第79話 case79

くるみはウォーリアの間に着くなり、ウォーリア賢者に「おっさん、遊ぼうぜ」と声をかけ、ウォーリア賢者は「がはははは」と笑い始めた。


「病み上がりなのに大したもんだ! その心意気、評価に値する!!」


ウォーリア賢者はそう言うと、くるみに木刀を投げ、くるみはパシッと音を立てながらキャッチした。


「来い!」の合図でくるみが踏み込んだ瞬間、ウォーリア賢者の脛を打ちながら通り過ぎる。


ウォーリア賢者は脛を押さえながら蹲り「お前、本当に病み上がりか?」と、痛みに顔を歪ませながら、くるみに聞いていた。


「うーん。 魔力もだけど、筋力がアップしてる気がする。 死にかけると強くなるのかな?」


「そんな話、聞いたことがないぞ?」


「覚えてないだけなんじゃない? アホだから」


「何か言ったか?」


「何でもない」


「その様子だと学校に行っても問題なさそうだな。 まだ8時だから間に合うぞ。 学校には連絡しておいてやる」


くるみは「えー…」と言いながらウォーリアの間を後にし、少し不貞腐れながら学校に向かっていた。



くるみは学校についてすぐ、人だかりの中心に亮介がいるのを見つけたが、何も気にせず教室へ向かっていた。


教室に入ってすぐ、クラスの中でも一番目立つ、大きなひまわりの飾りを付けた、金髪の頭が居ない事に気が付いたが、誰にも聞くことはなく、自分の席に着いた。


しばらくするとチャイムが鳴り、教師が教室へ入るなり「姫野、教室が違うぞ?」と声をかける。


「ん?」


「この時間は2階でマジックナイトの座学だろ? ああ、新しいタイムテーブル渡してなかったな。 すまんすまん」


教師はそう言いながらくるみに紙を渡し、くるみは眉間に皺を寄せた。


「なにこれ? ほとんど座学じゃん」


「ゲートを交換してるから、しばらくダンジョン訓練はないんだよ。 ウォーリアとマジックナイトの対人訓練と、集会所のペアダンジョンはあるぞ?」


「ボイコットしていい?」


「卒業できなくなるぞ?」


くるみはため息をつきながら立ち上がり、教室を後にしていた。


くるみが2階にある教室に入るなり、小さな歓声が広がる。


『うぜ』


くるみはそう思いながら空いている席に座ると、隣に座っていた千鶴が小声で話しかけてきた。


「毒、もういいの?」


「うん」


「良かった…」


短い会話の後、くるみはポケットに手を入れたまま、退屈しのぎをするように、窓の外をゆっくり流れる雲を眺めていた。




チャイムが鳴ると同時に、悠馬がくるみの前に立ち「やっと治ったんだね!」と声をかけるも、くるみは無言で悠馬の体を押し退け、黙ったまま教室を後にする。


それと同時に、女子生徒の「かっこいい…」と言う、ため息交じりの小さな声が上がっていた。



昼休みになると同時に、くるみが購買部に行こうとすると、葵が「くるみさ~ん!!」と大声を出しながら駆け寄ってくる。


「やっと治ったんだね! 良かった!! 約束守ってくれて嬉しいよ!!」


「約束?」


「うん! 死なないでって言ったら約束守ってくれた! あ、そうそう! これ、お母さんに教わりながら作ってきたんだ! もしよかったら食べてほしいなって。 おいしくないかもしれないんだけど…」


葵はそう言いながら赤い顔をし、巾着袋を差し出してくる。


「何これ?」


「お弁当だよ。 ダンジョン行けないし、素材集められないから、お弁当ならって思ったんだけど…」


葵は顔を赤らめながら、くるみにお弁当を渡し、くるみは『じょ、女子力高ぇ…』と思いながら、お弁当を受け取っていた。


「お弁当箱、食べたらそのまま返してくれればいいから。 面倒だったら捨てちゃっていいし、口に合わなかったら、食べないでいいから… あの、で、出来れば、お弁当箱返してくれると嬉しいかなって… 思ってるんだけど…」


葵はそう言いながらどんどん顔を赤くし、最後の方は聞き取れないほど、小さな声になっていた。


くるみは葵の女子力の高さに『完敗…』と思いつつも、「サンキュ」とだけ言い、階段を上って屋上に向かっていた。

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