第14話 ハンバーグ
機械都市ギアリス-その中心近くに位置するミクシス大聖堂。
普段は女神ミクシスの信仰に則り静粛を保ちつつ訓練が行われる聖堂に隣接した騎士訓練場はいつに無く騒然としていた。
かたや人類と信仰する女神に仇なす存在を誅するため。
かたや囚われ、傷つけられた仲間を救うため。
己の信念を賭けた決闘が今、始まろうとしていた。
「じゃあ、お互いに決めたルールを確認しよう。
戦闘はこの訓練場内、その外へ出た時点で敗北。
その他は降参か気を失った方の敗北で時間制限はなし。
基本的にはそれだけのシンプルな白兵戦。
お互い相違はないね?」
睨むバリーとその視線の先で冷たい微笑みでバリーを見つめる静謐卿。
その間でセイエンが決闘を取り仕切ってる。
「ええ、それにしても申し訳ありませんセイエン殿。
彼が『我々騎士の仲間は信用に欠く。』と申し、決闘の見届けをお任せしてしまい。」
「問題ないさ、多少の時間の差はあれど僕はバリーくんもキミも今日が初対面。
この場の誰よりも二人に公平な判断が出来ると客観視してるよ。
と言うわけだバリーくん、キミの味方は出来ないからヨロシク。」
「構わない、結局戦い始めたら一人だしな。
それより確認だ、俺が勝ったらリンはスグに治療して返してもらう。
また、俺達がこの都市にいる間にお前ら騎士は俺達に手出しをしない。
間違いないな?」
「勿論、しかし私が勝利した場合このゴーレムに加え貴方…そして貴方のお仲間のエルフのお嬢さんにも我々の『尋問』を受けていただきます。
お分かりですね?」
「ああ、一応言っておくが決闘中そこに並んでる騎士に俺を攻撃させるなよ?」
「勿論、決闘で一人を大勢で囲んで粛清するなんて女神様の教えに反しますので。
セイエン殿、ルールに追加をして下さい『決闘が終わり、制約が完了するまで他の騎士は抜剣及び決闘者への介入を禁ずる。これを破りし場合は静謐卿は女神様の元へ殉教する。』と。
よろしいですね?女神様の伴侶たる騎士諸君。」
「お兄ちゃん!それって…!」
「よろしいですね?。」
「う…うん…頑張ってお兄ちゃん。」
「物分かりの良い妹ですね、女神様もお喜びでしょう。
…では、これを。」
女神の元への殉教、つまり己の命を担保に騎士への強い制限を敷き騎士もそれを受け入れると静謐卿は腰に差した二本の剣のうち一本を腰から外してバリーに差し出した。
「同じ魔石を装着、同じ規格の
魔法も問題なく制御出来ます、疑いがあるのでしたらもう一本と交換しても…。」
「いらねぇよ。
そもそも俺はこの都市では武装禁止だし魔法もほぼほぼ使えない、あとアンタを殺すんじゃなくて笑顔が張り付いたその顔面を歪めるつもりなんだからな。
さっさとその誰の血が付いたかわからねぇ持っただけで肌荒れ起こしそうなモノをしまえよ。
俺は使い慣れたものでダメージとアンタの返り血から手を守れれば十分だ。」
上着に来ていた深緑色の外套を脱いで黒いインナー姿になったバリーは薄手の革の手袋を嵌めながら挑発をする。
「なるほど…では、こちらも対等の条件で貴方を屈服させましょう。」
静謐卿も微笑みを崩さぬまま決闘用の簡易防具を外すと剣を琥珀卿に預けて拳を構えた。
「…双方、それで良いんだね?」
「ええ。」
「ああ、さあセイエンさっさと開始の宣言をしてくれ。」
「分かった…。
では、バリー対静謐卿の決闘…始め!」
開始の宣言をしたが、二人は距離を取って様子を見ている。
「良いのか?俺に合わせて。
アンタは剣の方が得意じゃないか?それに魔法も使えないだろ。」
「良いのですよ…。
貴方の得物の弓も使えない、なら条件は同じ。
それに…私としたことが剣を使用して貴重な魔王の情報源の口を塞ぐと言う事態になりかけてました。
それを気づかせて下さった貴方は…一撃で終わらせて差し上げましょう。」
静謐卿が膝を軽く曲げると音も無く跳躍し一瞬で距離を詰め、バリーの鳩尾に拳が突き刺さった。
「がっ…!」
バリーは激しく血を吐き出し、腹を抱える。
「意識は…辛うじてありますか…。」
「まぁな…そして、攻撃した後はさっさと距離を取った方がいいぞっと!」
殴られた状態の静謐卿の右拳を左手で掴むとそのまま下に勢いよく引き下げ、膝を顔面にぶつけた。
「こうなるからなぁ!
