4-9

眠れない


満月の夜になると全員が部屋に籠り窓という窓全てのシャッターを降ろして一夜を過ごす


そんなルールを律儀に守る義獣人がいるのだろうか


なんて思うのは人間くらいだろうな


あの研究所での満月を利用した実験は酷かった


理性を失うという苦しみは計り知れない


一度獣になるのを許してしまえば二度と元に戻ることは出来ないと考える…それだけで恐ろしく皆このルールを守るのだ。



「コーヒーでも飲むか…」



満月の光が一切入らない部屋の灯りを着けると私は私物のコーヒーメーカーに手を伸ばした。


コーヒーの粉と水を入れてスイッチを入れるだけで後は機械が調節してくれるから便利なものだ。


科学技術の進歩はすごいものだ…と思いたいが劇的に変化することはあまりない


かつてはロボットが全てを解決してくれる未来がやってくるなんてこともあったな


確かにこの時代は人工知能の進化も凄まじいと思う


だけど、人間の惨さは変わっていなかった


我々義獣人を作り出す程の技術があることは証明されたのだろう…だけどそのせいで多くの市民が命を落としたことは事実なんだ。


私だってかつては普通の人間だった


日本人の特徴でもあった艶のある黒い髪はもうどこにもない


唯一私が日本人と証明できるのは黒い瞳だけ…それ以外は全て変わってしまった。



「……アイツは今どうしているのかな?」



ふと鏡に映った自分をじっと見つめてしまった。


ぺたぺたと自分の顔を触ってそこに自分がいることを確認すると、鏡から目を逸らして出来たてのコーヒーに手を伸ばす


相変わらず美味いな


こうやってコーヒーが安心して飲むことができるようになったのもお父さんのおかげなんだ


コーヒーは私のブーストアイテム


気持ちのブーストではなく身体的な意味だ



私達義獣人は普段の戦いでも強力であり脅威である


それに加えて義獣人ごとに合うブーストアイテムを使えばさらなる力を開放できる


だけど本当に皮肉だよね



よりによって私のブーストアイテムがコーヒーとかさ



「クソ胸糞悪いもんだ…」



こんな汚い言葉を呟いたところで私のブーストアイテムが変化するわけないか



「…寝よ」



例え眠くないとしても、コーヒーを飲んだとしても今は寝ないとダメだ



アイツを思い出さないためにも

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