第54話 case54

数時間後、くるみはやっと反省文を書き終え「よっしゃ~!帰る!センセーばいばいぶー」と言い、逃げるように走り出した。


教師は「ったく…」と言いながらくるみの書いた反省文を整えていると、ヒーラーを専攻している女性教師が中に入ってくる。


「姫野さん、やっと終わったんですね」と、男性教師に話しかけると、男性教師は「そうですね…」と言いながら大きく息をつき、くるみの反省文を読み始めた。


一番上の紙には【突然のキマイラ襲撃に対し、みんなの安全を確保しつつ、戦闘をしようと思ったのですが、校内が狭すぎて満足に動けなかったし、キマイラの注意がみんなに向くと、みんなが危険な目に遭い、怪我人及び、死人が出ると判断したため、校内でキマイラ相手にノック打ちをし、校内を破壊しまくりました。けど、怪我人も私だけだったし、死人も出なかったので、よくやったと思います。】と、嫌味ったらしく書いてある。


男性教師はそれを読みながら『確かに… 一瞬気を逸らしたときには、教室内を威嚇してたしなぁ…』と考え、1枚めくると、そこには大きく【ご】と書いてあった。


『【ご】?なんだ?ミスか?』と思いながら紙を捲ると、次の用紙には【め】とだけ書いてある。


教師は嫌な予感を察知し、全てを並べてみると、そこには【ごめんなさい。もうしませんかもしれないかもしれないかもしれないかもしれないかもし】と書いてあった。


「姫野ぉぉぉぉ」と男性教師が怒りをあらわにすると、女性教師がクスクスと笑いながら伝えてくる。


「まぁまぁ、彼女のおかげで怪我人が出なかったんですし、大目に見てあげても良いんじゃないですか? もし、彼女が居なかったら、学校だけではなくて、町全体が大変なことになってたかもしれませんよ? それにしても、今年の1年はすごいですね! いきなり上級職になる子が2人も居るなんて、創設以来初じゃないですか? ノリちゃんとセイジ君でさえ転生したって言うのに、しかもあんな小さな体で、たった1人で幻獣を倒しちゃうなんて、ホントすごいですよ。 彼女」


男性教師は妙に納得させられてしまい、ため息をつくだけだった。



くるみは急いでギルドに行くと、ギルドルームの中で4人が話していた。


「ちゃ~っす」と言いながらギルドルームの中に入り、すぐにアイテム製造機でマナポーションを大量に作ると、ノリが「仇打ったんだって?」と聞いてきた。


「うん。 やっと見つけた」


「探してたの?」


「そだよ。 ソロダンジョンで尻尾のないキマイラ見たって話聞いて、ずっと籠ってた」


「そう言う事ね! で、キマイラはどうだった?」


「あのヤギ、属性が効かないんだって。 氷のアックスが当てられない訳だよね。 無属性なら普通に通ったけど」


「おっそろしぃ~。 で? これからソロ行くの?」


「反省文で疲れたから行かない。 マナポ作りに来ただけ~ んじゃ~ね~」


くるみはそう言うと、ギルドルームを後にしていた。


それを見届けた後、亮介が「一人であれを殺るって、半端ないっすよ。 あいつ」と言い、3人は言葉を失っていた。


太一が「素材って没収?」と聞くと、亮介が「いや、独り占めっす。 怪我人も死人も出さなかったし、その辺は大目に見てるんじゃないっすか?」と言うと、セイジと太一、ノリまでもが眉間に皺を寄せた。


「どうしたんすか?」


亮介が聞くと、セイジが小さな声で答える。


「幻獣の素材… 激レア中の激レアだ。 煉瓦なんて目じゃない」


「とうとう媚を売る時が来たか…」


太一は真剣な表情のまま、くるみのロッカーを睨みつけていた。

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