プレタ･ジュテ 〜勇者が持ち帰った土産〜

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コツコツとヒールの音が廊下に響く

その隣ではぺたぺたとヒールのないカンフーシューズを履いて歩くトカゲがいた。

「リューコ…本当に着いてくるつもりなのか？」

「それもう六回目…ここまで来たんだから諦めてそのフレーズで私に話しかけるのやめて」

ため息をついてそう言う赤髪の少女は私を呆れ目で見てきた。

私も人のこと言えないけど目の下の隈が酷いな

義獣人の特徴とも言える目の下の隈は私にもある

そんなことよりもだ

私がこうやって心配そうにリューコに問いかけているのには理由がある

それは今ちょうど向かっている目的地｢保護ルーム｣

簡単に言うなら保護したばかりの情緒不安定な義獣人が落ち着くまでそこに隔離して監視する部屋だ。

そして今回私が話す相手は以前リューコが被害にあったサイコパスだ

被検体番号81086「弥生 希」

年齢は27歳で理系の大学を卒業後、外科医になったオカマである

かなり有名な医者であったが突然行方不明になった…どう考えたって義獣人としての適性があったから研究所で隔離されて人体実験を受けさせられたんだろうな

彼の義獣人タイプはオーガであり人型モンスターの中でもトップレベルの強靭な肉体と高い攻撃力が特徴的である

にしてはあの時の彼は獣人化していたにも関わらず弱かった

きっとあんな隠れ家みたいな場所で満足に食事をとることが出来なかったんだろう

そして今は目の前にあるドアの先で彼は生活している

まあ我々からすれば逃げることもしないから監視しやすい

ドアをノックして中から声が聞こえるのを待つと｢どうぞ｣と聞こえてドアノブに手を伸ばした。

「リューコはここにいろ

私達と彼の間には接触できないように壁があるけど、相手がどう動くかわからないから」

「わかった…」

まずは何かあってもすぐに対処出来る私が先に入る

そして大丈夫そうならリューコも中に入れるつもりだ。

そんなことを頭の中で考えて中に入るとそこには生活感のある部屋があった。

部屋が生きている感じがする

使われたベッド

読み途中の小説

紅茶を飲み干した空っぽのカップ

全てが部屋を生かすもののように見えた

そんな生活感のある部屋に私は入れない

なぜなら目の前にあるのは透明な強化ガラス

どんなに力の強い義獣人がタックルしても壊れることの無い優れ物である

「やあ弥生さん

お前の精神状況をチェックするために来た」

「あら…それはあなたの仕事では無いのでしょう？

こういうのは衛生科がやるんじゃなくて？」

相変わらずお上品な言葉を使うこと…

溜息をつきながら近くの椅子に座ると相手の目をじっと見つめながら今日やって来た理由を説明することにした。

「今日はただ精神状況を把握するために来たわけじゃない

ちょっと試したいことがあってな」

入ってきなさいと合図をすれば、ドアノブを回す音が聞こえた。

中に入ってきたのは赤毛の女の子リューコ

彼とは面識があるはずだ…あとは彼の反応を見るだけだがどうだ？