第9話 case9
セイジはくるみのステッキを手に取り、眉間にしわを寄せ、太一はポーションを飲んで回復していた。
ノリは辺りを見渡し「まだだね」と小さく呟く。
するとセイジが、インベトリからステッキとローブ、小さな帽子を取り出した後、くるみに手渡し、「これ装備してみろ」と言った後、さっさと先に歩いて行ってしまった。
くるみは言われるがまま、もらった装備を身にまとい、先を行ってしまったセイジを3人で追いかけた。
しばらく歩いていると、魔獣の咆哮が遠くから聞こえてくる。
するとセイジが、眼鏡を擦り上げながら「お前、一人でやってみろ」と言い始めた。
「え?…無理です」と、くるみが泣きそうになりながら言うと、セイジは「さっきと一緒だ。魔獣の顔めがけて回復魔法を放てばいい」と言った後、歩き始めてしまい、太一はくるみを見ながら歩き始める。
ノリはくるみの肩をポンっと叩き、「いざとなったら守ってあげるから大丈夫よ」と言い、くるみの肩を抱いて歩き始めた。
しばらく歩くと、熊の魔獣が姿を現し、鼓膜が破れそうなほどの大声で咆哮してきた。
ガタガタと足が震える中、くるみは必死に『顔めがけて回復魔法を放てばいい』と言う言葉を思い出していた。
『大丈夫。この強いステッキさえあればできる!』
くるみは両手の掌を重ねてステッキを親指に引っ掛け、魔獣の顔に向けて回復魔法を放った。
すると、今までにない程の大きさをした緑色の光が、爆音と共に、熊の顔をめがけて一直線に放たれた。
勢いでくるみの体は後ろに下がってしまいそうになったが、ノリがくるみの体を背後から支える。
光が無くなると同時に視界に飛び込んだのは、頭部のない熊の魔獣。
胴体だけになった熊の魔獣は、数秒経った後、勢いよく血を噴き出し、辺り一面に血の雨を降らせた後に倒れこんだ。
血の雨が降る中、くるみを含めた4人は、呆然とすることしか出来なかった。
血の雨が止んだ頃、セイジが「お前、名前は?」と聞いた。
「姫野くるみです」
「うちのギルドに来い。必ずだ。いいな?」
「え?あ、はい」
くるみが返事をすると、金色に光る蝶がひらひらと舞い踊り、木に留まった。
金色の蝶は次第に光を強く放ち、金色のゲートを作る。
「帰るぞ」
セイジはそう言うと、4人はぞろぞろと、金色のゲートの中に入っていった。
しばらく歩くと、金色の靄は白い靄に変わり、靄を抜けた先にはギルド集会所にたどり着いた。
カウンターの中に座っていた女性が「あら。今日はずいぶん早かったわね」と声をかけると、セイジはその女性に向かい「りつ子さん、あの子、ギルドに入れる」と言い切っていた。
「セイジが言い切るなんて珍しい」と言った後、りつ子さんは黒いブレスレットをくるみに手渡す。
「それ、学校用のでしょ? 見た目は同じだけど、こっちの方が収納数多いし、使いやすいわよ。それにギルドルームも使えるから、のんびりしたいときはそこを使ってね」と言い、優しく微笑んだ。
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