3-8
ふわふわとした何かに包まれている感覚がする
ここはどこだろう
ゆっくりと体を起こして両手を何度もグーパー動かす
身体の痛みはどこにもない
どうやらどこかの部屋のベッドで寝ていたから身体中が痛まないのだろう
よし、ちょっと前までの記憶を思い出してみよう
「えっと…ポチとお出かけに行って
そしたら義獣人が爆発テロを起こして…?
あっ…私が勝手に動いて油断してあのおっさんにぶっ飛ばされたんだ」
意外と思い出すことが出来た
その代わりに脳内に蘇る鮮明な記憶のせいで体が震える
壁にぶつかったあの時、すごく背中が痛かったのを覚えてる
肺から酸素が無くなって苦しくなって辛かったのを覚えてる
なんで…あんなことをしてしまうのか理解が出来なかった
「私は…弱すぎる…!」
「ならこれから強くなればいいじゃないか」
突然聞こえた声に驚き顔をあげる
そこに居たのは時々私に会いに来てくれるおじさんだ
綺麗にセットされた白銀の髪の毛と落ち着いた雰囲気を醸し出すその様子は大人の余裕というものを感じる
「おじさん…」
「ふふっ…間違ってはないけど出来れば名前で呼んでもらいたいな」
そんなことを言われても私はおじさんの名前を知らないから呼ぼうにも呼べない
それを察したのはおじさんで優しい笑みを浮かべていた
「私は秋元 源一(あきもと げんいち)
実は君のお母さんと仲が良いんだよ」
「…お母さん?」
それはどっちのことを言っているのだ
私に辛いことを教えた本当のお母さん?
それとも本物以上のお母さんになってくれたポチ?
もし本当のお母さんの知り合いだったらこの場から逃げないとダメだ
何をされるかわかったものじゃない
そう思うと緊張感が増して身体中に力が入る
「…そんなに警戒しなくてもいい
君のお母さんと言ったけど、君にはお母さんが二人いたね
私が言ったのは篠原満月くん…ポチと呼ばれてる方のお母さんだよ」
私はすぐに理解した
この人はポチを私のお母さんだと認めてくれているいい人なんだ
時に人は血の繋がりのない親子を認めないからすごく怖かった
「じゃあ…ポチの知り合いがどうしてここにいるの?」
警戒しなくてもいいと脳が理解して身体の力が抜けたのを見たおじさんはありがとうと言っていた。
「すまなかった…元はと言えば私がポチくんと君に親子らしく二人でお出かけしてきなさいと軽々しく言ってしまったからこんなことになってしまった。
私が逃亡中の義獣人についての情報をしっかりと把握しなかったせいだ」
驚きで頭が追いついていなかった
おじさんのせい…?
もう少しちゃんと説明してくれないとわからないよ
「わからないよ…おじさんのことをよく知らないのに怒る気になれない
悪いのは私をぶっ飛ばしたあの義獣人のおっさんだし」
いや…本当は誰も悪くないんだ
あの義獣人のおっさんだって元は人間で心もあったし理性もあった
結局あのおっさんや他の義獣人はどうなってしまったんだろう?
それは今回だけでなく、薔宿にいた乙女の心を持った彼女だってそうだよ
「ねえおじさん…いや秋元さん
逃亡した義獣人がポチ達に捕まったらその後どうなるの?」
ずっと気になってた
あの日取り押さえられた鬼の義獣人はどこかへ連れていかれ、以来私はその人に会ってない
きっと今回の義獣人と同じようにどこかへ連れていかれるんだ。
そして秋元のおじさんは答えを教えてくれる
「うん…確保された義獣人のほとんどは精神治療を受けてこの施設で保護される
君がであったあの鬼の義獣人も今は精神治療中でもう少しでそれが完治しそうなんだ。
次に君と会った時には優しい人になってるよ」
頭を撫でて安心しなさいと言ってくる
やっぱりこの人はポチの知り合いなんだと理解してしまう
だけど、まだこのおじさんがポチの何なのかはよく理解できない
なんてことを考えてたらドアが開く音が聞こえた。
「リューコ~起きてるか?
……って司令官!?」
ずっと聞きたかった声が聞こえた
バッと声の聞こえた方を振り向き存在を確認すると、私は体を動かしてベッドから降りる
「ポチ…っ!」
会いたくてたまらなかった存在に抱きついてポチの全てを確認するんだ
声、匂い、その姿
そうだこの人が私のお母さんだ
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