第78話 case78

それから数日間、くるみは目を覚まさなかった。


問題が起きた訓練ダンジョンのゲートは、激しい損傷が見られたため、一時的にゲートを閉じ、新しいものに変える工事が行われていた。


その間、学校では座学がメインに行われ、生徒たちは退屈そうに授業を受けるばかりだった。


セイジと太一、ノリの3人は、ギルド維持のために魔法石を稼がなければならず、3人でダンジョンに籠る日々。


時々、セイジはゴロを連れてダンジョンに行っていたが、ゴロは少し元気がなさそうな様子だった。


亮介はウォーリア賢者の元に通いつつも、くるみの寝顔を眺める日々を過ごしていた。



そんなある日の事。


亮介がくるみの寝顔を見ていると、ドアがノックされ、扉が開くと同時に、見るからに固そうな中年男性と、中年女性が姿を現し、真っすぐにくるみの元へ向かっていた。


男性は無言のまま、鞄から注射器を取り出し、薄水色の液体を注射器にセットしはじめ、女性はその準備に追われていた。


「…医者の先生ですか?」


亮介が不安になりながら聞くと、男性と女性はチラッと亮介を見て、男性が「両親だ」と答える。


亮介は慌てて立ち上がり、背筋を伸ばした。


「す、すいません! 僕、くるみさんとお付き合いさせていただいている、河野亮介です!」


くるみの父親は亮介を見ることもなく、無言のまま、くるみの腕に注射を打ち、後片付けを始めてしまう。


くるみの母親は小さく溜息をついた後、くるみのおでこに手を乗せ、手から優しい緑色の光を放ち始めた。


くるみの父親は後片付けを終えると、無言で部屋を後にし、母親は亮介に近づく。


「不愛想でごめんなさいね。 ウィザードの性格だから仕方ないんだけど…」


「ウィザード? もしかして、お母さんはヒーラーだったんですか?」


「よくわかるわね。って回復使ったからわかるわね」


「くるみの魔力は親譲りなんですね…」


「まさかマジックウォーリアになるなんて思いもしなかったけどね。 明日には目を覚ますと思うわ。 くるみをよろしくね」


くるみの母親はそう言うと、寂しそうに微笑み、亮介はその顔を見て『ヒーラーの時のくるみと同じ顔をしてる…』と思っていた。


『ってか、俺、くるみと付き合ってる訳じゃねぇし、なんであんなこと言っちゃったんだろ… くるみが起きてたら、殺されてるかもしれないな… 早く起きないかな…』




翌朝、くるみはゆっくりと目を覚まし、天井を見ながら『ここどこ?』と思っていた。


すると、すぐそばにいたシスターが「やっとお目覚めになりましたね」と声をかける。


「ここは?」


「賢者の塔ですよ。 5日間も眠ってらしたんですよ。 お父様とお母様が駆けつけていらして、毎日、懸命に治療をしてくださってました」


「父さんと母さんが?」


「ええ。 すごく素敵なご夫婦ですね。 羨ましかったです。 それと、亮介さんも毎日通ってらしたのですよ」


「そっか」


くるみはそれだけ言うとゆっくりと体を起こし、右手の感触を確かめるように、掌を握り締めては開き、再度握りしめた。


「ウォーリアのおっさんいる?」


「ええ。 ウォーリアの間にいらっしゃいますけど」


「あんがと」


くるみはそう言うと、ゆっくりとベッドから降り、ウォーリアの間に向かっていた。

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