第71話 case71
ダンジョンから戻った後、くるみはセイジの機嫌が悪いことに気が付いた。
『…なんか怖いんですけど』
そう思っていても言葉に出せず、逃げるようにギルドルームを後にし、亮介もそれを追いかけていた。
翌日、学校に行き、1限目の授業である訓練ダンジョンに行くために、くるみは集合場所で壁に寄り掛かり、ボーっとしていた。
すると、葵がくるみの元に駆け寄り「これ」と言いながら魔獣の牙を手渡してきた。
「昨日のペアダンジョンで取ったんだけど、もしよかったら使ってほしいなって… いつも貰ってばかりだから… こんな雑魚敵の素材しか集められないし、倒したのは千鶴ちゃんなんだけど… いらないよね! くるみちゃんはもっと強い敵倒してるし、ゴミにしか見えないよね…」
葵のトーンはどんどん下がり、最後の方は聞き取れないほど小さな声になり、俯いてしまっていた。
くるみは魔獣の牙を葵の手から取ると「さんきゅ」と言い、インベトリにしまっていた。
「え? もらってくれるの?」
「ん~? 合成すれば立派な素材になるし、ちょうど1個足りなかったんだよねぇ」
「あは! 貰ってくれてありがとう!!」
葵の顔はパァっと明るくなり、「今日も頑張って回復するね!」と、元気に言うと、くるみは俯きながらクスッと笑っていた。
「例の… 千鶴ちゃんだっけ? 彼女は良いの?」
「あ… そうだ… 明日も一緒にって言われてたんだ… どうしよ…」
「うちのチーム入れれば? 2人も3人も同じっしょ」
くるみの言葉を聞き、葵は笑顔で「ありがとう! 呼んでくるね!」と言い、駆け出してしまった。
しばらくすると、葵は千鶴だけではなく、悠馬まで引き連れてきてしまい、くるみは眉間に皺を寄せた。
「僕も一緒に良いかな?」
悠馬がそう言うと、くるみはもたれかかっていた体を起こし「ぼくちゃん、千鶴ちゃん、行くよ」と言い、さっさとダンジョンへ向かおうとしてしまう。
千鶴と葵はくるみを慌てて追いかけ、悠馬は相手にすらされていないことに、こぶしを握り締めていた。
3人がダンジョンに入った後、亮介は人の山に埋もれながらダンジョンの方へ向かっていた。
「授業遅れるから!!」
亮介が怒鳴るように言っても「同じチームになろうよ!」「今日は私と一緒になるって約束でしょ!!」と言った言葉にかき消されてしまい、亮介はアタフタしているだけだった。
悠馬は亮介を睨みつけると、真っすぐにダンジョンの中へ。
亮介はダンジョンに入っていく悠馬を見て『あれ? あいつ一人? くるみが先に入ったって事か!!』と思い、慌てて追いかけようとするも、人の山が邪魔してなかなかダンジョンに入れずにいた。
くるみは2人を引き連れて、ダンジョン内を歩いていると、千鶴がくるみに切り出してきた。
「姫野さん、昨日、葵君を貸してくれてありがとう」
「ぼくちゃんは物じゃないよ」
「でも、いつも一緒にいるって聞いてたから」
「ぼくちゃん、ヒーラーだから戦えないし、強い奴と組んだ方が安全でしょ。 ま、これからは千鶴ちゃんが居るし、お役御免ってところかね。 それに、君たちお似合いだよ」
葵と千鶴は顔を見合わせ、少しだけ顔を赤らめた後、先に行ってしまった、くるみの後を追いかけていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます