第3話 case3

二つの測定器が破裂した途端、周囲に居た教師はバタバタと慌て始めた。


一つは古いものだったから、壊れても仕方がないとしても、もう一つは新品。


しかも、かなり高価なものだから慌てるのも仕方がない。


くるみが慌ただしく動いている教師を見ていると、ひとりの教師が「悪いけど、向かいの待機室で待っててくれ」と声をかけてきた。


測定室の向かいにある、待機室で椅子に座り、待っている間、『2個も壊しちゃった… お母さん呼ばれるのかな…』と、くるみは考えていた。


しばらくボーっと足元を見ていると、待機室のドアが開き、ワイシャツの第2ボタンまで開けた男の子が、ポケットに手を入れたまま中に入ってきた。


男の子は「あれ?ここで良いんだよな?」と、独り言を言いながら、廊下と室内を交互に見る。


くるみはその男の子を見て『不良っぽい… 怖い…』と思いながら、小さな体をさらに小さくしていた。


「B組の姫野くるみだっけ?」と男の子が言うと、くるみは黙ったまま頷く。


すると男の子は、「ふーん」と言っただけで、くるみとは距離を開け、空いている椅子にドカッと座った。


静まり返った待機室の中、しばらく待っていると、男性教師が二人を呼びに来た。


エレベーターで地下3階に行くと、狭い部屋の中には1台のリクライニングチェアが置いてあるだけ。


くるみと男の子の腕が触れてしまうくらい狭い部屋の中、一人の女性教師は椅子に座り、モニターを眺めていた。


男性教師が「まず姫野からだな。そこに座ってくれ」と切り出した。


くるみがリクライニングチェアに座ると、椅子に座っていた女性教師は、くるみの両腕とこめかみ、更には足首にチューブの付いた吸盤を付け始める。


「じゃあ姫野さん、ゆっくり目を閉じて、ゆっくり息を吸って… そうそう ゆっくり息を吐いて… 吸って…」


女性教師に言われるがまま、くるみは目を閉じ、ゆっくりと呼吸をしていた。


体が浮かんでいるような感覚に襲われながら、ゆっくりと呼吸をしていると、突然ブザーが鳴り響いた。


驚いたくるみが目を開けると、目の前には天井が。


「え?」と小さく声を上げた途端、体は急降下し、くるみは「きゃっ!」と、悲鳴を上げ、思い切り目をつむった。


が、リクライニングシートに叩きつけられることはなく、くるみが目を開けると、男の子に抱きかかえられていた。


一瞬にして、くるみの顔は赤くなり、「あ…ありがとうございます…」と言うと、男の子は赤い顔をしながらそっぽを向き「ああ」と言うだけだった。


男の子は赤い顔のまま、ゆっくりとくるみをおろし、「次俺だろ?」と、男性教師に聞き、男性教師は「ああ」と答えていた。


くるみは体に張り付いている吸盤を急いで外し、男性教師の陰に隠れる。


男性教師が「次、河野亮介です」と言うと、女性教師はリクライニングシート座っている亮介に、両腕とこめかみ、足首に吸盤を付けた後、モニターの前に移動した。


「じゃあ河野君、ゆっくり目を閉じて、ゆっくり息を吸って… ゆっくり息を吐いて… 吸って…」


女性教師がくるみと同じように言うと、亮介の体はほんの少しだけ浮かび上がった。


男性教師と女性教師は、それを見た後にコソコソと話をしていた。


「河野君、もういいわよ」と亮介に合図を送った後、亮介の体はゆっくりとリクライニングシートに収まり、自ら吸盤を外していた。


女性教師は「二人ともお疲れ様。希望のジョブはある?」と聞き、亮介は「ウォーリア」と言い、くるみは「ヒーラー」と答えた。


女性教師は「OKよ」と言った後、奥から大きな封筒と地図を手渡してきた。


「今すぐここに行って頂戴。 ここに行けばジョブチェンジできるわ」

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