第16話 冬至カボチャとお汁粉

数日後、セイエンの機械都市での行商が終わりバリー達は共に海の国へと発つ準備をしていた。


「結局この国に来てからはセイエンの仕事手伝いかエデの家事手伝いばっかりだったな…。」


「車イス生活のオジョーサマが居るのにまったく…使用人は何をしてるんスかねぇ…。」


「ラート、正座。

海の国式の正座しなさい。」


「ちょっ、ジョーダンですってオジョーサマ。

それに、を作れと命じたのはオジョーサマじゃないっスか!

と、言う訳でバリーサンはいドーゾ。」


ラートが手にした革の包みを手渡す。

開くとそこには金属で出来た3本の矢が現れた。


「コレは…。」


「ただの矢じゃないッスよぉ!

コレは鏃にエアリィサンのAirealに使った際に削ったカーバンクルの魔石を混ぜた合金を使用してシャフト部分にオジョーサマのティータイムを削って書いていただいた小さく、薄く、軽い特別規格の魔符を装着した矢版のマギア!商品名は…エアリアル…アロー…エアリアロー…イヤ、ダサいか…うーん…エアリィ…エアロー…『Airrow』!コレで行きましょう!コレを番えて放つだけで魔法が使えない魔法オンチ、通称マンチでもあら不思議!簡単に魔法弓兵に早替わりって訳っすよ!まぁ…今言った通り専用の魔符を使用して付け替えの機構も矢を飛ばすための気流とかの邪魔になるし重くなるしなので剣とか杖と違って魔符の付け替えは出来ないので使えるのは簡単な3種類だけッスそもそも飛び道具と言う関係上戦闘中に何度も付け替えの機構の必要ないとは思うッスけど…。あと、それぞれ一本しかないので使ったら回収推奨ッス。」


「あ〜…簡単に言うと魔法の効果がある矢ってことで良いの…か?」


「そんな感じッス!因みに効果はそれぞれ…。」


「…出発できます?コレ。」


「バリーの荷物も僕たちで用意しとこうか…。」















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機械都市ギアリス南門

長い階段を下った先に巨大な先に機械仕掛けの巨大な門が存在し、階段の上…都市部からは美しく整然とし並木が並んだレンガの馬車道を中心に左に森が茂り、右にやや荒れた草原の景色が広がっていた。


「森の国方面の景色と全然違うね。

ちゃんと道らしい道がある。」


バリーとセイエンが門に常駐する騎士と手続きを行なってる最中、エアリィとリンは見送りに来ていたエデ、ラート、ネルムと話をしていた。


「機械都市の主な貿易国は海の国ですからね。

必然的に海の国へ繋がる道は他の国と比べてしっかり整備されてるのよ。」


「なんか差を感じてヤダなぁ…。」


「都市の金も無限ってワケじゃないんスよ。

まぁ、都市のおエライサンの海の国贔屓は昔っからッスけど…。」


「森の国もまだマシな方なんですけど…やはり格差はありますよね。

エネミー避けの魔法が敷かれて、定期的に騎士による警備まで行われてますから。」


「それはそうと、ネルムさんはここでお別れなの?」


「そうですね、今回は理由があって同行しましたけど元々僕は森の国のギルド所属なので…。」


「…一人で帰れる?」


「帰れますよ⁉︎こう見えても僕ハンター歴長いですよ⁉︎」


リンの失礼な質問に若干ムキになりながら返答する。


「…それにしても、バリーたちの手続き長いね。」


「そうねぇ…多分だけどまだかかるでしょうし、もう少し女子のみでお話しましょうか。

私、本物のエルフの方とお話ししたことないから色々と聞きたいと思ってたのよ。」


「え?良いけど…なんで今…。」


「ありがとう!そうね、じゃあ最初は…。」


「…あの、一応男なんですけど僕…。」















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「まったく…イチイチ手続きが長くて嫌いなんだよなぁ入出国の手続き。」


「バリーくんってこの国だと前科者なんだろ?じゃあ仕方ないって。」


「そうだけどさぁ…今回は『都市から出た時点で我々騎士と貴殿の契約は満了となり、我々が貴殿等への危害を与えられないと言う誓約もなくなるので有事の際はお忘れなく。』とイヤミったらしく言ってくるし。」


