第60話 case60

亮介は水中でくるみの姿を探していた。


くるみから貰った風の鎧のおかげか、酸欠になることはなく、泳ぎながら探していると、岩や氷が下から浮かび上がり、ゆっくりと沈んで行く、くるみの姿を見つけた。


亮介は急いでくるみに近づき、抱き寄せた後、すぐに水面に上がり、急いで陸上へ。


「姫!!」


ノリの叫び声が聞こえる中、亮介はくるみを横にすると、すぐにくるみの鼻をつまんで自分の口をくるみの口に当て、空気を送った。


ノリはそれを見て「わぁお」と歓喜の声を上げ、太一とセイジは呆然としている。


何度か空気を送った後、くるみは咳き込みながら目を覚まし、亮介は「大丈夫か?」と聞いていた。


くるみはボーっとした頭のまま、「…あれ? 水に落ちた?」と、亮介に聞くと、太一が「亮ちゃんに助けてもらったんだよ」と答える。


するとノリが「王子の熱~い口付けで姫の目が覚めた!!いや~ん。メルへ~ン」と歓喜の声を上げた。


亮介は慌てて「だ、だって息してなかったし! ああするしかないっしょ!!」と言うと、ノリは「心臓動いてたし、セイジの回復使えば一発じゃん」と、平然と答える。


「・・・・使えるんすか?」


「ウィザードだからな」


セイジが眼鏡を擦り上げながら言うと、亮介は黙り込み、ノリは茶化すように「愛よねぇ~愛! ラブよラブ!」と、一人で興奮し始めた。


くるみがボーっとしたままでいると、セイジが回復魔法をくるみに使い、マナポーションを差し出す。


「マナ切れだ。 飲め」


くるみはそう言われ、差し出されたポーションを飲んだ後、「さっきの魚、魔獣かも。 魔法が効かなかった」と話し始める。


くるみが詳しい話をすると、セイジは「どうやって陸に引きずり出すかがネックだな…」と考え始めた。


『これだけ大きな湖を凍らせるとしたら、マナポーションが足りなくなる。 炎で蒸発させるのも無理だ。 風で吸い上げる? いや、それもマナが足りなくなる。 どうにかして引きずり出さないと帰れないか…』


「俺やるよ」


セイジの考えを吹き飛ばすように、亮介が切り出した。


「この鎧のおかげで息できるし、俺が餌になって引き付けるから、釣り上げてよ」


「んな、無茶苦茶だよ!」


亮介の提案に太一が反応すると、亮介は「大丈夫だって! くるみがくれた鎧あるし、絶対に大丈夫。 いざとなったら回復してもらえるし、回復役、2人もいるじゃん。 無理しても大丈夫だよ」と、自信満々に答えた。


必死に引き留める太一と、自信満々に「大丈夫」と言っている亮介を見て、セイジが眼鏡を上げながら「本当に大丈夫なんだな?」と聞いた。


亮介は「ああ」と、短い返事をすると、セイジは覚悟を決めたように「わかった。 蔦を集められるだけ集めよう。 それを亮介に巻き付けて泳いでもらう。 食いついたら一気に引き上げて攻撃する」と言い切った。



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