4-3

「簡単に説明しちゃうとね


リューコちゃん、君は成長期に入ったんだよ」



成長期に入ったとは…?


それって私の体が大きくなって、少しずつ義獣人の力が馴染むようになってきたということか?


今まで成長しているという自覚も何もなかった



「リューコちゃんには辛いことを思い出させることになってしまうけど…


君、あの研究所にいても出ていっても大した食事をとってないでしょ?


今は十分な栄養と運動と教養があるからようやく心も身体も成長できるようになったんだよ」



そういう事か…


私に足りなかったのは心と身体の栄養だったというわけだ。


研究所でも少ない食事だったし、研究所から逃げても毎日食事を確保するのだって苦労した。


読み書きは児童養護施設で教えてもらったけど研究所ではそれ以上の知識は頭に入れようとも思わなかった。



「ここに来てから美味しいご飯が食べれて、ニコに勉強の楽しさを教えてもらった。


運動場に行けば皆が私と一緒にスポーツについて教えて一緒にやってくれるんだ。


成長に必要なものは…それだったんだ


大好きな人と共に過ごすことが私にとっては栄養だったんだ」



「そういうことだね…


君はとても良い人に巡り会うことが出来たんだね


義獣人隊の最高責任者である私にとってそれはとても喜ばしいことだし誇らしいよ」



そう言ってるおじさんは嬉しそうに涙を流していた。


やっぱりおじさんだから涙脆いんだね



「おじさん…皆には内緒だけどね


私、この義獣人隊の皆が大好きなんだ」



普段笑うことはあまりない私の笑顔を見て目を丸くしたおじさん


私は急に恥ずかしくなってその場を離れようと立ち上がると、別の方向から誰かがすすり泣く声がした。


声が聞こえる方を向いてみればぎょっとした


何故おじさんの部下の人まで泣いているんだ



「ぐずっ…リューコちゃん、短い間にこんなに立派になるなんて…!」


「感動しましたぁ~!」



すすり泣くと言うよりは号泣していると言った方が正しいのかこれは…。


でも言ってしまえばこの人達もまた私の特別訓練に付き合ってくれたんだ


毎回ただ火を吹くだけじゃなくてコツを教えてくれたり優しかった。


お礼を言わないとね



「皆さん、私の特訓に付き合って下さりありがとうございました」



何故かその場がシーンとなった


何かまずいことでも言ってしまったのだろうか?


私の言葉遣いは間違えてないはずだ








「……司令官、この子うちの部隊に引き入れていいですか?」


「ダメに決まってるでしょ特別部隊が怒るぞ」



真顔で私を抱き寄せたかと思えば突然のスカウトに驚いた。


それには秋元のおじさんも真顔で返していたけど…



「だってリューコちゃんがこの義獣人隊の最年少ですよね?


癒しが欲しいです~!」



私を抱きしめるこの人の言葉に強くうなずく大人達


盛り上がっているところ悪いのだが、私はポチ達から離れるつもりはない


だからこのいい人たちには悪いがお断りさせてもらう



「私はまだポチのもとにいないといけないから


だから私がほしいなら私のお母さんに言って」



私はこの人達がポチになんか言えるような人たちではないことを理解していた。


私だって自分の立場がどういうものなのかは理解している



「私はこの義獣人隊特殊部隊隊長の篠原満月が母親であることを誇りに思ってるから


お姉さんたちには申し訳ないけど、私が入隊できる歳になったら特別部隊を目標にする」



子供じみた夢みたいだけどこれだけは誰になんと言われようと変えることのないたった一つの夢だ。



「リューコちゃん…


すごくいいこだぁ~!


私なんかが何も考えずにうちの部隊に来いなんていっちゃってごめんなさい~!」



謝る必要性なんてないのに


やっぱりここの人達は優しすぎる



……けど、一つだけ言ってもいいかな?






「私…皆さんの名前が分からない」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る