「代表をぶん殴って信仰する神の神体を傷つけた人にヘイト集まるのは自然だと思うけど?」


「それと、エルフの使う弓と杖なんだけど…あ、お疲れ様バリー、セイエンさん。」


「話の腰を折ってすまない、そっちこそわざわざ見送りお疲れエデ。

ますますこの国に居づらくなったからまた当分顔を出さなくなるからよろしく。」


「素直に私の使用人にそんなのどうにでも…。」


「ワガママなお嬢様のお世話は趣味じゃありません。

じゃ、またいつか。ネルムくんもここまでありがとう、気を付けて帰ってキルスのおっさんに『悪食バリーさんは海の国に定住する。』と伝えてくれ。」


「はい!…って、えぇ⁉︎」


「冗談だよ、そんなに素直で大丈夫?普段フェアリーとかに誑かされたりしてない?」


「うぅ…。」


「もしかして図星?だったらゴメン。

とにかく、まだ当分帰らない事をギルドへ伝達よろしく。」


「は〜い…。」


「終わった?

暗くなる前になるべく進みたいし、そろそろ行こうか。」


「エデさん、お話しは大丈夫?」


「大丈夫大丈夫、今度また女子会しましょう?」


「あくまでギルドの職員ネルムの人は女子にカウントするんですね…このオジョーサマ。」


「女子じゃなくてもバリーみたいなヒゲを剃らないオッサンじゃなければ良いのよ。」


「剃ってますが?長旅でもちゃんと洗顔もしてますが?」


「あら?そうなの?じゃあ海の国でも続けてね?」


「ハイハイ…じゃ、お達者でお嬢様。」


「お嬢様はやめて、気をつけてね。」


エデ達に見送られバリーとエアリィが振り向きながら手を振り、リンはエデ達に小さく一礼をした後に先に門へと向かったセイエンを追いかけた。














〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「さて…後はこの長い一本道を辿って行けば海の国に着く訳だけど…。」


「だけど?」


セイエンの荷物の台車を引きながらバリーはつまらなそうに溜息を吐く。


「この道、平和すぎるんだよなぁ…。」


「良いじゃん!平和!」


「嫌だい嫌だい!俺はエネミーで飯作りたいんだい!」


「うわ、おにーちゃんキモ…。じゃなくて仕方ないのでは?

先ほどオジョーサマが言ってた通りエネミー避けの魔法がかかっているんでしょう?」


「万能ではないらしいけどね。

実際、僕が海の国から機械都市に来るまでにサンマのバケモノに襲われて馬車馬を失ってるし。

すまない…カバリオ…ポトロ…。」


セイエンはサンマのバケモノで亡くなった馬に向けて手を合わせる。

セイエンの肩のガトも弔うように「ミャウ」と一言鳴いた。


「なんか…御愁傷様。」


「まぁ、魔法は万能じゃないから仕方ないんだけどね。

弔いはしたし、国に戻れば代わりの馬が居るからね。

それに、今はお利口さんの馬車馬が居るし。頼んだよエネミーモグモグ。」


「人を勝手に競走馬みたいな名前で呼ぶな。

あと、なんで俺が引かなきゃ行けないんだよ?」


「えー?やってくれたら今日の晩餐の時に僕から提供できる食材は僕も食べる代わりに無償で提供しようと思ってたんだけどなぁ。」


「はい喜んで!アクジキバリー、馬車馬として尽くさせていただきます会長さん。」


「うわ、おにーちゃんキモ…。」













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数時間後、この星を照らす恒星が北方向へと沈み空も徐々に暮れ泥んでいるにも関わらず馬車道はほの明るく照らされていた。


「なにこれ?道自体が光ってる?」


「コレもエネミー避けの一部だな。

エネミーでもネズミとかの獣でも夜行性の生き物は灯りを嫌うから魔法的な防御の他に動物の習性も利用した防御をしてるんだとさ。」


「へぇ〜…。」


「まぁ、それが効かないエネミーも居るけどね。

…サンマのバケモノとか。」


「サンマのバケモノは出るし、ゴニョゴニョ…は飛んでくるし…要らないんじゃないかと思ってる。」


「あのサンマが異質すぎるだけなんじゃないですか?

