第61話 case61

くるみは亮介と2人で、蔦を集めるために森の中へ向かう。


太一は『2人で行くだと? 怪しい… ここで幻獣の素材、渡す気か?』と思い、コソコソと隠れながら2人を追いかけていた。


森の奥に行き、蔦を集めているときに、くるみが切り出した。


「ねぇ、本当に大丈夫なの? あの魔獣、パワーすごかったよ?」


「ん? 大丈夫だよ。 鎧あるし」


「鎧あるって言ったってさぁ… 陸上とは違うんだし…」


くるみは俯きながらブツブツ言うように小さく言うと、亮介はクスっと笑い始めた。


「心配してくれてるんだ。 10回以上も殺しかけたくせに」


「あれは… だって…」


「10回も20回も同じだろ。 回復してくれればそれでいいよ」


「…浮かんでこなかったら回復できないし」


「絶対に浮かぶって。 あ、そんなに心配ならおまじないしてくんない?」


「おまじない?」


「そ。 水から浮かんでくるおまじない」


「どうやるの?」


「キスして」


くるみの顔は一気に真っ赤になり、亮介はクスっと笑う。


「嘘。 冗談」


亮介はそう言いながら蔦を拾い、くるみの横を通り過ぎようとすると、くるみは俯きながら亮介の腕を掴んだ。


「くるみ?」


「………でよね」


「え?」


「絶対に浮かんでよね! 死んだら承知しないから! 死んだらマジ殺すから!!」


くるみは真っ赤な顔のままそう言うと、亮介の肩に手を置き、ゆっくりと踵を上げる。


亮介はくるみの背中に手を回し、優しく抱き寄せながら、ゆっくりとくるみの唇が届くように体勢を低くする。


木の陰に隠れていた太一は、両手で顔を隠しながら、指の間からしっかりと見ていた。


ゆっくりと顔が近づき、目を瞑る2人を見ながら、太一は『あっ ああっ ああっ あああああああ もうちょいいいいいいいいい!!!』と、心の中で叫ぶ。


「釣ったああああああああああああ!!!!!」


突然聞こえてきたノリの叫び声に、二人の体はビクッと飛び跳ね、慌てて声のする方へ駆け出した。


『だああああ!!! あとちょっとだったのにいいい!!! ノリちゃんのあほおおおおおお!!!』


太一はそう思いながら駆け出し、声のする方へ行くと、大きすぎるくらい大きな魚は、真っ二つになっていた。


「く、クジラの魔獣じゃん!!!!」


太一が叫ぶと、ノリは「超快感!!! まじでやばぁぁぁい!! 癖になる~~~!!!!」と、感激の声を上げ続けていた。


『古代人… マジ半端ねぇ… こんなのを食べてたの… マジかよ… こんなのを日常的に釣り上げるって、古代人ってやばくない? パワーだと現代人よりすごいんじゃないの? 古代人ってみんなノリちゃんレベル? 恐ろしかぁ…』


くるみはクジラの魔獣を見ながらドン引きし、亮介は『俺の覚悟っていったい…』と、虚しさを覚えていた。


すると、ひらひらと金色の蝶が舞い踊り、ゲートが開いた。

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