少しはその笑顔歪めたか?
悪いな、その端正な顔がブサイクになって女にモテなくなったら。」
「お構いなく…私の
それに…私は女神様以外の女性に靡くことはありません…!」
鼻から伸びた血を軽く拭き取ると静謐卿は再びバリーに迫った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…光った!眉間に碧の魔石!間違いない…。
エアリィさん、カーバンクルそちらに逃げました!」
その道には相応しくない輝きを額に嵌め込んで逃げる大柄の猫のような見た目の
〈キー!〉
宝石獣が甲高い鳴き声を上げると額の魔石が光り、そこから光の魔法弾を射出、咄嗟の回避したエアリィの頬を掠めた。
「危なかった…。」
〈キッ!〉
「次来ます!」
「わ!ちょっとタンマ!」
攻撃で尻もちをついていたエアリィであったが、手に持った(エデから借りた)杖をかざしカーバンクルを水の球体が包む、射出された魔法弾は屈折を起こして民家の壁を破壊した。
「あ…やっばい…。」
水に囚われたカーバンクルは踠きながら魔法弾を乱射、周囲の民家を無差別に破壊している。
「これ以上時間かけられない…なら!」
エアリィが杖をかざし氷の槍を作り飛ばす…しかし、乱れ撃たれた弾に破壊された。
「ダメです!撃ち落とされます!」
「威力が足りない…でも居住区で規模の大きな魔法使え…。
…別にいっか!」
周りを見渡し半壊の外壁を確認するエアリィ。
割れた外壁から住人が顔を出せるほどボロボロになっている事に彼女は「半壊も全壊も変わらない。」と感じていた。
「良くないですよ⁉︎
まったく…都市部での狩猟戦闘についてバリーさんに教わってないんですか?」
「逆にバリーが教えてくれると思う?」
「…。」
魔法弾が乱射される中、回避をしながらも二人の間には妙な静寂が満ちていた。
「はぁ…エアリィさん、〜の魔法って使えますか?」
「もっちろん!僕は天っ才だよ?」
「良かった…なら、僕に考えがあります。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ん…私は…。」
「あ、起きたー?でも、あんまり動かない方がいいよ!
アナタの体にはまだ毒が回ってるからねー!
アナタが死んだらコハクが叱られちゃう。」
バリーと静謐卿、二人が戦う周りを囲う騎士達の最前列弱々しく目を開いたリン、その瞳に映ったのは自信満々な表情の琥珀卿だった。
「今、静謐お兄ちゃんが粛清をしてる所だから…。
アナタのお兄ちゃんの最後をしっかり目に焼き付けてね☆」
「ガッ!クッソさっきからちょこまかと…!」
最初の一撃以降、静謐卿の無音かつ高速で移動する特殊な歩行からのヒット&アウェイを前にバリーは手を出せずにいた。
「拳闘は知識のみで経験はありませんでしたが、間合いの感覚が掴めてきました。
先程貴方が忠告して下さったおかげです。」
感謝の一礼をした直後、再び高速で距離を詰める静謐卿。
「そうかよ、でも…。」
接近に合わせて蹴り上げられたバリーの脚が静謐卿の脇腹に突き刺さった。
「誇り高き騎士様はバカ正直なのかな?