あと、おにーちゃんは光に集まる虫がイヤなだけでは?」


「やかましい。」


「…ねぇ、何か飛んでるけどアレもエネミー避けの何か?」


エアリィが指を差す、その先には橙色の小さな火の玉が5つほどユラユラと妖しく宙を揺れていた。


「いや、アレは…。」


ため息をつきながらバリーは弓に矢を番え、火の玉のやや上に向けて放つ。

すると火の玉の揺れが激しくなり、その火の玉を入れたを手に持つボロボロの外套、そして頭には人を莫迦にしたような表情にくり抜いたの頭を持つ小さな子供のような存在が姿を表した。


「『ジャック提灯ランタン』…エネミーだな。」


「へぇ〜意外とかわい…。」


「くない。」


姿を見せたカボチャ頭、バリーはその眉間にあたる部分を風切り音と共に撃ち抜いた。


が、空洞を叩くような音が響くのみでカボチャ頭は矢が刺さったままコロコロと鈴を鳴らすような音を威嚇として鳴らし、手に持ったランタンより小さな火の粉を降らせた。


「火と言えば火だけど…焚き火の火の粉程度…当たった所で服に小さな穴が開く程度なんだよなぁ…。

熱いと言えば熱いけど。

でもこんなのでも火事の原因にはなりうるし、何より人をバカにした見た目と態度が妖精フェアリーそっくりでムカつく。

…見た目と妖精に比べてあんまり見かけないせいであんまり狩猟依頼、その後の解剖研究とかもほとんど進んでないし。


コイツらは俺一人で良いや、エアリィ達は先に進んでて。」


「え?でも…。」


「こんなのに何人も足を止めて到着が遅れる方が困るだろ?

リン、悪いけど荷車よろしく。」


矢でカボチャ頭を牽制しながら引いてた荷車を蹴り飛ばしてリンに転がす。


「ハイ、所で…ここ数日物語で読んだんですけど『俺に任せて先に行け。』って言って生きて合流した方は居ませんでしたけど…。」


「…良いからさっさと行ってくれ。

俺がコイツら相手にやられたら弱小ハンターとして語り継いでもらって構わないからさ。」


「気をつけて。」と一言残し、エアリィはイタズラそうに小さく笑ったリンとその会話に手を叩きながら爆笑してるセイエンの背中を押して先に進む。


怒った様子で追いかけようとするカボチャ頭たちの眼前にバリーは矢を放ち横切らせた。


「無視すんなよ、コレからお前らにはを喰らわせてやるんだからよぉ…。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ー『一本目は、電気の魔符の効果で筋肉を痙攣させて動きを止めます。』


『へぇ…シンプルに便利そう。

でも、筋肉ではなく魔力で動くムカつくタイプのエネミーには効かないって事?妖精フェアリーみたいなヤツ。』


『そう言った声を受けて!我々オジョーサマが頑張りました!

この矢を受けた周囲の肉体へ魔力が流れなくなる魔力遮断の魔法も搭載!まぁ、小さい矢のサイズに抑えるためにほんの局所的な範囲での魔力不全しか起こせませんが、妖精程度の小さいエネミーにはモチロン手や足、魔法の発射口を持つエネミーの該当部位に使えば良いんスよ。出来るでしょ?歴戦ハンターのバリーサン。』ー


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「万年中堅だしそもそも20代だっつうの!」


矢がカボチャの眉間に刺さった…先ほど射った個体に向け矢を放つ。

今度は頭のカボチャではなく手に持つランタンへ向けて。


矢が刺さる直前、外套でランタンを包むように狙われたカボチャ頭は実を翻す。

ランタンへの直撃は避けられたが麻痺矢の効果が即座に反応し、翅を失った虫のように地面に墜ちて来た。


「便利だな〜麻痺。

それにしても…その様子だとカボチャはただの飾りで本体は提灯そっちか?

それだと妖精よりも人魂ウィル・オ・ウィスプに近いか…?」


墜ちた個体の頭を割り、落ちて割れたランタンから漏れる灯りに照らされた中を覗くとただの空洞があるのみ。

一方、割れたランタンからは火が逃げるように徐々に空中へと昇っていた。


「…おっと、流石に怒ったか。じゃあ、次は


逃げる火に革の袋を被せて消化・捕獲をした後、二本目の矢を構えた。


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『二本目はとにかく推進力と硬度を付加する魔法でたとえ全身が硬い岩石でできたデッカい巨人でも問題なく風穴を開ける事が出来るっスよ多分。推進力を増した副次効果としてどんなに軽く射ってもどこまでも飛んでいく効果まである初心者にも優しい仕様!まぁ、正確に弱点突けなきゃ意味ないっスけどそこは弓使いの腕の見せ所さんって事でヨロシクッス。』


『…初心者向けなのかそうじゃないのかどっちだよ?』


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頭のカボチャにランタンを隠し、低空飛行で真っ直ぐ飛んでくる一体のジャックランタン。

頭が妖しく光り、速度を増して突進を試みるがバリーは一つの溜息の後に矢を斜め下方向に射って中のランタンごとその頭を貫いた。


「なんでわざわざ狙いやすい状態にしてんだよ…。カボチャに入れると火力が上がるのか?それとも単純に両手塞がってると全速力出せないタイプ?


