第26話 case26

通路に避難していた男の子たちは、呆然と砂埃の奥を見ていた。


砂埃が収まった後、視界に入ったのは、揺らめく炎の前で、動かなくなった石像の上に立つくるみの姿。


『石像が動く? 魔獣って生命体だけじゃないの?』


くるみが足元の石像を見ながら考えていると、「くーちゃん!」と言う声が聞こえ、くるみは通路の方に目を向けた。


視線の先には駆け寄ってくる男の子たちの姿。


「あ… やっべ」


くるみは小さく呟いた後、石像の一部を蹴り飛ばし、中から素材と魔法石を取り出し、ジャンプして石像から降りた。


「くーちゃん、今の…」


刀を装備していた子が言うと、くるみは素材と魔法石を投げ、男の子たちはそれをキャッチし、葵だけが取り損ねていた。


「口止め料。 今見たこと、誰にも言わないでね。 言ったらこの石像みたくなるよ?」


最後の一言で、男の子たちに緊張が走ったが、亮介だけが口を開いた。


「…本当にヒーラーなのか?」


「そう言う事にしといて」


「だって… アックスはウォーリアしか装備できないはずだろ?」


「特例って事で」


くるみはそういった後、スタスタと通路に向かって歩き始めたが、亮介は「ちょっと待てって!」と言いながら、赤くただれたくるみの腕を掴んで引き留めた。


「痛っ…」


「あ、ご、ゴメン」


亮介が手を離しながら言うと、くるみの腕が緑色の光で包まれる。


「す、少しだけじっとしててください」


葵はそう言いながら、回復魔法をくるみの腕にかけていた。


くるみはため息をつきながら、その場に立ち止まっている。


「その装備で帰ったらバレるだろ?」


「あ… そっか。 そういやそうだね。 サンキュ」


亮介の言葉にくるみは返事をし、右手で赤くなった左腕を撫でる。


すぐにくるみの赤くただれた左腕は元に戻り、くるみは歩き始めた。


くるみは練習用装備に変えながら、スタスタと歩いていく。


するとすぐに走り出し、その後を追いかけたのは、葵だった。


「あ、あの… 僕もくるみさんみたいになれますか?」


葵はくるみの後を追いかけながら聞くと、くるみは「無理。今のは忘れろ」と言いながらスタスタと行ってしまう。


葵はその場に立ち止まり、がっかりしたように俯いていると、亮介が葵の肩を叩いた。


「忘れたほうが良い。 あれはヒーラーじゃない」


「だってヒーラーの実力って…」


「絶対に違う。 アックスを装備できるヒーラーは存在しない。 マジックウォーリアでも、あそこまでの魔力を持ち合わせてないはずだ」


亮介と葵は疑問を抱きながらダンジョンを後にした。




放課後、くるみはギルドルームに行き、炎属性の装備を作ろうとしていた。


『この前、作ろうと思ったけど、インベトリ拡張したら忘れちゃったんだよなぁ…』


そう思いながら装備作成機を弄っていると、エラーが起き、液晶には【炎像の煉瓦 0/1】と表示されていた。


「あれ? さっき取ったよなぁ…」


そう思いながらよくよく考えてみると、亮介に投げ渡していたことを思い出した。


「あ… そういやあげちゃったんだ…」


仕方なくりつ子の元へ行き、「りつ子さん、炎像の煉瓦って売ってたりする?」と聞くと、りつ子はタッチパネルを操作する。


「あるにはあるけど、レアなのよねぇ… 290万に販売手数料がプラスされて350万。それに仲介手数料がかかって380万。 それと販売施設維持費が加算されて425万。 買う?」


「え? 1万しかないよ? 5000にまけて?」


「頑張って稼いでらっしゃ~い」


『ぼったくりだ…』


くるみはがっくりと肩を落としながら、ギルドルームに帰っていった。

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