第25話 case25

亮介たちと通路を歩いていると、焦げ臭いにおいが鼻についた。


くるみだけではなく、亮介たちもそれに気が付き、広間の方を振り返る。


すると、広間の中心から、小さな煙が上がっていた。


小さな煙は徐々に大きくなり、小さな炎を上げ始める。


「伏せろ!!」


亮介はそう叫んだあと、くるみをかばうようにしゃがみ込んだ。


が、爆発音とともに突風が巻き起こり、その場にいた全員が風で飛ばされ、勢いで転がってしまう。


「くる…」


亮介はそう叫びながら腕の中を見ると、ワンドを装備した男の子が「痛ぇ…」と言いながら腕をさすっていた。


炎の方を見ると、くるみが通路の先で、体全体を使い、氷の壁を支えていた。


『クッソ… 装備がしょぼい… 装備変更… だめだ… 気を抜いたら溶ける…』


くるみはそう思いながら、苦しそうな表情をし、必死に氷の壁を支えている。


横目で通路に視線を向けると、通路の真ん中には腰を抜かし、動けないままでいる葵の姿。


「逃げて… 早く…」


声を振り絞るように葵に向かって言ったが、葵はガタガタ震えたままで動くことはなかった。


『クッソ…』


くるみがそう思った瞬間、再度、広間の中心から大爆発が起き、亮介の足元まで水が迫ってきた。


「クーちゃん!!!」


刀を装備した子が言うと、背後から「気安く呼ぶんじゃねぇっつーの」と言うくるみの小さな声が聞こえた。


くるみは葵を放り投げた後、「何が練習用だバカ野郎… 2重ダンジョン出来てんじゃねぇかよ…」と言いながら、ゆっくりと立ち上がる。


くるみは立ち上がった後、インベトリから水色の液体が入ったガラス瓶を取り出し、先端を指で弾いた。


くるみは水色のマナポーションを飲みながらゆっくりと歩き、男の子たちは道を開けるように壁にくっつく。


くるみが1歩進むたびに、練習用装備は上から徐々に姿を変え、青と白のグラデーションがかかった鎧とブーツに変わっていった。


くるみは歩きながら、もう1本のマナポーションを開け、ぐびぐびと飲みながら歩き、迫り来ていた水の上に足を乗せると、くるみの足の周囲は氷に姿を変え、氷の道を作り出していた。


亮介の前を通ったとき、「くるみ…?」と亮介が呼んだが、くるみは声に耳を傾けず、どんどん進んでいく。


くるみは空になったガラス瓶を壁に叩きつけ、ガラス瓶はバリーンと言う音を立てながら粉々に砕け散った。


すると手の中に、青と白のグラデーションがかかった両刃アックスが収まる。


『両刃アックス? ヒーラーなのに?? なんで?』


亮介は目を見開いてアックスを見ていると、くるみはアックスを肩に担ぎ、大きく足を開いた。


「ぼくちゃん!ヒーラーの実力じつりき見せちゃる!!」


くるみは大声で言った後「It's Show Time」と小声で言い、左手を地面につけた瞬間、爆風が起き、亮介以外のみんなは吹き飛ばされた。


「凄い…」


ただ一人、吹き飛ばされなかった亮介は、くるみの動きを目で追っていた。


瞬間移動のように、くるみは四方八方に飛び回り、炎の塊をアックスで切りつける。


『こいつの正体なんだ?』


くるみはそう思いながら飛び回り、アックスを振り回すたびに、炎の塊を小さくしていた。


「しゃらくせえええええ!!」


宙を舞っていたくるみはそう叫び、くるくると回転しながらアックスを地面にたたきつける。


すると、壁の一部が凍り付き、炎の塊は完全に鎮火した。


炎が完全に鎮火した後、湯気の中から姿を現したのは、人の形をした石の塊。


「…石像?」


くるみが小さく呟くと、石の塊は大きな口を開け、勢いよく炎を吐き出した。


くるみは間一髪で躱せずに、左腕に炎を纏う。


くるみは左腕に炎を纏ったまま、石像の首をめがけて一直線に飛び立つ。


『届かない!!』


亮介がそう思った瞬間、アックスの先端が巨大な氷の塊となり、くるみは空中で石像の頭をフルスイング。


バコーンと言う爆音を立てながら、石像の頭は吹き飛び、砂埃を上げながら壁にめり込んだ。

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