まぁ、良いか。取り敢えず矢を回収したら残りを…。」


カボチャ頭を貫き、刺さったであろう地面を確認する。

そこに矢は存在せず、どこまでも続くように風が通る黒く小さな穴が空いていた。


「推進力高すぎて岩盤貫いてんじゃん!

…まさかまで行ってないよな?いや、この平面ほしの裏側には何も無いただの地面の終端があるだけ…らしいけど。


…って、逃げようとしてんじゃねぇぞコルァ!」


勝てないと悟った残りの三体のカボチャ頭は道を外れ、背中を向け一目散に逃げ去ろうとしていた。

バリーは追いかけながらに手をかけた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ー『最後は。その名の通り着弾した瞬間に爆発する威力の高い一品ッス。

群集の中心に向けて射れば一網打尽、いや一射打尽もありうるロマンッスよ!ロマン!』


『へぇ…でも爆発って危なくない?』


『ご安心下を!矢につけた魔符は弓に番えないと魔力を発揮出来ないオジョーサマの謎新技術なのでそのまま手に持ってブン投げたりブッ刺しても自爆テロは無理ッスよ〜。まぁ、弓から放たれたらその直後から着弾さえすれば爆発するので必ず離れた対象に射って下さいッス。』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「妖精の仲間であろうと人魂であろうと人を小馬鹿にするエネミーは逃さねぇよ!」


10m前後離れた位置を群れて逃げるカボチャ頭を追跡しながら爆破矢を放ち並列した中央に直撃させる。

瞬間、バリーの目の前は真っ白な光に包まれ直後には激しい衝撃と主に十数m後方で天を仰いで倒れている事に気がついた。


「痛っ…!なんだあれ?」


吹き飛ばされた現実を認識した後、矢を射った方向を見るとそこには表面が真っ黒に焦がされた大小のカボチャの残骸を足元に爆発によって巨大な黒煙で出来た雲が立ち上っていた。


「…貫通矢にほんめもそうだけど、考えろよ…加減。」















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「と言う訳でエアリィ達とも合流したので今日はカボチャの素材を活かした甘いものを作っていきましょう。」


「イヤ、待って?黒焦げのカボチャ片手に全身ボロボロで来た理由は⁉︎

あのカボチャ達って強くないんだよね⁉︎」


「…転んだ。」


「はぁ…その言い訳が通ると思ってるんですか?」


「どの口が言ってるんだよ…エアリィはともかく、リン自身はそんなに心配していないだろ。

それに今回の転んだは(半分)間違ってないぞ?


とにかく、獲物の表面は焦げて作って貰った矢の一本はどっかに突き抜けて行ったし一本はひしゃげて矢として使い物にならなくなったけど今俺はかすり傷程度なんだから真っ暗になる前に作るぞ。