どういう原理か知らないが、距離を詰める時に見えなくても見えなくなったらカウンターを置いてやれば対処は簡単だ。
それと、アンタは拳闘のつもりかもしれないが…。」
「おい!貴様何を⁉︎」
「こっちはアンタを
バリーは足元の掌に包めるサイズの小石を握り脇腹を抱える静謐卿に殴りかかった。
「くっ…。」
「卑怯者!お互いに武器は使わないルールの筈…!」
「いや?アンタら
そうだよな?セイエン。」
攻撃を続けながらセイエンに問う、セイエンはバツが悪そうに頭を掻きながら。
「いやまぁそうだけどね?
中立名乗っておきながら騎士くん達を騙した気になって仕方ないぞ僕は…。」
「審判役がこう言ってるんだ、文句は言わせねぇ。
悪いけど日頃からお行儀良い戦闘してないんだ…ルール違反しない程度にハンター流で使えるものは使わせて貰うぞ!」
静謐卿、セイエン、観客の順に念を押すように指差した後に静謐卿へ向き直し右手でフェイントをかけて足払い、尻もちをついた静謐卿に石を握った拳が突き刺さった。
「ぐ…うぅ…やれやれ…私にも騎士道があり、貴方が拳と仰ったのであれば私も答えよう…。
そう思いました。
そう…だから貴方が悪いのですよ?貴方が凶器を持ちさえしなければ…。
貴方は苦しまずに済んだのです。」
殴られて顔を歪ませながらニヤリと笑う、その手には刃渡り数センチの小さなナイフが握られバリーの左脚に突き刺さっていた。
「っつぅ…。
だが、この程度…っ⁉︎」
バリーが立ち上がり、体を起こす。
しかし、その体を起こした直後に左脚が硬直しバリーは地に伏せた。
「お兄ちゃん!」
「ご安心下さい、その刃に塗ってあるの物は
足に力が入らず、激しい痛みを伴いますが命を奪わぬ女神様の如き慈悲深き物なのです。」
「この程度が慈悲か…底が知れるな…
倒れて脂汗をかきながらも挑発をする。
その言葉を聞いて静謐卿の顔は
「ならばお教えしましょう。
女神様の慈悲なき者の末路を…!」
「ウッ…!
…顔自体は変わらないけど口調が荒くなったな…お前の表情を歪ませる目的は達成…ってことで…。」
「…しかし、この決闘は私の…女神様の勝利です…!」
静謐卿は拳を強く握りバリーの顔に振り下ろした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『エアリィさんはカーバンクルを拘束してください。
その隙に僕が剣で攻撃します。』
『アイツ最早全身から魔法弾出してるよ!?
どう拘束すれば…。』
『大丈夫です…多分。
まずは…。』
〈キッ!〉
「土壁展開っと!」
前方に杖を振りカーバンクルの前に地面から壁がせり上がり、魔法弾を防ぐ。
「そのまま…包み込む!」
更に杖を一振り、土壁が形を変えてドーム状となりカーバンクルの全身を覆い隠した。
「ネルムさん!」
「振動魔法装填…刺され!」
魔符のカートリッジを装填し、ヴヴヴと低い音を鳴らすマギアをドームに突き刺す。
「…。」
「…。」
ゆっくりと奥まで刺さり、音が止む。
瞬間、ドームは霧散しその跡にはカーバンクルの亡骸が横たわっていた。
「見た目が猫やネズミみたいだから若干可哀想にも見えるね。」
「でも、人にこれだけの害を成す
そこに猫型も虫型も異形も関係ないですよ。それこそ人間のエゴで魔王の思う壺ですし。」
戦闘中でも落ち着いた表情のネルムの目が釣りあがる。
周囲を見ると怪我人こそないものの建物の外壁は崩壊し、住人は恐怖の表情を浮かべていた。
「皆さん、ご安心ください!
都市に入り込んだエネミーは討伐しました、住宅の被害は数日以内にギルドが修繕して下さると思います。
少々のご不便をおかけしますがご了承ください!
