6-4
「私、学校に通ってみたい」
それをポチ達に言えば皆驚いていたけど、次第に笑顔になって今やっていることも忘れてどこかへ走って行ってしまった。
しかし困った…一人で食堂に行ってご飯を食べるなんて
そういえば一人になるのは久しぶりだな
でもやることは変わらない
列の最後尾から並んで食器を受け取り好きな料理を取るのだ
いわゆるバイキング形式だな…だけどこの食堂にもルールがあって「配られた野菜は食べることと絶対に残さず食べること」である
全く…餓鬼じゃないんだからそんなルールあってもなくても変わらないでしょ
大人ならバランスよく食事することなんて難しくないはずだ。
「あれ…リューコちゃん?
今日は一人なの?」
私にそう話しかけてきたのは紫雨さん
義獣人隊情報科の森 紫雨さんは飛行可能の義獣人でタイプはグリフォン
相変わらず太陽みたいにキラキラ輝くオレンジ混じりの金髪である
「一人じゃだめなの?」
「いやそういう訳じゃなくて…いつもは特別部隊の皆さんと一緒に食べてるからさ
一人で来てたから不思議に思ったんだ。」
なるほど…少しだけネガティブになっていたようだ
確かに私はいつもはポチ達と一緒にご飯を食べてるから今日みたいなことがあれば紫雨さんのように考える人も少なくはないはずだ。
「じゃあ...一緒に食べようよ」
私からの提案は初めてかもしれない
だって普段の私といえば言われないと何もできない無能と言われても仕方がないやなやつだから
だから紫雨さんも驚きを隠せていない
なんでそんなに驚くかはわからないけど、私がご飯を一緒に食べようと提案することに驚いているのだけはわかる。
紫雨さんは丸くした目をそのままにしてクルリと方向転換をして先程別れた情報科の人達に対して叫んでいた。
「皆ぁぁぁ!!
俺はやったぞぉぉぉぉぉぉ!!」
うるさい…私達義獣人は五感が優れている人も少なくないから近くで叫ばれると頭が痛くなりそうだ。
叫ぶ紫雨さんを見てなんだなんだと集まった情報科の人達はちらりと私を見ながらも、呆れた顔で紫雨さんをじっと見ていた。
「紫雨さん…早く食べようよ」
「あっああそうだね!」
気持ち悪い程にニコニコの笑顔でこちらを見て席を取りに行こうとする紫雨さんを見てまさか…と呟いて隊長の玲音さんが私に聞いてきた。
「もしかして…紫雨はリューコちゃんとご飯を食べるとかそんなこと…」
「あぁそっか…じゃあ情報科の皆さんと一緒に食べませんか?夕食」
自己解決をしながら倒置法を利用して食事に誘えば、皆こちらを見て目を輝かせていた。
「紫雨!今すぐデザートのスイーツをコンビニで買ってきなさい!」
「イエッサー!!」
そこからは信じられないスピードと連携を見せた情報科の力によりパーティー会場と錯覚してしまうような料理が食卓に並んだ。
何この状況
私が求めていたのはこんな騒がしい環境ではない
でも情報科の人たちは私のために用意してくれたから、この場で私が席を離れる訳にもいかないからどうしよう。
「おいおい君たちはリューコを困らせるためにこんなことをしているのかい?」
突如聞こえた救世主と思われる声に皆が反応してそちらを向く。
そこには青白い月の光を連想させるような美しい銀髪のあいつがいた。
「ポチ...。」
「ゴメンな一人にさせて。他の隊員から情報科の部隊が騒いでいると聞いてまさかと思って来てみたんだ。
最近情報科の皆と仲がいいのはわかるけど流石にこんなに騒がれると困るよな?」
正解だ。
どういうわけかポチは私の考えていることを容易に理解できるからムズムズする。
ポチの言葉にうなずいていると急に情報科の人たちは静かになった。
「ごめんねリューコちゃん...私達はあなたから行動することが嬉しいの。だからつい頑張りすぎて空回るなんて日常茶飯事だから何かあったら指摘してほしいな。」
私に視線を合わせるようにしゃがんで優しく笑いかけてくる玲音さんを見ていると少し安心する。
紫雨さんはうるさいけどなんやかんやで優しくてちゃんと私を見てくれる。
「デザート買ってきました!...ってあれ?
もしかして俺たちまた空回りました?」
「そうみたい...とりあえずご飯はちゃんと食べましょう。
リューコちゃん、もしよければ一緒に食べない?」
両手にデザートの入った袋を持って戻ってきた紫雨さんはハッとして私に近づいて袋の中のチョコレートケーキを取り出して差し出してきた。
「チョコレート、好きでしょ?」
プラスチックケースに入ったチョコレートのクリームたっぷりのケーキに固く閉じていた口が緩んでそれを受け取った。
確かにチョコレートは大好物だ。甘いものは何でも好き
「情報科の皆さんにはいつも通りでいてほしい。だからご飯は楽しく食べよう。」
少しずつ、皆を知っていけばちょっとぐらいうるさくても大丈夫。
私はこれから成長するんだ。変わりゆく環境の変化に怖じけついている場合ではない。
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