6-3

萌奈さんの言葉に私は少し反応が遅れてしまった


学校か…小学生の時に行ってたけどそれ以降は研究所にいたからな


最近になって私は十三歳になった


この年なら中学一年生だろうか…だけど私は学校に通うという選択をするべきか考えたことがあった。


だけど…分からない


人付き合いが苦手なのに、なんの力の持たない義獣人にしか分からない苦しみを共有することすら出来ないただの人間と友達ごっこをするのは気が進まないのだ。


勉強はニコのおかげで心配する必要はない…だからこそ学校に行く意味がわからないでいるのだ



「学校に行ったところで…私が学ぶことはあるのか分からない」


「そりゃあそうだよ


そのわからないを知るための学校なんだから」



私は萌奈さんの言葉の意味がよく理解できなかった


わからないを知ることが学校に行く意味なら行ってみてもいいのかもしれない


モヤッとするような、なにか足りない満たされない気持ち


こんな感情を放っておいてもいいのだろうか?



「学校に行くことって義獣人の私に許されることなのかな」


「なんでそう思ったの?」



なぜ...か


私達義獣人は本来いてはいけない存在だ


人間が得てはいけない禁断の果実を求めてないのに食らってしまった私は化け物になった。


化物が人間といても良いのだろうか、いい訳がない



「義獣人はこの力を人間に振っるたらいけない


秋元のおじさんが決めたルールを破ることは許されない」


「わかっているのなら学校に行ってもいいんじゃない?」



わかってはいる...だけどいつか必ずボロが出て私が化け物だと知られてしまう


それが怖くて学校に行くのが怖い



「義獣人を知らない子供と一緒にいると騙してる気分になるよ...」


「なるほどね...リューコちゃんは優しい女の子になったんだね


篠原隊長にそっくりだよ!」



嬉しそうに笑って頭をガシガシとつかんで撫でる萌奈さんに驚いていると私と視線を合わせるように腰を下ろした。



「人は誰だって初めてを恐れるもの


リューコちゃんみたいな優しい子は騙すことも騙されるも人一倍悲しいと感じてしまうものよ


だけど、それを克服して乗り越えて先に進むものなの


確かに私達は元人間の義獣人よ、だけど心は人間のままだから


きっとリューコちゃんは学校で素晴らしい出会いや発見をするわ!」



萌奈さんの言葉と笑顔に心がポカポカする…この感情は忘れちゃダメだし手放してはいけないものだということはわかるんだ。


彼女の真っ直ぐな黒い瞳を見ていると何故かポチを思い出した


だけど今はそんなことよりもこの気持ちを口に出さなきゃ


伝えたいことは口に出さないと何も伝わらないし始まらない



「萌奈さん...こんな私でも学校に行くことが許されるのなら


私は学校に行って知らないことを学んでみたい」


「...!


それがリューコちゃんの答えなら応援しちゃう」



ガシガシと乱暴でそれでいて優しくも感じる頭の撫で方を覚えた私はそれを素直に受け取ってぺこりとお辞儀をした。


しかし学校に行ってみたいとは言ったものの私はどうすれば良いのだろうか


私の中で生まれた不安に気付くことなく、学校に行く本人よりもウキウキな様子の萌奈さん




一瞬だけ夜空と青色の髪の毛が混じりあって彼女の姿を見失ってしまった。




「…っ萌奈さん!」




存在が無くなってしまったという事実を否定したくて伸ばした手はしっかりと細く柔らかい腕を掴んでいた。


なぜ私の背中を押してくれた彼女が見えなくなってしまったか、あの時はわからなかった


突然腕を掴まれて驚きを隠せていない萌奈さんは、私の名前を呟いて首を傾げることしか出来なかった。



「ごめんなさい…なんでもないの」




大丈夫、萌奈さんはまだここにいる


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