第1話 不登校になったよ……

私は中学に入学しました。弱小テニス部とはいえ忙しい毎日。登下校でさえ片道50分。あ、ちなみに自転車です。確か月曜日以外は毎日部活がありました。ゴールデンウィークを過ぎれば暑くなってきて、炎天下の中で長い距離を走ったりサーブの練習をしたりしました。練習中は座ることを禁じられ、ときに目眩や貧血がありましたが、これは小学生のときからあったので全く気にかけませんでした。ただ、その症状は刻々と酷くなっていったのです。


私は先輩たちとの付き合いが大変苦手で、入学してからどう接すればいいのか悩みました。生徒と先生の関係は後輩と先輩の関係ほど絶対的なものではありません。そのボーダーがよくわからなかったのです。それは、今も変わりません。先輩にも好きな人はいたし、先輩が嫌いな訳ではないんですけど、その関わり方をどこかで学びそびれてしまったんだと思います。先輩との関係がだんだん気まずくなって、それがプレッシャーになってきました。


ご想像のとおり、私は内気な人間です。新しい友達をつくることはできてもなかなか長続きさせるのは難しいものでした。同じ小学校から進学した友達は皆他の友達と仲良くなっていって上手くやっている。私にも友達はいましたが休日にわざわざ遊ぶような仲ではありませんでした。こんなこと考え始めると自分が如何に無力かが身にしみてため息ばかりついていました。


私を大学に行かせたかった両親は、塾にも通わせました。この塾、後々キーポイントになってきます。色々な意味で人生に影響力がありました。Noとは言えず、私は毎回通っていました。授業に課題。部活でヘロヘロの状態で行っていたので帰ったらバッタリでした。バイト尽くしの今よりキツかったと思います。


……体力が自慢の私も、いつかこなせなくなると薄々感づいていたのです。


学校に行かなくなりました。ある日突然というわけではなくて、徐々に登校する日が減っていったのです。腹が痛い。気持ち悪いと繰り返して。仮病でしょ。皆も私もそう思っていました。


同じクラスの友達に顔を見るなり「おう、こいつだよ、ふざけんなよ。オマエが来ないから給食当番のやつ俺が全部やってんだよ!」って言われたり、

真っ黒に焼けた部活の友達に「お前久しぶりに見ると白すぎ。ズル休みしてんじゃえねよ。」

って言われたときはグサッときました。相手も中学生、悪気があって言ったわけじゃないのは当時の自分にも分かっていましたが……本当は来て欲しかったんでしょうね。


寧ろ後悔しているのは、私を目標にしていた人を失望させてしまったことです。小学生時代、市内のマラソン大会で私に負けて泣いた彼は、私に勝とうと必死に努力してきたそうです。私は彼が同じ学校に居るとは不登校になってから知ったのです。またテニス部員の中にも私に勝ちたいと一生懸命に走り続けた人がいました。その話は不登校になってから親づたいに聞きました。その勝負をしなかったということは、彼らの目には私が逃げたと映ったでしょう。今どこでなにをしているのかは知りませんが、かなり燃えていたのでいつか勝負しなきゃいけませんね。


話を戻します。私は仮病かなってことを言いました。立ち上がるときに閃光のような眩しさと低い唸り超えのような耳鳴りがしてそれを気持ちが悪い。しかし、自身も心持ちの問題だろうと軽視してしまいました。


そんな6月のある日、あまりに休みが長いので心配した母親が診療所が私を診療所に連れて行きました。先生がカルテに書き込んでいるのが見えたのです。「母親と来院。1ヶ月間不登校。心因性の腹痛、吐き気……血液検査は異常なし。起立性調節障害の可能性。……ついては〇〇病院で起立試験を受けるよう勧めた。」はっきりとこんな内容を覚えています。それだけショックだったっていうことです。私が不登校であること。心因性とはいえ、私が何らかの病気であること。いまいち納得がいかないまま、大病院で小児科を受診しました。中学生の私は少し恥じていました。そうして「起立性調節障害」の名を知りました。アンパンマンのついた壁も、診察室においてある柵付きのベッドもお人形も、もうここまでくると何も思わなくなりました。周りはキャッキャと騒ぐ子どもたち。帰り道、母は一言も喋りませんでした。(続く……)





余談ですが、そこの病院に3年間通っていて、3度も主治医が代わりました。しかし、どの先生も一生懸命に私の治療に向き合ってくれたのです。今はもう何処にいらっしゃるのか判らないですけれど、お礼を言いたいです。ろくに心開いたことないんですけど、こうしてまだまともな人生歩んで行けるのは先生のおかげです。

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