さ、行きましょうエアリィさん。
エアリィさんは都市部での戦闘の注意点を教えて貰う必要がありそうなので、バリーさんには僕から言っておきますね。」
「う、うん。」
ネルムは住人へ深く頭を下げ、エアリィを促して歩き出す。
エアリィも急いで頭を下げると地面の杖を拾い上げて追いかけた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「な…に…!」
静謐卿の拳がバリーの顔面に突き刺さる直前、横から飛んできた物体が静謐卿に衝突、そのまま吹き飛んで聖堂の窓を破り堂内へと消えていった。
「ナイスだリン…。」
「ハンター流と言う曖昧な言葉と指差しで『手助けしろ』と察しろって無理があると思うのですが?
それに、気を失った私はロクにルールも知らないのですが?」
「まぁ…すまないリン、お前が察しの良い…出来る…妹で助かった。
と言うわけで
「はぁ…今後、知らない人に石投げられても文句言えないよ君たち…。」
聖堂の窓を覗き、堂内を確認するセイエン。
そこには女神像の前で血を流して倒れてる静謐卿の姿があった。
「ルールに則り、静謐卿の
この決闘は僕、セイエンの名においてバリーくんの勝利とする。」
「お兄ちゃん!」
宣言の直後、琥珀卿はバリーとリンを強く睨みながら聖堂内に駆け込む。
周りの騎士たちもそれに続く。
「さて…俺たちも
リン、肩を貸し…そう言えば毒貰ってるんだったな…いつもより小さいし…。」
「狭い路地を…いや、面倒臭いし辛いので色々あったんですよ。」
「そうか、じゃあそこで待っててくれ。
セイエン、よろしく。」
騎士たちに遅れるようにフラフラと聖堂に入ると騎士に囲まれて静謐卿がぐったりとしていた。
「よう…死んでないか色男?」
「何しに来たのバカ!」
倒れている静謐卿を守るように抱き上げた琥珀卿が威嚇してくる。
「凄んでも怖くないなお前…。
一応確認だよ、その偉そうな騎士サマが死んでないかとか。」
「はぁ⁉︎お兄ちゃんがお前のような奴に殺されるワケないでしょ!」
バリーが騎士たちの間を割るように静謐卿に近づき顔を確認、一つ息を吹いた。
「ふう…じゃあ良いや。
ついでに治療も良いや、お前らよりも医療知識も魔法知識もあるヤツ知ってるし…お前らのような奴らが居る所に長居したくないから…。
リンは連れて帰るからよろしく。」
近くの一人の騎士の肩を叩き、帰ろうとするバリー。
そのまま振り返ろうとするとバリー目の前を剣が横切り、突きつけられた。
「なんのつもりだよ?
自称妹騎士。」
「よくも…よくもお兄ちゃんを…。」
「よくも…ねぇ…。」
バリーは静かに呟いた直後、剣の刃の部位を掴んで琥珀卿の腹部を蹴り、その体は静謐卿の隣を通って女神像に打ち付けられた。
「どの面下げて言ってんだ?
お前らが
それに対して『よくも』だ?リンをお前らに傷付けられたこっちのセリフだクソ騎士。」
蹴り飛ばされた琥珀卿の目の前にしゃがみガラの悪い口調で威圧、捲し立てるように言葉を続ける。
「こっちはその
「なっ…⁉︎」
「なんせお前は俺とコイツが決めた決闘の報酬…いや、制約の他の騎士の決闘者への介入禁止を破ったんだからな。
破った罰、なんだったか覚えるよな?コイツは死ぬってなぁ!」
片手で気を失ったままの静謐卿の首を掴み女神像に押し付け、もう一方の手の剣を振りかざす。
「やめて!」
ガキンッ!
大きな音と共に静謐卿の頭の真横、女神像のスカートの裾に突き刺さる。
剣に装飾が施された棒のようなもの…セイエンの帯刀してる刀の鞘に邪魔されて。
「決闘は終わってる。
これ以上はただの人殺しだよバリーくん。」
「…はぁ、元々ギリギリで止めるつもりだったんだけど…。」
「そう言うことで決闘は終了だ、勝者の申し出通りゴーレムの少女は自由。
及び彼らが此度、機械都市に滞在している間は彼らが新たな罪を犯す等の例外がない限りの騎士の介入を禁止する!