セイエン、砂糖!あと小豆あずきと醤油!」


「えー…甘いもの?それに砂糖なんて高級品…。」


「どこかの商会長様が今日の料理の食材を無償提供をしてくれるって仰ってたからなぁ?口約束とはいえ、まさか契約を反故する商会長さんよぉ!」


「バリーくんって貴族従きの家の出身だったよね?時々ゴロツキみたいな言動になるけど。」


「俺はエデにやらかしたって事で勘当された身だ。それに、あんな貴族の要素が趣味の紅茶しかない工学系お嬢様に従いてる家に貴族様的な倫理観なんてないだろ。


良いから作るぞ、まずは鍋に小豆と水を入れて沸騰するまで火にかけます。

沸くまでの間にをどうにかしましょう。」


先ほど討ち取ったジャックランタンの人魂。

それを耐火性の革手袋に掴んで同じ革の袋から取り出した。


「何それ?」


「多分、カボチャ頭の本体。ってかメチャクチャ暴れるじゃん…。」


「そりゃそうでしょ…って生きてるの⁉︎

僕には可愛いとか言うなとか言っておいて飼う気?」


「単純に絞め忘れてた…と言うか絞め方が分からなかっただけだっつうの。

エネミーとはいえ、命を奪うならなるべく苦しまないようにしてやりたいんだけど…ただの人魂きゅうたいではそれが分からん。」


「ナイフとかじゃダメなの?」


「それが刺しても暴れるだけなんだ。

手に持てるから物理が効かない訳では無いんだけど物理では死なないっぽい。

…火だし、水に沈めればいけるか?」


「え?」


そう言ってバリーは水を張った鍋をもう一つ用意しそこに人魂を沈めた。


「バカなの⁉︎苦しまないようにって言ってた直後に水に沈める事ある⁉︎」


「仕方ないじゃん、ナイフやロープで絞められないんだから。

それにほら、あれだけ暴れてたのに水に入れたら一瞬で火が消えて動かなくなったぞ。

もちろん、コイツもどうにかして食べる。」


「どうにかって…。」


火が消え、動かぬ白い塊となった人魂はひとまず水中に残し、付けていた蓋がコトコトとリズムの良い金属音を鳴らて小豆が沸騰したことを告げる鍋と向き合った。


「おっと危ない…沸騰したら火を弱めて更に煮詰めます。

と、言うわけで俺はカボチャの下拵えをするから焦げないように見ていてくれエアリィ。水分が無くならないように適時差し水もよろしく。」


「え?あ、うん。」


「さて、カボチャの方は一口大に切った後に角を細く削いで面取りをします。」


「バリーセンセー!面取りってなぁに?」


「はい、酒乱商人セイエンくん。良い質問です。

こうすることで角ばった食材を煮込んで行って柔らかくなった時に鍋肌や他の食材とぶつかっても角が折れたり崩れたりしずらくなって煮崩れの防止になるんです!ってもう出来上がってるのかよ…。」


いつの間にか目の前に居たセイエンは手に『エスピリトゥ』と刷られたラベルの大きな瓶を傾け、強い酒の臭いを周囲に撒いていた。


「いいじゃんいいじゃん!今日はもう働かないんだろぅ?

だぁったら呑まなきゃ人生の大事な一晩が無駄になるぅ!」


「はぁ…リン、どうにかしてくれ。

つか、面取りはカクテルでも使うだろ…。」


「え?イヤですが。」


「カクテル作ってくれるの⁉︎じゃあ僕はそのに合う甘くないや〜つ〜。」


「作らねぇよ!…って餅?」


「え?そっち鍋の中身って餅じゃないの?あんこも煮てるしおしるこでしょ?」


「餅?海の国の縁起物だっけ?あー…なるほど、確かに色も感触も米を潰して固めた物に見えるか…。

せっかくだし、そっちも作ってみるか。

まぁ、まずはカボチャだけど。


面取りしたカボチャに砂糖をまぶします。そうするとカボチャから水分が出るので皮を下に鍋に敷いて水を加え、こっちも煮ましょう。」


火にかけた小豆の鍋より一回り大きな鍋にカボチャを詰め、隣へと並べる。


「エアリィ、小豆はどう?」


「多分、柔らかくなってきた…かな?」


「オーケー、多分小豆もカボチャもあと10分くらいだな。

じゃあ、この人魂もちを…。」


手を洗い直し、恐る恐る素手で人魂を掴む。

冷たい水の中でも人肌の暖かさを持つソレはツルツルとした表面の感触に柔らかな弾力があり、セイエンの言う餅の特徴に相違なく感じた。


「問題は味か…。」


小さく千切って口に放り味見をする。

米のような味はしないが主張の大人しい甘味がほんのりと口に広がった。


「うん、イケるだろ。

多分。」


二匹分の人魂を一口大に切り分け、再び水に晒している間に周囲には煮たカボチャと小豆の甘い香りが広がっていた。


「バリー、小豆はすっかり柔らかくなったよ!」


「カボチャも串が抵抗なく刺さります。」


「お酒ももう3本目開いてまぁす!」


「りょーかい。酒は知らん、瓶をそこら辺に捨てるなよ。

じゃあ、小豆…あんこを半分に分けて片方をカボチャの鍋に入れて砂糖と少量の醤油を入れて更に2〜3分煮たら…。

海の国で冬の一番長くて寒い夜を温める『冬至カボチャ』の完成!」


「おぉ〜…因みに今日がその一番長くて寒い夜なの?」


「んなわけないじゃん。カボチャだし、酒乱商人セイエンがタダで高級品砂糖を恵んでくれるって言ったからたっぷり使う料理作ろうと思っただけ。」


「ぼくのおしゃとう…。」


「俺は権利を行使しただけだが?

