第66話 case66

くるみが魔獣を回復した後、背後から「くるみ!」と呼ぶ声が聞こえ、振り返ると亮介が駆け寄ってきた。


亮介はくるみの足元にある血だまりと、魔獣の姿を見るなり、剣を構える。


「あー。あの子は大丈夫だよ。 魔法石が食われちゃって無くなってたし、攻撃してこないよ。 多分ね」


「え? そうなの?」


「うん。 多分ね?」


くるみはそう言うと、魔獣に向かい「早くおうち帰んなよ~」と話しかける。


魔獣は少し離れた場所に移動した後、再度振り返り、じっとくるみを見つめていた。


「どうしたんだろね? あの子」


「…あの子より、俺はこの子の方が知りたいんだけど」


亮介はそう言いながら、くるみの頭に手を乗せる。


「なんで魔獣を回復すんの? こんな至近距離で襲われたら、さすがのくるみだってひとたまりもねぇだろ」


「うーん… 威嚇されても殺気を感じなかったんだよねぇ。 それになんか可哀想だったし」


「可哀想?」


「うん。共食いされて、抵抗も出来なくて、可哀想だなって思った。 だから回復した。以上!」


くるみがニコッと笑いかけながら亮介に言うと、亮介はいきなりくるみを抱きしめ、耳元で囁くように告げた。


「…どんだけ好きにさせりゃ気が済むの?」


「え?」


「どんだけ好きにさせれば気が済むの?って聞いてんの。 答えて」


くるみは何も言えないまま黙っていると、亮介の大きな手が頬に触れ、クイっと顔を上げた。


「くるみ… マジで超好き…」


亮介が唇を近付けながら言うと、いきなり亮介が吹き飛ばされ、さっきの魔獣がくるみの前で亮介を威嚇し始める。


「痛ぇ… 何こいつ…」


いきなり告白されたことと、魔獣が亮介だけに威嚇していることに、くるみの頭はパニックになり、「え? え?」としか言えなかった。


亮介は立ち上がりながら剣を構え「めっちゃ殺気立ってんじゃねぇかよ」と言うと、くるみは魔獣に手を伸ばした。


すると魔獣は、くるみの体に自分の体を擦り付け、ゴロゴロと喉を鳴らし始める。


「え? 甘えてる?」


亮介が呆然としながら剣をおろすと、魔獣はくるみの顔を舐め始めた。


「ぶっ殺す…」


亮介は再度剣を構え、勢いよく飛び出した。


が、くるみは魔獣を庇うように抱きしめながら飛び立ち「可哀想でしょ!!」と、亮介に怒鳴りつけた。


「は? お前それ魔獣だぞ!?」


「可愛いじゃん! めっちゃゴロゴロ言ってるし!!」


くるみが魔獣を抱きしめながらそう言うと、魔獣はくるみを押し倒し、顔や腕、胸元を舐め始め、くるみは「やだぁ。 くすぐったいよぉ」と、押し倒されながら笑い始めた。


「ぶち殺す…」


亮介は剣を構え、ゆっくりと歩み寄ると、魔獣は起き上がったくるみの背後に隠れる。


「どけよ」


「嫌だ! この子を攻撃したら嫌いになるから!」


くるみが大声で言うと、亮介は「ぐぐっ」っと悔しそうな声を上げ、武器をしまう。


「さ、行こ」


くるみがそう言うと、魔獣は亮介をじっと見た後、「フンっ」と言うように顔を背け、くるみの隣を歩き始める。


『あのやろ…』


亮介は魔獣に対して苛立ちながら、二人を追いかけていた。

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