そこの後ろで剣に手をかけてる騎士諸君も手を離してこの誓約書を書いて貰う!」
バリーと琥珀卿の起こした騒ぎによりざわついた周囲はセイエンの一声でピタリと止まり、セイエンはいつの間にか用意した誓約書を騎士に配布し始めた。
「これで文句はないだろ?」
「…お前が契約にこだわるタイプで正直助かる。
おい…女装騎士。」
「…何さ。」
「その女神像に刺さった剣はお前らの負けの証拠として抜かずに取っておけ。
…そこの女神大好き騎士にそう伝えておけ。」
「バチアタリヤンキー…分かったよ、お兄ちゃんがどうするかは知らないけど。」
「じゃあ、よろしく…。
セイエン、俺たちは先に帰るからあとは頼んだ…。」
並ぶイスを手すりにフラフラと聖堂を後にするバリー。
その様子を見てセイエンは誓約書を慌てて回収し、後を追いかけた。
「…まったく、意地張るくらいなら騎士に治療してもらったら?」
「…ヤダ。」
静謐卿のナイフの麻痺毒が回ったのか、扉を出てすぐの地面にバリーは腹を抱えて倒れていた。
「悪いけどリンと一緒にエデの部屋まで運んでくれないか…?」
「僕は運送屋じゃないんだけどな…運賃は割増でいただくよ。」
荷物がなくなった荷台に乗せられセイエンに引かれながら、バリーは
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「リンちゃ〜ん!帰るよー!」
「集合場所にも居ませんし、どこに行かれたんでしょうね…。」
「そんなに勝手な行動をする子じゃ無いんだけどなぁ。」
ギルドへの報告を済ませたエアリィとカーバンクルを片手にぶら下げたネルムがリンを探し回っていたが、世界一の大都市で消えた
「やぁやぁどもども、ギルドから依頼完了の報告が届いたので来てみたら街中で奇声を上げる青少年お二人。
そう言う行動は歳食ってから思い出して顔面を赤にも青にも白にも黒にもする事になるからオススメしないっスよー。」
みっともないと嗜めるように二人の前に現れたラート。
その姿は作業着の上に無理やりメイド服を着たみっともない姿だった。
「青少年って…僕はエルフだからそんな歳じゃ…。」
「まぁまぁ、エアリィサンが大人びたい年頃なのは知ってるのでさっさと本題なんスけど。
バリーサンから『お前ん所の妹は預かった、さっさと帰ってカーバンクルの肉をよこせ貧乳エルフと合法ショタ。』って伝言をお預かりっス。」
「はぁ⁉︎誰が貧乳だよ⁉︎」
「いや…それ、絶対ラートさんの脚色入ってますよね?」
「シシシ…さて、どーでしょーねー?」
「とにかく、リンさんは既に帰られていてバリーさんと一緒にエデさんの部屋に居るってことで合ってます?」
「解釈の仕方は人それぞれなんで知らないっs…」
「合 っ て ま す か ?」
「っス…。
リンサンは既に帰られてマス…。タダノオフザケナンダカラソンナニオコラナイデ-」
ネルムがラートに顔を近づけて確認をする。
エアリィからはネルムの顔は確認できなかったが、ラートの顔はみるみる青ざめて行くのを確認できた。
「なら最初からそう言って下さい。
さぁ、行きますよエアリィさん。」
「あ、うん。
て言うか、僕そんなに小さくないから!エルフの中だと年相応だから!」
エアリィはまだビビってるラートに対して謎の釘差しをしてネルムの後に続いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お、おかえり。
大した怪我もなかったみたいで良かった良かった。
リン、玉ねぎのみじん切りが終わったら油を引いて炒めてくれ。」
「はいはい…魔法で火ではなく熱のみを出す道具って…エデさんとラートさんって魔法を都合良く使いすぎじゃないですか?」
