に駆けつけた訳です。』
その凄惨な現場を見た限り、二人は助からないだろうという雰囲気の村人。
肩から脇腹辺りまで切られた、もう一人の少女を見た当時12歳の頃の嫁さんは、
何を思ったか、プチン!と切れたように回復魔法を発動させた。
透明な水晶玉の中心部に星がきらめいているような球を患部に当て、傷口を見る見るうちに塞いでいき、ポーションのような液体薬で水分補給と同時に回復を促す。
その行程を何度か繰り返し、あとは念を送り込むように手を翳し、少女の意識の回復をひたすら待ち続けた。
少女を何とかして救命しようとしている、当時12歳の嫁さんを見守っていた多くの村人が、ある事に気付いた。
いつの間にか、〝乱暴者〟からイビキ音が聞こえなくなっていたのだった。
恐る恐る、村人の一人が様子を確認してみると・・・
まず、呼吸する時の腹(胸)の動きが止まっている。
顔の辺りに手を翳して見ても、鼻息が当たってくる感じは無い。
手首の動脈が通っている位置に指を当てて見ても・・・
一定のリズムを刻んでくる感じが全く伝わって来ない。
何より、腕が真っ直ぐに伸びたまま、肘が曲がらなくなっていた。(膝も)
この様子から、現場にいる村人たちが話し合って出した結論は・・・
『間違いなく、死亡している』だった。
「その男、何で死んでしまったんですか?」
『私も後で知ったんですが、それは【祭儀用の酒】を大量に飲んでしまったから
・・・なんだそうです。』
「・・・??」
どうやら、子供が産まれた等の祝い事があった時に〝祭儀場〟で【使われる酒】で、
それは決して飲用するためにある物ではない、との事。
では、どう使うか?と言うと・・・
村人4人がかりで運び込まれた平たい一枚岩を〝祭儀場〟中央にある竃に置き、予め置かれていた薪に火を放ち、その平たい一枚岩をひたすら加熱、いわゆる焼け石状態にさせるのだそう。
ここで、【使われる酒】の出番。
カメに入っているその酒を柄杓で少し救い、焼け石状態の一枚岩に振りかける。
当然のこと、ジュウッと音を立てて一気に蒸発する訳だが・・・
その目的はただひとつ。
〝祭儀場〟一帯を、何とも香しい匂いで覆うためであった。
つまり、この酒はいい匂いを味わうためだけに作られたもの。
肝心要なのは、その香りの成分。
まず最初に【素の酒】を作っておく。
そして、香りの元である絶妙に配合された原材料植物を漬け込む訳だが、それぞれの
原材料に違った前処理の方法が施されるらしい。
採取したばかりの物を、適度な小ささまで刻んでそのまま投入したり、
ある物は天日干しにして、中の水分を徹底的に抜いてから投入・・・だったり、
堅い木の実の一種は(コーヒー豆のように)煎って、表面に亀裂を生じさせてから…
等々、などなど。
でも、それらの原材料に共通しているのは・・・
【素の酒】でないと、香りの成分が溶け込んでいく状態にならないのだそう。
さながら・・・梅酒のように香り成分の原材料を漬け込み、ウイスキーのように長い年月をかけ、熟成させて完成させる酒、というのは取り敢えず理解できた。
それにしても・・・
いくら多量に吞んだとは言え、飲酒しただけで人は簡単に死んでしまうものなのか?
疑問に思った俺は嫁さんに訊いてみた。
「何か他にも原因があるのでは?」
『あれは・・・飲んではいけないお酒なんです。 原因はそれだけですね。』
更に詳しく話を聞いてみると・・・
【祭儀用の酒】は、香りを際立たせる研究が進むにつれて飲用不可の度合いが増していったが、皮肉な事に味わいも向上していったらしい。
では、何故飲用不可なのか?
それは、複数の原材料から抽出された成分が・・・
【猛毒】
昔、酒を作る担当の村人の一人が酒の出来を確かめるため、ほんの軽い気持ちで味見したところ・・・
「すごく美味い!」と言って、柄杓4杯も立て続けに飲んでしまった。
あとは、〝乱暴者〟と同じ末路。
すぐ近くに目撃者もいたため、直ちに村中へ知らされた。
以後、村の『絶対に守らなければならない掟』として制定されたという。
『その後、似たような〝乱暴者〟が侵入した出来事の話は聞いていませんね。』
〝乱暴者〟にとっては、文字通り「死ぬほど美味い酒」だったのだろうか。
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