交錯

「さて、どうしますかな。」


「困りましたねえ。」


二隻の宇宙船の責任者、S船長とR船長はモニター越しに苦い表情をしつつ話し合いを始めた。




彼らはそれぞれ、ある惑星軌道上に珍しい現象の観測のためにやってきた。ところがここで問題が起こった。計算によると、宇宙船同士があと三日ほどで衝突してしまうのだ。しかし、彼らの宇宙船は既に燃料が乏しく、回避する軌道をとると燃料不足で観測は不可能となって今までの苦労は水の泡となってしまう。それどころか、下手をすると母星に帰還できなくなる可能性もあった。




S船長は提案した。


「こうなったら仕方ない。観測はあきらめて互いに少しずつ軌道をずらして回避しましょう。」


R船長も同意して、


「その通りですな。少し軌道をずらすだけなら何とか互いの母星には帰れるでしょう。」


「観測はしたいが、お互い命には代えられませんからな。」


彼らはこうして、観測をあきらめることになった。




通信が切れると、S船長はすぐに指令を出した。


「反物質ミサイル装填、発射用意。目標、本船進行方向、宇宙船。」


船員の一人が驚いて聞き返した。


「み、ミサイルですか?回避する手はずでは?」


S船長は嗤って言った。


「馬鹿なことを。あちらを破壊してしまえばこちらは助かり、観測も続行できるではないか。」


船長の命令は絶対である。船員は指令に従った。


「ミサイル、発射準備完了。」


「目標捕捉完了。発射!」


発射音を聞きながら、S船長はほくそ笑んだ。


「悪く思うな。貴様らの命よりもこの観測の結果のほうがよほど価値がある。」




直後、警報が鳴り響いた。


S船長がうろたえつつ訊く。


「何事だ!」


船員が叫ぶ。


「本船進行方向より高速飛翔体、接近中!ミサイルかと思われます!」


「回避不可能!衝突しま――




5分前、もう一方の宇宙船のR船長もまた、嗤いながら言っていたのだ。


「奴らには悪いが、この観測は奴らを犠牲にしてでも遂行する。ミサイル発射用意。」




彼らのミサイルは交錯し、互いの宇宙船へと飛んで行った。


二隻の宇宙船からの通信は、ほぼ同時に途絶えた。

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