さて、じゃあジャックランタンの試食タイム!…の前にこっちも仕上げるか。」


半分残ったあんこに水を加えて伸ばしながら煮立たせる。


「うーん…甘すぎるから塩をひとつまみ。

これを個人の器に分けて人魂もちを入れれば…。

海の国で新年を祝う『お汁粉』の完成!」


「因みに今日は…。」


「新年なわけない!酒乱商人セイエン以下略タダで砂糖を恵んでくれるって言ったからたっぷり使う料理作ろうと思っただけ。」


「ぼくのおしゃとう…。」















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「と、言うわけで…。」


「「「いただきます。」」」


「まぁす!甘い!バリーくん、苦味のあるカクテル作ってぇ。」


揃った声から遅れてセイエンが緩んだ声で挨拶と同時にカボチャを口に放る。


「ハハハ…レモンの皮でもかじってなさい。

じゃあ、リンもコッチから行くか。」


「バリー!コレ美味しい!

カボチャはあんまり甘くないけどホクホクでマメの粒が甘さと合ってる。」


「いつの間にか料理食った時の感想上手くなってない?エアリィさんや。

さて、肝心の魔力量は…。」


リンに目を向けると見た目に変化のなくバリーを見上げる幼女ゴーレム

身長を測ってみても1cmの変化もなく、本人もやれやれとでも言うかのように両手を肩まで持ち上げため息を吐いた。


「うーん…戦闘中にもカボチャを射っても意味なかったし、頭はただの飾りっぽいな…。」


「今、頑張ってもおにーちゃんの腕をへし折る事しかできませんよ。」


「小さくても人間は魔法生物には勝てないっての…。

さて、カボチャに魔力がないとなると産まれた時や成長で生えてくる訳ではないか…じゃあ、盗品?でも原因の分からない野菜の盗難なんて騒がれてないよな…。」


「…またバリーが独り言モードになってる。」


「研究職の人間ってみんなこうなんですか?」


「ラートさんもそうだったしねぇ…。

ねぇバリー!こっちのお汁粉?も食べていいの?」


「あ、悪い。

食っていいよ、リンも試食よろしく。」


一口大に切って用意したモチを口に入れる。

入れた瞬間にリンの表情は曇り、苦しそうな表情で咀嚼し始めた。


「あ…うぅ、ネバネバする…。

こんなのが海の国では好まれるんですか?」


「縁起物だよ〜。

新しい年に食べるぅんだ。

新年は理由をつけて酒が飲めるぞぅ最高ぉ!」


「大丈夫か?嫌なら無理に飲み込まなくても…ヴェ⁉︎」


リンにとってはモチモチして口に張り付く食感のが苦手らしい。

歪んだ表情のまま飲み込むと覗き込もうとしたバリーの顔面を強打しつつ身体が急成長した。


「痛ってぇ…。」


「おぉ…久しぶりのリンちゃん大人モード。」


「コレならおねーちゃんを抱っこできますね。」


「えーと…205cm、フェアリープリンとだいたい同じ…正確にはフェアリーの方が上だけど。」


「なら汁粉コッチよりプリンが良いです。すぐに飲み込めませんし。」


「そうだよなぁ…餅ってすぐに食べられるようにする用意も出来ないし、魔力補給としては飲み込みやすさも妖精の粉の方が良いよな。

そもそも餅は海の国で年間何人も喉を詰まらせてるらしいし。

エアリィも小さく噛み切って喉に詰まらせないようにしなよ。」


「ふぁーい。

れも、らめろ粒のふぁまさろ相性らいそうくて美味ろいしい。」


「ちゃんと飲み込んでから喋れ。」


「僕は好きだなぁこの

…所で、セイエンさんさっきから静かじゃない?」


「寝たんじゃな…。」


先ほどから一言も話さなくなったセイエンへと目を向ける。

そこには自らの首に手を巻いて苦しそうにしている商会長クライアントが居たのだった…。


「わ゛ー!餅詰まらせてる!」


「掻き出せ!掻き出せー!」





幸い、セイエンは大事には至らなかった。

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