第68話 case68

ペアダンジョンでくるみが偶然クアールを助け、姿を変えてゲートをくぐってしまった後、くるみはセイジに飼っても良いか聞いていた。


セイジは「ダメだ」と突き放していると、小さな子猫のようなクアールは、くるみの胸から飛び出し、セイジをじっと見つめる。


セイジはクアールを睨みつけていたが、クアールがつぶらな瞳で「にゃ~ん」と鳴いた瞬間『か… 可愛い…』と思ってしまい、ため息をついた。


「…隠し通せよ」


セイジはそう言いながらソファに座ると、クアールはセイジの手に擦り寄ってくる。


『か… 可愛すぎる… モフモフしてて柔らかい…』


くるみとノリが抱き合って喜ぶ中、セイジはじっとクアールを見つめ、亮介はこぶしを握り締めていた。


くるみは「学校終わったらすぐに戻るからね!」とクアールに言った後、亮介と共にギルドルームを飛び出した。


くるみが居なくなった途端、クアールはセイジの膝の上に座って丸くなり、寝息を立て始めた。


『か… 可愛すぎる… 連れて帰るか? いや、ダメだ… けど、誰にもバレなければ…』


セイジはクアールを見つめながら、人知れず葛藤し続け、ノリは黙ってそれを見ていた。



学校に戻るとすぐ、亮介の周囲には人が溢れ、くるみはポケットに手を入れたまま、退屈そうに教室へ戻っていた。


すると、悠馬が亮介の前に立ち「ちょっといい?」と、亮介を呼び出した。


亮介は人だかりに向かって「行かなきゃいけないから!」と言いながら、人の山をかき分け、悠馬の後を追って屋上に向かう。


屋上に着いた途端、悠馬は振り返り「姫野さんに付きまとわないでくれるかな?」と切り出した。


「は?」


「目障りなんだよ。 マジックウォーリアってわかった途端、近付きやがって…」


「何言ってんの?」


「俺は彼女が入学した時から、彼女の事を見てた。 ずっと見てたから…」


「ちょっと待てって。 マジックウォーリアになって近づいてきたのはお前の方だろ? ヒーラーの時、1度でもあいつとチーム組んだのか?」


「マジックナイトはウォーリアと違って、最初の1年半は座学しかないんだ。 実践訓練のスタートも1年半遅いし、卒業のタイミングも、そもそものタイムテーブルも違うんだよ。 学年が違うから、君らとは別枠で行動するのは当然だろ?」


「言い訳だろ?」


「事実だ。 君のような野蛮な人間、彼女とは釣り合わない」


この言葉に亮介はブチっときてしまい、悠馬の胸倉をつかんだ。


が、悠馬はひるむことなく「な?言ったろ?野蛮だって」と言いながら亮介の手を払い、「とにかく付きまとうな」とだけ言うと、階段を下りて行ってしまった。


『なんなんだよ… いきなり出てきて付きまとうなだと? ふざけんな』


亮介はこぶしを握り締めたが、その拳をどこにぶつけて良いかわからず、大きく息を吐いていた。




その頃くるみは椅子に座り、ボーっと外を眺めていた。


「ちょっと来てくれる?」


くるみはアイカに言われたが「やだ」とだけ言い、再度外を眺め始める。


「来いって言ってるんだけど!」


「嫌だって言ってるんだけど!」


くるみに拒否されたアイカは、悔しそうに唇をかみ「亮介とどういう関係なのよ?」と切り出した。


「さぁね」


くるみがため息交じりに言うと、「ちょっと強いからって調子に乗らないでよ」と言い、その場を後にしようとした瞬間、アイカの足元が凍り付き、身動きが取れないでいた。


「ちょっと? これでちょっとだったら、てめぇはカス以下だな」


くるみはチャイムが鳴っても凍りを解かさず、教師が慌てて駆け寄ってきた。


「姫野! お前何してるんだ!」


「ちょっと強いって言われたから力見せてました~。 悪い?」


「いやいや、お前相当強いだろ…」


教師の言葉と同時に凍りは解け、アイカはその場に転がってしまう。


「お、覚えておきなさいよ!」


アイカが言うと、くるみは「もう忘れました~」と気のない返事をし、外を眺め始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る