第55話 case55

翌日、くるみは制服のジャケットのボタンを開け、リボンをだらしなく垂らしたまま、ポケットに手を入れて学校へ向かう。


学校に向かう途中、知らない生徒が馴れ馴れしく話しかけてきたことに、くるみは少しイライラしていた。


『なんなんだよ… ヒーラーの時はいらない子扱いしてたくせに… 冗談じゃねぇぞコラ』


そう思いながら歩いていると、葵が「おはよ~」と言いながら駆け寄ってきた。


くるみは返事をしないまま、風の魔法を使って学校へ飛んで行ってしまい、葵は一人取り残されていた。



くるみは教室へ入るなり、男子生徒やヒーラー志望の生徒たち、マジシャン志望の生徒たちに囲まれてしまい、苛立ちを押さえることが出来なかった。


「っせーぞてめぇら!!」


くるみが怒鳴りつけると、蜘蛛の子を散らすように人だかりは居なくなり、くるみは不貞腐れながら自分の席に座った。


「機嫌悪いな」


そう声をかけられ横を見ると、亮介が隣の席に座っている。


くるみは亮介の顔を見るなり、プイっと外を向いた。


「ま、ヒーラーの時は散々な言われようだったもんな… それより、後でタイマンで勝負しない? 俺、これを賭ける」


亮介はそう言うと、炎像の煉瓦を差し出してきた。


「どうしたのこれ?」


「アイテム製造機で作った。 くるみもなんか賭けてよ」


「幻獣はやらん!!」


「いらねぇよ。 何か考えといて」


亮介はそう言うと、自分の教室に戻って行く。


『幻獣以外? 無属性の大剣でも賭けるか? 全然バランス取れないけど…』


くるみはそう思いながら、窓の外を眺め、考えていた。



マジックウォーリアという事が発覚したこの日から、くるみはヒーラーだけではなく、マジシャンとマジックナイト、ウィザードとウォーリアの授業を受けることに。


全ての授業は受けられないため、教師が特別に組んだタイムテーブルを基に、いろいろな教室を移動しながら、授業を受けることになった。


『移動、めんどいなぁ』


くるみはそう思いながら、休み時間に訓練ダンジョン前に移動しようと、廊下を歩いていると、亮介とその周りにいる人だかりが視界に飛び込む。


くるみが近づいた途端、人だかりは一瞬にして静まり返り、道を作るように壁にぴったりと引っ付いた。


『うっぜー』


くるみは苛立つ気持ちを抑えきれず、イライラしたまま歩いていると、くるみが通った後にコソコソと話す声が聞こえてくる。


コソコソと聞こえてくる声は、くるみを更に苛立たせていた。


苛立ちながら階段を下りていると、葵がまたしても男の子たちにからかわれているのが視界に飛び込んだ。


「お前さ、姫野に回復してたけど、全然回復してなかったよな?」


「マジで才能無さすぎるんだよ。 あんなしょぼい回復なんて意味ねぇじゃん」


「擦り傷すら満足に回復できないとか、辞めたほうが良いんじゃね?」


くるみはその横を通り過ぎようとして、ピタッと足を止め、以前【???】から出てきたステッキを、無言で葵に差し出した。


「え? え?」


「やる。今日以降、これ使え」


「え? あの… いいの?」


「回復できないのは装備が悪すぎんだよ。 それならちゃんと回復できる。 いらないなら折る」


葵は目を輝かせ「あ、ありがとう!!」と言いながらステッキを受け取り、さっさと行ってしまったくるみの後を追いかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る