第77話 case77

「猛毒だ… ヒーラー賢者に」


マジックナイト賢者がそう言いながら振り返ると、杖をついてゆっくりと歩いてくるヒーラー賢者の姿が視界に飛び込んだ。


「良いものを見させてもらったわい」


ヒーラー賢者は満足そうにそう言うと、くるみの横にしゃがみ込み、腕に手を当てた後、薄水色をした光を放つ。


次第にくるみの青くなった腕は元の色に戻り、痛みに歪んでいた顔も、眠っているかのように穏やかになっていた。


「2人が飛び出して行ったから何かと思えば… まったく、こやつはまた傷つきおってからに… でも、これで安心じゃよ。 いつ目覚めるかわからんから、塔に連れて行きなさい。 猛毒の作用で魔力が無くなるから、しばらくは眠ったままじゃろうな。 こればかりは魔法でもポーションでも何ともならん。 まぁ、こやつの事じゃ。 目覚めたらすぐにでも飛び回るじゃろう」


その場にいた全員がホッとした表情を浮かべていると、ヒーラー賢者はスッと立ち上がり「そこの女子おなご、追放じゃ」と、アイカに向かって、穏やかな口調のまま告げた。


「な、なんであたしが追放なのよ!!! ふざけんじゃないわよ!! クソジジイ!!」


「戦闘の邪魔をするものはハンターとして失格じゃ。 今すぐ去りなさい。 それとも、処刑されたほうが良いかの?」


アイカは言葉に詰まり、黙っていると、教師に連れられ、ダンジョンを後にしていた。


セイジがくるみを抱えようとすると、亮介がセイジの腕を掴み「俺が連れて行きます。 また助けられちゃったし…」と、落ち込んだ様子で言い、くるみを抱きかかえて出口の方へ向かってしまった。


亮介の落ち込んだ様子を見て、ノリは普段のように茶化すことが出来ず、セイジはため息をつきながら「素材と魔法石は後で分けよう。 姫にも渡さなきゃいけないしな」と言い、素材を拾った後、賢者たちと共に通路を歩き、葵の前で足を止めた。


「君、名前は?」


「さ、佐倉葵です…」


「いつもあんな風に補助と回復を?」


「…はい。 いつもくるみさんと2人でここに来てます」


「なるほど。 ライセンスを取ったら連絡をくれ。 ギルドに招待する」


「ほ、本当ですか!?」


「ああ。 それまで姫に鍛えてもらえ」


「は、はい! ありがとうございます!!」


葵は目を輝かせながら言い、みんなと一緒にダンジョンを後にしていた。




数時間後、亮介はヒーラー賢者の元を訪れていた。


「さっき、処刑って言ってたんですけど…」


亮介が言いにくそうに切り出すと、ヒーラー賢者は立派な髭を撫でながら「ふぉっふぉっふぉ」と笑い始める。


「年が明けたら説明を受けると思うが、戦闘の邪魔をするものは追放、もしくは処刑じゃ。 あの女子は故意に戦闘に乱入し、おぬしの戦闘を妨げた。 それだけで十分な理由になるぞよ」


「…処刑って、殺されるって事ですか?」


「ゲートの外に追い出されるだけじゃよ。 運が良ければ生き残れるじゃろうて。 生き残ったところで、2度と中には入れんがの。 どちらにしろ、あの女子は年が明けたら退学になっていたじゃろうし、気に病むことはない」


「退学? なんで?」


「魔力の色じゃ。 測定機に手を添えた時、ピンク色をしてたじゃろ。 あの色はハンターの素質が無いことを意味しとる。 せめて最後くらい、綺麗なピンクを見せてやろうと思っての。 優しいじゃろ? わし」


ヒーラー賢者がにっこりと笑うと、亮介は顔をひきつらせながら空笑いを始める。


「それよりも、あのヒーラーの子は良い働きをしとるのぉ。 弟子にしたくなるわい」


「葵のことっすか?」


「そうじゃ。 あれは良いヒーラーになる」


「なぜですか?」


「あれは当たる直前に魔法を放つんじゃよ。 当たる直前に10の力を100に変え、ガードさえも崩す力を与えるんじゃ。 おぬしも傷ついた瞬間に、回復で癒してもらっていたろう。 並みのヒーラーには出来ぬことじゃが、あのヒーラーはそれが出来る。 それに、あの速さについて行けるヒーラーはなかなかおらん」



『葵が? くるみと2人でダンジョンに籠っていた結果か? いつかセイジ君が【見て学ぶ】って言ってたよな。 そう言う事だったんだ… 』


亮介はヒーラー賢者の話を聞きながら、手を握り締めた。

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