第5話 case5

『遅ぇな… 姫野くるみ』


亮介はそう思いながら、建物の前にある階段に座り、脇腹を押さえていた。


亮介は、くるみとは別の部屋に案内されてすぐ、プロレスラーのような体系をする教官から木の棒を投げ渡され、適正訓練をさせられていた。


亮介は、何度も攻撃を仕掛けてみたが、全て躱されてしまい、教官の放った1撃が脇腹を強打。


蹲って立ち上がることが出来ない亮介に対し、教官は「これでも貼ってろ」と言い、湿布を投げつけてきた。


結局、ジョブチェンジも出来なければ、痛い思いをしただけで、良いことと言ったら湿布をもらったくらい。


『なんなんだよったく… 適正訓練って、こっちは学科しかやってねぇっつーの』


亮介は痛む脇腹を押さえながら、くるみが出てくるのをずっと待っていた。


『あいつ遅すぎねぇか? んだよ、ヒーラーっつってたから、回復してもらおうと思ってんのに…』


そう思っても、立ち上がろうとするだけで激痛が走り、歩くことさえできない状態。


しばらく待っていると、シスターに支えられたくるみが、中からゆっくりと出てきた。


『あ…』と思いながら亮介が立ち上がろうとすると、激痛が走り、脇腹を抱えて蹲ってしまった。


「ってぇ…」と亮介が小さく呟くと、くるみは黙ったまま亮介に近づき、脇腹を押さえている亮介の手の上に、自分の手をそっと添えた。


すると、くるみの手の中から、ぼんやりと緑色の光が溢れ出した。


『え?あ、痛くない…』


亮介がそう思うと、くるみの手から溢れていた緑色の光は、徐々に小さくなり、くるみはふーっと大きく息を吐いた。


「あ、さんきゅ」と亮介が言うと、くるみは軽く微笑んだだけで、言葉を発することはなく、ふらつきながら駅の方へ向かっていた。


亮介は急いでくるみを追いかけ、軽く走ってみたが、痛みは全く感じなかった。


『すげぇ… あれが回復魔法ってやつ? って事はジョブチェン成功したって事か?』


そう思いながらくるみの隣に並び、俯いているくるみの顔を覗き込むと、くるみの表情は疲れ果てていた。


「…大丈夫か?」


亮介が声をかけても、くるみは微笑んで返してくるだけ。


『ヒーラーって一番楽そうに見えるよな。 そんなに大変なのか? って事は、ウォーリアって、かなりやばいんじゃねーの?』


亮介は先の不安に軽く身震いをしながら、くるみの隣を歩いていた。



この日から、二人は学校終わりにここに通うようになった。


亮介は、毎日のように、教官からこれでもかってくらいに、木の棒でボコボコに殴られ、帰りはくるみの事を階段に座りながら、傷口を押さえて待つ。


くるみは中から出るとすぐ、亮介を魔法で回復し、ふらつきながら帰っていく日々。


二人は放課後、毎日のように一緒にいたが、亮介はくるみが中で何をしているのか、ヒーラーはどんなトレーニングをしているのか、何も知らないままでいた。

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