第56話 case56

集合場所に着いたくるみは、氷の装備を身に纏うと、知らない男の子から話しかけられた。


「同じチームにならない? 足は引っ張らないようにするから」


くるみは無言のまま葵とチームを組むと、さっさと訓練ダンジョンの中へ行こうとしていた。


「くるみ! 待って!!」


亮介は慌ててくるみに声をかけたが、アイカとミナの黄色い声でかき消されてしまい、くるみと葵はダンジョンの中へ消えて行く。


亮介は「今日はソロで行きたいからゴメン!」と言った後、人の群れをかき分け、慌ててダンジョンの中に飛び込んだ。


アイカとミナは「なにあれ… 追いかけちゃおっか」と言い、孝文と和夫の4人で亮介の後を追いかけた。



くるみは葵を引き連れて、真っすぐにボスの部屋を目指し、亮介はその後を追いかけていた。


が、くるみは少し歩くと、葵の首根っこを掴んで飛んで行ってしまい、亮介は二人を完全に見失っていた。


くるみはボスの部屋に着くなり、葵に「通路に居ろ」と言い、魔法は一切使わずに物理攻撃だけで戦い始める。


魔法を使っていないせいか、くるみは左足に大きな傷を負った後、ボスを撃破していた。


「回復してみ?」


くるみがそう言いながら左足を出すと、葵はもらったステッキを手にしてしゃがみ込み、回復魔法を使い始める。


今まではじんわりと回復していた程度だった傷は、見る見るうちに回復し、あっという間に完治させていた。


「凄い!! こんなに早く回復出来た!! 魔法のステッキだ!!」


葵は目を輝かせながら喜び、くるみは素朴な疑問を葵にぶつける。


「…魔法のステッキだから回復出来るんじゃないの?」


「あ、そっか! そう言えばそうだね!」


葵は「えへへ」と言いながら恥ずかしそうに笑い、くるみはクスっと笑った後、「隠れてんじゃねーよ」と階段の方に向かって呼びかけた。


亮介は階段の陰から出てくると、くるみに歩み寄りながら「ブーツ舐めさせてるのかと思った」と笑いながら言い、木刀を差し出した。


くるみは「そんな趣味ねぇわ」と言いながら木刀を受け取る。


「ねぇ、賭けるってこれで良いの?」


くるみは無属性の大剣を出しながら言うと、亮介は「いや、もっと貴重なもんが良い」と笑いながら答える。


「もっと貴重なもの? やっぱ幻獣じゃん」


「幻獣はいらないって。 もっといい物、持ってるだろ?」


「いい物? 幻獣以外ないよ?」


「まぁ勝ったら教えるわ。 100%俺が勝つし」


「ほざけ」


二人は距離を取って構え、同時に踏み切って飛びかかった。



アイカとミナ、孝文と和夫は、階段に隠れながら二人を見ていたせいで、何を話しているのかわからなかった。


が、4人は二人の姿を一切捉えられず、一瞬にして消えたように感じ、四方八方から木刀がぶつかる音が、聞こえてくるだけだった。


「あの二人、何してるの?」とアイカが聞くと、ミナは首をかしげるだけだった。


4人はしばらく見ていたが、何が起きているか全くわからず「ボスいないしつまんない。帰ろ」とアイカが言うと、4人はぞろぞろと階段を昇って行ってしまった。




葵は普段からくるみの動きを見ていたせいか、目で追うことが出来るようになっていた。


『すごい… 魔法を使わないくるみさんもすごいけど、完全についていってる亮介君も凄すぎる…』


葵がそう思っていると、二人は真ん中で木刀を合わせ、突風が起きていた。


二人はそのまま力比べを始めると、亮介が切り出した。


「チュウしていい?」


「同じ手に乗るかよ…」


くるみはそう言うと、両腕にぐっと力を込めて亮介を押し返す。


亮介はくるみに押されていると、『押して押して押しまくって押し倒しちゃえ』と言っていたノリの言葉が頭を過った。


亮介は、力を込めてくるみを押し返し、顔をグイっと近付ける。


「まだまだ…」


くるみが小さく言いながら押し返すと、亮介の顔が更にグイっと近づき、そのまま唇を奪われた。


『なっ!!』


くるみの顔は一瞬にして真っ赤になり、葵は手で顔を隠し、指の間からしっかりとみている。


くるみがバックステップをするために、亮介の体を押し返そうとすると、亮介の片手がくるみの小さな両手を捕らえ、もう片方の手でくるみを抱き寄せる。


2本の木刀がカランと音を立てて足元に落ちると、亮介は両手でしっかりとくるみを抱きしめる。


「…ファーストキス。 貰った」


亮介はそう言うと、再度唇を重ね、逃げられないようにくるみの頭を抱え、気持ちを伝えるように熱いキスをし続けた。


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