第72話 case72
ボスの間に着くと同時に、熊の魔獣がゆっくりと起き上がる。
くるみは振り返り、2人を見た後「あいつ、2人でやってみ?」と切り出した。
千鶴と葵は顔を見合わせ、千鶴が聞き返した。
「え? 2人で?」
「そう。 2人で。 ぼくちゃんの補助魔法と千鶴ちゃんのエンチャントがあればイケるはずだよ。 あいつ、炎が弱点だから、炎エンチャントはしっかりね。 やばそうになったら手を出すよ」
くるみはそう言うと、通路の横に移動し、壁にもたれかかって座ってしまい、葵は千鶴に防御アップの補助魔法をかける。
千鶴が魔獣の前に行こうとすると、突然何かが千鶴の横を通り抜け、魔獣に切りかかっていた。
『悠馬? へぇ。 まぁまぁじゃね?』
くるみは感心しながら悠馬の動きを眺めていると、千鶴と葵もそれに加勢していた。
『千鶴って子、なかなかいい動きするねぇ。 それよりもぼくちゃんだな。 的確なタイミングで回復入れてるし、攻撃が当たる直前に補助魔法かけなおしてる。 防御アップもしっかり入れてるし、ありゃ良いヒーラーになりそうだな』
くるみは感心しながら3人を眺めていると、大勢の足音が聞こえてきた。
「あれ? くるみ戦ってねぇの?」
亮介は壁にもたれかかって座っているくるみを見るなり、驚いたように切り出した。
「今日は監督~」
くるみがやる気のない感じで答えると、くるみの前にアイカが立ちはだかり「あんたなんか雑魚以下だから」と言った後、「みんな、行くよ!」と言い、10人ほどの人だかりと共に、魔獣に向かって駆け出していた。
「あいつ、威勢だけは良いな」
亮介はそう言いながらくるみの隣に座り、くるみはアイカ達の戦いを少し見た後「こんな雑魚相手に苦戦してるやつに言われてもねぇ…」と、鼻で笑う。
「確かに。 幻獣と魔獣を一緒にすんなって話だよな」
「相手の強さを知るのも修行の一つなのにねぇ… 負けず嫌いもあそこまで行くと手に負えないね」
「くるみも負けず嫌いだけどな。 しっかし葵、強くなったな」
「あれはもっと伸びるよ。 センスいいわ」
2人は戦闘を眺め、一人一人の戦闘スタイルについて話していた。
魔獣を倒した後、アイカが「見たか!!」と叫ぶと、倒れたはずの魔獣がゆっくりと凍っていく。
「やばい!! 離れろ!!」
くるみと亮介が怒鳴りつけると、アイカは鞭を振りながら「はぁ!? 何言ってんの? バッカじゃないの? 倒したって言うのに何で離れなきゃいけないのよ」と、くるみに向かって怒鳴り返す。
葵と千鶴はすぐに通路へ逃げ込んだが、亮介の周囲に居た子たちは動こうとせず、亮介の話も聞かない状態。
くるみは急いで通路の手前に立ち、風の魔法で全員を吸い込んだ。
その場にいた全員は、通路の中に引きずり込まれ、ゴロゴロと転がった後、壁に当たって動きを止めていた。
亮介はくるみの隣で武器を構え、くるみに切り出す。
「2重か?」
「わかんない… けど、これはマジでやばいかも… 亮ちゃん、ノリちゃんたち呼んでくれない? ぼくちゃん! 校内にあるマナポ、片っ端からかき集めてきて!! マジダッシュ!!」
「は、はい!!」
葵は千鶴と2人で階段を駆けのぼり、転がっていた子たちはよくわかっていない様子で「何してんの?」と騒ぐだけだった。
ギルドルームでは、セイジがゴロをお腹に乗せて、ソファで気持ちよさそうに眠っている。
「ちー…」
ノリはギルドルームに入るなり、挨拶を途中でやめ、セイジの寝顔を見ていた。
『また泊り? なんだかんだ言って一番可愛がってんじゃん』
ノリがそう思っていると、太一がギルドルームに入ってくる。
「あれ? 学校は?」
「今日は休んでいい日。 生物学無いし、単位も取ってるからねぇ」
「大学生はお気楽でいいやぁねぇ」
ため息交じりにノリが言うと、ブレスレットが赤く点滅し、亮介からのメッセージを表示させた。
【訓練ダンジョンで2重出た。 くるみが震えるくらいやばい奴】
ノリはすぐにセイジを起こし、ブレスのメッセージを見せるなり、セイジは飛び起きる。
3人は無言のまま、くるみたちのいる学校へ向かっていた。
葵と千鶴はダンジョンを出てすぐ、教師に声を掛けていた。
「センセ! 大変です!! くるみさんがマナポ片っ端から持ってこいって!! 倒した魔獣が凍ってました!!」
「なんだと!? 職員室に行って片っ端から持ってこい!!」
教師は慌てて葵と千鶴に指示を出し、2人は駆け出していく。
近くにいた女性教師に「塔に連絡を!!」と指示を出し、自らもダンジョンの中へ。
「全員外に出ろ!! 緊急事態だ!!」
ぞろぞろと生徒たちがダンジョンから出る中、教師は『姫野、死ぬなよ…』と思っていた。
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