第28話 case28

放課後、くるみは亮介に連れられて電車に乗っていた。


『この状況、マジやばくね? 王子とデートして、しかも炎像の煉瓦も貰えるんでしょ? 一石二鳥じゃね?』


くるみは少しウキウキしながら亮介と並んで歩き、目的地にたどり着いた瞬間、一気にテンションが下がっていた。


そこは賢者たちがいる、教会のような大きな建物の前。


亮介は嬉しそうに「ほら、行くよ」と言い、中に入ってしまった。


『えー… ここかよ… 映画とか買い物とかじゃないのぉ?』


ため息をつきながらくるみが中に入ると、亮介はシスターと何かを話し、シスターは慌てて扉の奥へ。


亮介は「こっち」と言いながら、くるみをウォーリアの間に案内し、中に入ると、広いウォーリアの間のど真ん中で、ウォーリア賢者が腕を組んで立っていた。


「お? 小娘、どうした?」


ウォーリア賢者の言葉に、亮介が反応する。


「師匠、頼みあんだけど、くるみとタイマン張ってくんない? ガチで」


「は?」


くるみが声を上げると、ウォーリア賢者は「がはははは。面白い。良いだろう」と大声で笑い、くるみに木刀を投げてきた。


くるみは木刀をキャッチすると、持っていた鞄を投げ捨てた。


すると、扉が開き、慌てた様子のヒーラー、ウィザード、マジックナイトの3賢者が姿を現す。


「しゃーねーなぁ…」


くるみはため息交じりにそう言い、木刀を肩に担いで体制を低くする。


ウォーリア賢者が「来い!」と言った瞬間、くるみは左手を地面につけると、ビュンっという音を立て、ジェット噴射のように勢いよく飛び立つ。


『来る!』


ウォーリア賢者が木刀で脇腹をガードすると、くるみの膝が顔面にめり込んだ。


鼻血を噴き出しながら倒れこむウォーリア賢者と、木刀を担いだまま、片膝をついて着地するくるみ。


くるみはゆっくりと立ち上がりながら振り返り「もういい?」と聞いた。


施設内はシーンと静まり返り、誰もが言葉を失っている。


くるみは木刀を投げ捨てた後、ウォーリア賢者に向かって指をはじき、ウォーリア賢者はゆっくりと起き上がった。


「小娘、いや、マジックウォーリア… また強くなったな…」


「風の威力が強まったのは感じてるねぇ。頻繁に使ってるからかな?」


「魔法なしでやってみるか?」


「無意識で使ってるから無理だよ」


くるみの言葉を聞き、ウォーリア賢者は「がははは」と豪快に笑っていた。


すると、くるみは呆然とする亮介に駆け寄り、掌を差し出した。


「な、なに?」


「煉瓦。 約束でしょ?」


「俺は検討するって言ったの! あげるとは言ってない!」


「えー!ずるくない?」


「ずるくない! 人の話聞いてねぇのが悪いんだろ?」


「えー。 やりたくもないタイマン張ったのに…」


ブツブツ言いながら下を向いているくるみを眺めながら、亮介は優しく微笑みながら切り出した。


「じゃあさ、もう一個、付き合ってくんない?」


「どこに?」


「ギルド集会所。 つっても、ウォリになったらだけど、本当のダンジョン行ってみたい」


「お安い御用だよ。 煉瓦は前借って事で…」


「だめ。 成功報酬」


「えー…」


亮介は、ブツブツ言いながらふてくされるくるみを眺めていた。


『マジックウォーリアだったんだ。 ヒーラーの時は無口でおどおどしてるだけだったけど、断然こっちの方がいいじゃん。 マジ可愛い』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る