3-7
先程の雑居ビル爆発後人々は大混乱に陥っていた
……わけではなくただ興味本位で少し遠くから様子を見ているのだ
こういうのが本当に腹立たしい
「ポチッ…!」
ただ自分を見てくれる存在が消えてしまうのではないかと心配で胸が苦しい
いや、今はそんなことしている場合では無い
なんのために準備したと思ってるんだ
震える脚を何度も叩いて震えを無理やり止めると真っ直ぐ半壊したビルを見つめる
戦闘もダメ獣人化もダメ
なら方法はこれしかない
脚に力を入れ、腕を思い切り振って自分が出せる速さでその場を駆け抜けた。
後ろからは止まれとか行くなとか私を制止しようもする声が聞こえてくるけど関係ない
こんな所で止まって現場を見ていられるほど私はバカじゃないんだ
匂いがする
少し前の私と同じ匂い
瓦礫の陰に隠れながら周りの気配を確認する
足音は聞こえない…だけど上の階から派手な音が聞こえる
急がないとダメだと思い陰から出てきて階段を探していると外で何かが動いた気がした
「えっ…
ポチッ!!」
窓から見えたのは何かがものすごいスピードで落ちる影
この身体になったおかげで動体視力も良くなった…だからその影がなんなのかすぐにわかった。
なんでポチがガキと一緒に落ちているんだ?
咄嗟に窓際走り寄ると地上を見る
そこには観客と化した人間たちが円になってポチとガキが交戦しているのを見ていたのだ
どうしよう…まだガキは獣人化していないからセーフとして、あんなに高いところから着地して無傷だった所を見られたんだ
誰かしら映像に残して遊び半分でネット上に投稿するに決まってる
…そういえばどうしてポチはキャスケットを被っていないのだろうか?
ビルから落ちた勢いで脱げたのなら地上の何処かに落ちてるはずだ
だがそれらしきものはどこにもない
「まさか上の階で脱ぎ捨てた?」
ポチのことだからありえないことも無い
いつも帽子を被るのはあまり好きではないと…視界が制限されるから戦う時は必ず帽子を脱ぐのだ。
私は周りを見て階段を探した
途中床に倒れ伏す義獣人を見たけど今は無視
階段を登って壊れた扉とその近くに落ちてる青いキャスケット
珍しい青の入った銀色の髪の毛を隠すために青色の帽子を被るんだ
だから私もそれを真似して赤系の帽子を被るか赤色のパーカーを着てフードを被る
「近くには大きなおっさんが倒れてる…こいつもポチがやったんだ」
やっぱりポチはすごい
再び大きく開いた穴に近づいて地上を見るともう既にガキを取り押さえていた
さっきまで交戦していたかと思って目を離したその数秒でことを終わらせてしまうのだから
私は将来…ポチのように生きることはできるのだろうか
どうやったらあんなに力強い大人になれるのだろうか
「どうすれば強くなれるのかな…?」
ふとそんなことを考えてしまうんだ
私の憧れる人物は篠原満月ただ一人なのだと自覚してしまう
今の心情は明らかに自分の親になってくれた彼女のようになりたいという願いがある
なんてことを考えてしまうからの
「なら本能のままに生きればいい…同士よ」
刹那
本能的に感じ取り脳が避けろと命令した時にはもう遅い
気づいた時には私の体は壁にぶつかって視界が歪んだ
「かはっ……!?」
背中を強打しただけど問題はない
確認すべきなのは誰が私を壁まで吹き飛ばしたかだ。
無理やり目を擦り視界を戻すとそこには上半身が赤い毛で覆われた大柄な男がふらついた足で立っていた。
「あの野郎よくも俺の腹に電撃を…!
復讐せねば!強くならねば!
そのために本能のままに生きよ!!」
頭に響くその叫び
完全なる獣になってしまった者の末路がこれだと言うのか?
そう感じると恐ろしくなってしまった
体の震えが止まらない…止めなきゃいけないのに
今この場から立ち上がり逃げなきゃダメなんだ
それなのに私の体はピクリとも動きやしない
一歩一歩近づいてくる気配に怯えながらも必死に脳は命令する
動け
動け
逃げろ
動かないと逃げられない
その一瞬私が見たものは私を掴もうとする大きな手
潤む視界と掠れた声で私は最後に何を言ったのか
「助けて…ポチ…!」
全く記憶になかったのだ。
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