「元々魔法は戦闘の手段として生み出された技術ですものねぇ…だから火を出すとか相手を切り刻むとかの魔法ばかり。
でも、最終的には戦闘用の魔法よりも日常を楽にする魔法が需要は出てくると思うのよ。
だから、私は『誰でも』『安全に』『楽ができる』魔法とその道具を研究してるの。」
エアリィとネルムが帰室した部屋、そこではバリーが指示を出しながらリンが料理の下拵えをし、その後ろで座ったエデと談笑している自然な光景。
バリーとエデが自分達よりも大怪我をしている事を除けば。
「バリー⁉︎リンちゃん⁉︎どうしたのその怪我⁉︎」
「「…
……
………転んだ。」」
「そうかぁ…転んだかぁ…って納得すると思ったかぁ!」
「説明すると長くなるんだよ…それよりも早くカーバンクルの肉をくれ。
加工とかしないといけないし。
それが終わったらエデと一緒に紅茶でも飲んでて。」
「いや、ちゃんと説明をしてよ…。」
納得いかない顔で皮の剥がされたカーバンクルの肉の入った包みを渡すエアリィに対しごまかすように手をひらひらさせながら部屋を出るバリー。
頬を膨らませるエアリィの後ろからエデが紅茶を持って微笑んだ。
「二人とも動き始めたのは今さっきだけど、多分バリーは戦闘後のエアリィさんに休息を取ってもらうため、余計な心配をかけないために今は説明してないだけだと思うの。
だから、今は…そうね、私に今回の勇姿を聞かせて?ネルムさんと一緒に。」
「本当?」
「バリーって昔からあんな感じだから多分…何があったかは落ち着いたら聞いてあげて?
…でも、単純にめんどくさいだけかもしれないからブッ飛ばす準備もしておいてね?」
「うん!その時は新しい杖の試し撃ちの的にするね!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「と、言うわけで毒の回った男と幼女ゴーレムで作っていきましょう。」
「字面的に衛生面大丈夫ですか…コレ。」
「手は洗った!
まず、カーバンクルは血抜き等の処理を終えた後に
因みに殆ど
材料を勢いよく投げ入れボウルはリンの前にスライドさせた。
「説明口調なのに分量言わないんですね。」
具材を受け取ると捏ねながらツッコミを入れるリン、目を向けた先のバリーは露骨に面倒臭そうな顔をしている。
「捏ねる時は拳を握る、離すを繰り返すと混ざりやすいぞ。
そして、空気を含んでタネの赤みが減ったらボウル内で人数分に分けて、手の平大の大きさに取って楕円に形を整えます。
…あの食べ盛りエルフのは少し大きくしてやってくれ。」
「はい、お兄ちゃんの分から足しておきます。」
「…俺の目が正しかったらそれだと俺の分は一口サイズの肉団子にしかならないから加減してもらえる?」
エアリィの分を形成しているリンは確かに手の平大の大きさを取っている。
ただし、体の大きさを変化させて手を二倍ほどにしている。
「…お兄ちゃんは歳なんだから量食べられないですよね?」
「俺はまだ20代だぞ一歳未満…。
形成したら形を崩さない程度の力で片手から片手に20回程度投げるようにして空気を抜いたら中央を軽く凹ませて熱して油の引いたフライパンで焼くアッツ!」
説明の流れそのままにタネをフライパンに置くとジュワッという音が響き、跳ねた油が一直線にバリーの顔面を襲うのだった。
「カーバンクルの肉は油が多い…メモに入れておくか。
フライパンに入れたあとは形が崩れやすいから上から軽く押さえて再度形を整えて焼きます。」
「まず油跳ねした所を冷やしたらどうです?
やっておきますので。」
「悪い…。
とりあえず片面を2〜3分焼いたらひっくり返してから火力を下げて蓋をして蒸し焼きにしてくれ。」
「ハイハイ…で、本当はどうなんですか?
