職務質問

冬も近づいてきた11月の半ば。夜の1時過ぎだ。


俺が仕事の下準備にいそしんでいると、不意に声をかけられた。


「こんばんは。今少しお話よろしいですかね?」


紺色の制服に帽子。腰にはやたらゴツイ何かを釣ったベルト。


そして醸し出されるとんでもない威圧感。


はあ。またこれだ。正直かなり面倒ではあったが俺は努めてにこやかに答えた。


「なんでしょう、おまわりさん?」


少しばかり警戒を緩めて彼は聞く。


「今、夜の1時なんだけどね、何してるの?」


「なんか窓からのぞき込んでるように見えたんだけど、ここお兄さんの家じゃないよね?」


仕方がないから正直に答える。


「この家の間取りを窓からのぞいて調べてました。」


警官の顔が一気に険しくなる。


「どうしてそんなことを?」


正直に答える。


「仕事の下調べに。この家には小学生の女の子がいるんで。」


警官はもう凶悪誘拐犯を見る目になっている。まあそりゃあそうだろう。


「とりあえず、署まで来てもらえるかな?寒いし。」


こうなったら仕方ない。俺はすごすごとついていった。




尋問は続く。


「身分を証明できるもの、ある?保険証とか。」


頭を掻いて答える。


「持ってないです…」


持ってはいるが、仕事の関係上見せるわけにはいかない。


参ったなあと言わんばかりに警官はため息をつく。


「その白いバックには何が入ってるの?見てもいいかな?」


「どうぞ。」


「ええと、地図、筆箱、それにスマホかあ。」


特に怪しいものが入ってなかったので、そこは助かった。


「お仕事は何を?」


ああ、遂にこの質問が来てしまった。正直非常に言いづらい。できれば言いたくなかった。


ばれたら仕事に支障が出かねない。というか、信じてもらえるかも怪しい。


それでも背に腹は代えられない。俺は覚悟を決めて言った。


「〇〇〇です。」


とんでもなく胡散臭そうな顔で見られたが、信じてもらえた(?)らしく何とか俺は解放された。


正気を疑われてアルコール検査と薬物検査までされたのは心外だったが。




「ああ、疲れた…」


もうすぐ朝になってしまう。そろそろ仕事の本シーズンが近づいてるっていうのに。


もうこの際、下調べの時も白いつけ髭と赤い服を着てこようか。じゃないとただの不審者だもんな。




27代目の若きサンタクロースは大きく伸びをすると、肩を落として帰路についた。

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ショートショートSF @mizutarou

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