3-6

「ブォォォォォォ!!」



全く…理性を失った義獣人は面倒臭いったらありゃしない


この義獣人の特徴は猪そのもの


・嗅覚は犬と同じ


・下顎の犬歯が発達している


・厚い毛皮に覆われており爪が刺さっても痛みを感じない


・脚力も発達しており助走なしでかなりの高さまで跳べる



…なんて特徴をあげている暇は無いのだ


現に私はやつの突進を食らったり鼻の力だけで持ち上げられて投げ飛ばされてるんだからな



「がぁッ!


いったいわね…」



受身を取ることも出来ずに背中を強打した私は空っぽになった肺に急いで空気を取り込んだ


そうでもしないと…



今目の前で突進の準備をしている猪から逃げることが出来ないからな



「ウグォォ…


ニン…ゲン……ニクイ」



人間が憎い…か


自分だって元人間のくせして憎しみの対象を人間にするあたり彼はもう猪になってしまったのだ



血のように赤い毛皮と巨体を持つ猪



確か研究所から押収した資料の中にそんなモンスターが書いてあったな


名前はえっと…



「レッドボア…だっけか?


確かステーキにすると美味いとか何とか…


私は肉が好きだけどあんたの肉は食いたくないね!」



突進してくるのと同時に天井に向かって跳ぶとそのまま吊るされた電球につかまった。


猪は車と同じように急には止まれない


よって、彼がぶつかるのは私ではなく




瓦礫の山ということだ




これで隙が生まれた


電球から手を離して着地をすると腰に装備された麻酔銃を手に取り照準を合わせると迷いなくその引き金を引いた。







「……やっぱりダメか」



麻酔弾は確かに命中した


しかし、それは体内に入ることなくカランッと音を立てて床に落ちた。


さすがは猪のように厚い毛皮をもつ義獣人だ


まったく効いていない


これは…もっと強力なやつを作るようにお願いするしかないな


なんて呑気に考える暇をあいつは与えてくれないようだ


再び私の方に向き直った猪は再び突進の準備をしていた。



「同じことを繰り返したとしても私にそれは当たらないわよ…!」



やはり私も少しだけ本気を出すべきだろうか…


溜息をつきながら首を右に傾け左に傾けポキポキと音を鳴らす


悪く思わないで欲しいものだ


私が少しだけ本気を出すのは私が面倒くさがりやで仕事をさっさと終わらせたいからだ。



「ふぅ…安心しなさい


これで終わらせてあげるから」



ニタリと笑って今度はこっちから突進してやると、遅れて相手も突進してきた。



今だ…!



心の中の合図と同時に私が投げたのは腰に装備していた対義獣人スタンガン


普通のスタンガンよりもサイズが大きく高い電圧の電気をくらわせることができる代物だ。


何故投げたのか…それは猪の特性を利用した作戦だ。


猪というのは目の前に自分が躓きそうな棒や木が横に倒れているのを見るとジャンプをして躓くのを回避する習性がある


そしてこの義獣人もまた高くジャンプをして絶対に躓かないようにした。



アホだねー


彼は身も心も猪になってしまったんだ



なんて考えている暇はないな


彼がまだ空中にいるうちに素早く体制を低くし走り出すとスタンガンを拾い上げスイッチを入れた。


流れるように作業をすればあとは仕上げ



「毛皮が最も薄い腹を見せてくれるなんて…


さっさと痺れな!!」




BZZZZZ!




派手な電流の音と猪が鳴き叫ぶ声は聞いてるだけでこちらも苦しくなってくる


重力に従って地面に落ちるその音は以外にも軽い音がした。


気になって見てみればそこにはもう猪なんておらず、人間の姿に戻った義獣人が気絶していた。


ぴくぴくと身体を動かしているのを見ているとまだ電流で痺れているのがよくわかる




「まぁ…仕事終了かな」




まさか単独で行動して仲間の増援も待たずにこのビルにいる義獣人を行動不能にしたなんて…


こんなことが司令官にバレたらなんて言われるか想像したくない


ため息をつきながら背伸びをして身体の緊張を解すと私は外の様子を見ようと窓に近づいた。




それがいけなかったんだろうな




突然、背後から派手にものを壊す音が聞こえて振り向いたその時にはもう遅い


黒い影が私に襲いかかり身体のバランスを崩すとそのまま



高い場所から落ちていった



「なっ…!?」


「アニキの仇!


オイラと一緒に死にな!!」



完全に油断してた


こんな高い所から落ちたらひとたまりもない


いくら私でも落ちて背骨でも折れたら再生に時間がかかる



「ふざけるな…!」



なんとか空中で体制を変えることに成功した私は自分の足で着地をして私ごとビルから飛び降りた影の正体の身柄を確保した。


私を押し出すほどの力がある奴がいるんだなと思ったが…なんだこのちっこいガキは



「お前…見た目も中身が矛盾してないか?」


「オイラのことをチビだと言いたいのか!


変な実験を受けるうちにだんだん背が縮んだんだよ!」



なるほど…こいつも義獣人なのか


これはまた面倒くさいったらありゃしない



だけど、油断したらそこで終わりだ。



絶対に気を抜くな



「その小柄な体型


お前の義獣人モデルはゴブリンか?」


「ほう、よくわかったな


そうだ!オイラはゴブリンの義獣人だ!」



そういうのってネタバレと言うんだが


まあそこが単純思考なゴブリンの特徴でありそれがこのガキにも反映されているのか


単純思考は時に自分に牙を向くということを教えてやらんとな



「ククク、ではお仕置きタイムといこうか」



この私から逃げられると思うなよ

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