油跳ねではなく先の戦闘でマトモに立っていられないんじゃないですか?」
仕方なさそうに溜め息を吐きながら火の前に立ち、焼かれているタネを見るリン。
しかし、リンもゴーレム故に汗こそ出ていないが足が震えて辛そうな顔を浮かべている。
「タフさには自信があるから安心してほしい…。
それに、毒以外のダメージは3メートルの時の
あ、10分くらい蒸し焼きして透明な液体が出てきたら完成だから。」
「…もう一度喰らいますか?」
「あー蹴りの威力の違いも表記できれば更に細かくエネミーが内包してる魔力が分かるかもなー…。」
「…。」
リンは皮肉の効かない
「まぁ、でもお陰でスッキリしました。
あのムカつく自称:妹の泣き顔も見られましたし、お兄ちゃんもたまには役に立つと分かりましたし。」
「ハイハイ…たまには役に立つように努力するよ。」
「…褒めてあげたんですから素直に喜んでください。
あと、あの自称:妹は次に会った時は顔面に一撃加えますので次のカチコミには同行します。」
イライラした口調でタオルを投げつけるリン、そのまま照れ隠しのように謎の宣言を行った。
「…焼けてるぞ。」
「知ってます。」
「じゃあ、さっさと皿に移してくれ…。
そのままソースを作るからワインを…お。」
脇に目を移すと小さなガラス張りに棚の中にワインのボトルが6本ほど並んでいた。
「エデのか…?一本貰おう
このワインを火にかけて、半分位になるまで煮詰める。
そこに(セイエンから買った)醤油とみりんを加えて混ぜ…馴染んだらバターを加えて溶けたら…。」
「カーバンクルのハンバーグのワインソースの完成です。」
「そこは俺に言わせてくれよ…。」
「殆どの作業は私がやったんですから、美味しいところはいただきます。」
「ハイハイ…じゃあ、戦闘後の腹ペコに届けに行きますか。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あの見た目は可愛かったカーバンクルがミンチ…いつも以上に抵抗が…美味しい!コクのあるソースと中から溢れる肉汁が最高!」
エアリィが怪訝な目でハンバーグを口に運んだ瞬間、目を輝かせて賛辞を述べる。
「速攻掌返すじゃん…。
さて…魔力の方は…。」
(自分用に小さくされたハンバーグとは異なる)一口大のハンバーグをリンの口に入れる。
リンが嚥下すると体が光り、元々のサイズより小さかった体が一気に数倍に伸びた。
「2m80cm…マンドラゴラより小さいけど食べた時のサイズが小さいからその差し引きを考えると同じかそれ以上か?
流石魔石獣…。」
バリーがメモを取っているとセイエンが声をかけてきた。
「魔力に関しては門外漢だけど、このソースってワインだよね?
もし余ってるなら貰っていい?」
「ああ良いんじゃない?
半分も使ってないし。」
「あれ?バリーってお酒飲まないんじゃなかったっけ?
調理用に劣化しやすいワインなんてよく持って…た…わね…。」
バリーが持ってきたワインを見てエデの表情が凍りついた。
「バリぃぃぃぃぃぃ!?
まさか、あの棚のワイン使ったの!?調理酒として!?」
「え?もしかして高い酒?
でも高いワインって地下のデカいワインセラーに置かれるものじゃん?ただのガラス張りの小さい棚に入れてたから普通に安い物では?」
その言葉を聞くとエデは頭を抱えて机に突っ伏した。
「…バリーさん、そのワインなんですが。
一本で金貨何千枚のクッソタケー酒で、あの棚はオジョーサマが魔法でワインを適切に保存できるようにしていたワケで…。」
「…その、すまんエデ。」
「そもそもワイン用のブドウなんて畑をエネミーが荒らして高くなってるって事位バリーなら分かるでしょう…?
もう良いわよ!セイエンさんは他のお国からのお客様だし!来客用のワインの一本程度開けるわよ!」
「ハハハハハ!恐らく世界一高いワインソースの肉料理と最高の酒か!
面白いな、遅くなったが乾杯と行こう。」
「ラート…。」
パチンッとエデが指を鳴らすと「特別に空気呼んであげます。」とラートがワイングラスを持ってきた。
「あ、俺は酒飲めないから別なのを頼む。
あと、
「「「…。」」」
『空気読めねぇ男…。』とセイエンとエデ、ラートに冷ややかな目で見られながら出された果実水で乾杯するのだった。
「て言うか僕は子供じゃないんだけど!?
ここで一番年上なんだけど!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます