第13話 食休み その1

「街中に居るエネミー一匹探すって…途方が無さすぎる…。」


「この機械都市は女神様の信仰のお膝元、エネミーもほとんど居ないんですよね。

しかも今回のエネミーは身体も小さくすばしっこい…。

危険度は少なくとも普通なら高額な依頼クエストとなりますよ。」


「それもっと早く行ってよネルムさん!

あー…どこにいるの魔石獣カーバンクル⁉︎」















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


数時間前


「おー?来たっスねお客人。

いらっしゃいいらっしゃい、じゃ…脱いで下さい。」


『ラートの自室』とエデに紹介された部屋、そこには歯車仕掛の機械に埋め尽くされた巨大なテーブルと半分剥がれたシーツのベッド、そしてネジや歯車といった機械部品が床に散らばったとても人の世話をする人間の部屋とは思えない空間が広がっていた。

そこでメイド服を脱いでネズミ色のつなぎと同じ色のキャップに身を包んで作業をしていたラートはバリーとエアリィ、リンにネルムを加えた4人が来るなり突拍子なくエアリィを脱がそうと手を伸ばしてきた。


「ちょちょちょっと待って!?なんなの?いったい?」

「お姉ちゃんに触れるな変態。」


「なんなの?って、そりゃあ体のあらゆるサイズ筋肉脂肪魔力量を調べないといけないから脱いでほしんスけど?」


小さい体をリンに引き剥がされそうになりながらもラートはさも当然の様に答える。


「…えーと、ネルムくん。説明してもらっていい?」


「彼女…ラートさんがこの『機械カートリッジ式魔法剣』を作成した方で、この部屋は彼女の自室兼作業場…らしいです。」


「もー、モニターサンそう言うネタバラシは自分から大々的にやりたいんスけど…。


あと、その名前長いから変えました。

コレからその子達は短く分かりやすく『マギア』と呼んで欲しいっス。

コレは魔法を表す『マギ』と機械を構成する歯車の『ギア』を合わせたものでスプルー製の魔法機械に付けて他の製品と分けられるように表す所謂ブランドでスプルー製の魔法機械全体はその名を冠する予定っス例えばその剣の場合は『マギアソード』今から作る杖は『マギアワンド』っスコレで名前を聞けばオジョーサンの考えた製品だと分かるのでその名から口コミが広がって他の製品と差を…。」


「ラートさん、自己紹介!ネタバラシを自分でしたいならお願いします。」


「おっと、そうでした。

では改めて自己紹介を…アタシはラート。

基本はエデオジョーサンの使用人メイドやってるっスけど真の姿はオジョーサンのムダに集めた知識を道具と言うカタチにする技術者エンジニアっス。

ハイ、拍手ー。」


パチパチ…。


早口と勢いに圧倒されながらもバリーとエアリィは言われた通り拍手で返す。


「で?なぜ変態技術者がおねーちゃんを脱がそうとしてるんですか?」


「だから言ったじゃないっスか、「体のサイズその他諸々を図る」って。

お客人はイヌに首輪を着ける時に首の締まるサイズやすぐ抜けるサイズでも良いんスか?良くないっスよね?

多分スけどこのエルフサンはエルフらしく魔力はあるしスカートからチラチラ見えてる脚も引き締まってる…でも腕を見る限り武器を振り回すには向いてないエルフは弓を引き絞る筋力も持ち合わせてるはずだけどその痕跡は皆無…まぁ箱入りのオジョーサンか魔法のみに特化して鍛えてきたか…はたまた知らないっスけど、掴む必要がない機構も必要と見た訳っス。」


ここに来ての数刻でエアリィのハンデを見抜いた、話し方的に恐らくゴースト症候群シンドロームにも気づき、確証があっての発言であろう。

一行はその観察眼に驚き、絶句するしかなかった。


「そうなるとやっぱり手首か肩掛けにするかいっその事魔法で浮かせる完全ハンドフリーのを…。

何ビックリしてるんスか?」


「ああ…ごめん、アナタの言うことがあまりに的を得ていたから…。」


「まぁ、人間観察は趣味みたいなもんっスから。

じゃ、色々分かった所で…。」


ガバッ

ラートはエアリィのワンピース調の服を一瞬で剥ぎ取って下着姿にした。


「きゃああああ!?」


「あ?もしかして恥ずかしい?そう言うお年頃?

他種族の筋力とかはともかく年齢は分かりずらくて仕方ないっスね…羞恥心とかは他種族でもバラバラだし…。

じゃ、こっからは採寸なので男子は去った去った。」


「そもそも女に興味ないからどうでも良いけど…隣の純粋な青年が目を逸らしているので退散しますか…。」


ネルムの方に目を向けると赤面で顔を覆っている。


「そこまで育ってなくない!」

「男とかどうか以前に人としてどうかと思いますよ?」


「ヘイヘイ…。」


赤面して近くの物を投げようとしてるエアリィと汚物を見るような目で見てくるリンに対して頭を掻きながら、完全に固まっているネルムを小脇に抱えるとバリーはラートの部屋を後にした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「身長体重肩幅座高脚の長さ手首足首足のサイズスリーサイズあらかた採寸終わりっと。

やっぱゴーレムとかで測るより自分で測った方がやりがいがあるっスね。

まぁ、オジョーサンの作るゴーレム大雑把だから信用ならないってのが本音っスけど。


じゃあ、どれが良いっスか?

戦闘の事を考えると手首か肩に紐で繋ぐのが良いっスかね?エルフの成長は緩やかだけどこれからを考えると…。」


「いや、成長に関しては考えなくて良いよ。

だってボク…。」


エアリィは自分の指先を見せる、その手は前にバリーに見せた時より透明度が若干増しているように見える。


「ああ、足裏見た時に分かったっスけどナントカって病気っスよね?

アタシは詳しくないっスけど確か発症したら50年かけて末端から消えていくんでしたっけ?

あー…こんな時に良い人なら『きっと治る方法があるから成長の事を考慮する。』とか言うのかも知れないっスけど、アタシはそんな気の効いた事言える人間じゃないしテキトーな事言って無駄な希望持たせたくないんで顧客の希望はそのまま通すっスよ。」


「ラートさん、なんだかんだで優しいね。」


「そうっスか?

まぁ、誉めた所で割引きなんてしないっスけどね。

あ、ヤッベ。」


「今、すっごく不安なセリフが聞こえたんだけど…。」


「いやぁ、杖の魔力の動力源となる魔石を切らしてたの忘れてたんスよねぇハハハハハ。

こりゃ作れないっすわ。」


「ちょっとぉ!?」


「海の国のニーサンも取り扱ってないっスよねぇ…。

あ、そうだお客サンはハンターっスよね?」


「うわ、なんか嫌な予感…。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「「魔石を持つカーバンクルの狩猟依頼?」」


「ここにハンターが居て、ギルド職員も居る。

なら可能じゃないっスか?」


「まぁ、ボクの方は都市のギルドで代わりに手続きをしてラートさんにはギルドに仲介手数料を支払って頂ければ依頼自体は通ると思いますけど…。

問題は…。」


「その依頼に俺はついて行けないって所だなぁ…。

さっき行った通り俺はこの都市では武装禁止の前科持ち、都市内のエネミーだと探す役割程度だし役には立たないぞ?」


「えー…じゃあ、都市のギルドのハンターに。」


「カーバンクルの依頼を積極的に受けるハンターは少ないし、ギルドへの仲介手数料に加えてハンターへの報酬…割高この上ないな…。

だから、今回は俺の力を借りずエアリィがエアリィの力でやってくれ。」


バリーは両手でエアリィの肩を叩いた。


「でも…。」


「大丈夫、お前なら行ける。

正直、俺より強いし。」


「そうです、おねーちゃんはさいきょーです。」


「そもそもカーバンクルは武器での攻撃よりも応用力のある魔法の方が良いし。」


「そうなの?」


「カーバンクルはネコほどのサイズで主に森や山の小さな巣穴、都市なら狭い路地裏に生息してると言われますね。」


「と、言うわけだ。

それに、リンとネルムくんもついて来てくれるし。」


「「はい。」」

「…え?僕もですか?」


「『エアリィはまだハンターになって半年の研修期間。』『研修期間中は先輩の引率が必要。』『。』

俺が引率できないならできる人は一人しかいない、頼りにしてるよ!」


今度はネルムの肩を叩いてバリーは調子の良さそうな声をかける。


「うええええええ…カーバンクルのバーベキューはお断りですよおお…。」















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「と言って送り出したは良いけど…暇だな…。」


エデの部屋に残ったバリーはエデ、セイエンと向かって海の国のボードゲーム『ショーギ』に興じていたが、三局もせずに飽きが来ていた。


「一局一局が長いゲームなのは認めるけどねぇ…案外飽きっぽいとは意外。」


「バリーは弱いから拗ねてるだけではないかしら?」


「このゲームの経験値が段違いの人間と脳みその構造が違う天才に勝てる訳ないだろ…。」


「結局拗ねてるじゃない。」


「ハイハイそうですよ、飽きっぽいし拗ねてますよ。

で?拗ねれば別の暇潰しを用意してくれるの?」


「ははは…じゃあ、罰ゲームも兼ねて新しい暇つぶしに付き合ってもらうかな。」


そう言いながらセイエンは木箱を持ってきてバリーの前に積み重ねた。


「今回、もう一件行かないと行けない取引先があるんだ。

でも馬車を引いてた馬がここの近くで魚頭のエネミーにやられちゃってねぇ…。

だから馬車ウマ体験なんてどうだ?暇は潰せることは保証するけど?」


「…筋肉も潰れる気がする。」















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「えーと…リンちゃんの魔力を少し抜いて土を削げば…。

よし!これでミニサイズリンちゃんの完成!」


エアリィが杖を一振りするとリンは身長50cm程度の非常に小さな体躯となり、辺りには大量の土塊が落ちていた。


「じゃあリンちゃん、これで路地裏の調査よろしくね。」


「筋力は低下しましたが機動力は据え置き…身体も軽いので屋根の上へのジャンプも可能…この身体なら建物と建物の隙間とかも動きやすそうですね、了解しました。

では、発見し次第この土塊越しに合図を送るので。

…行ってきます。」


リンはそのままダッシュして建物の隙間の暗がりへと消えてしまった。


「土から作られるゴーレムって、サイズ自在で便利ですね。」


「そうでもないよ、下手な魔力の込め方をすると追加の土はすぐ剥がれるし小さくしようとするとそのまま消滅するから。

あそこまで自在にサイズ変更できるのは僕が天っ才が故だよ。」


「へ…へぇ…。」















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「重い…。」


「そりゃあそうだろうなぁ…20人分の食材や火薬、刀とかの武器も満載してる荷車だし。」


「なんで俺、引けてるのそれ。」


「さあ?実はバリーくんって馬レベルのムキムキだったりするんじゃないの?

さあさあ気張ってくれ、もう少しで着くから。」


「こんな大量どこの誰と取引するんだよ?」


「もう見えてるだろ?『ミクシス大聖堂』。

そこの騎士の屯所。」


「ミクシス…の屯所か…。」


先日のドラゴン戦以降、バリーは女神信仰の中でも狂信とも言える騎士には苦手意識を持っていた。


「ミクシスって女神の名前だっけ?僕の国の宗教観なんてバラバラで変なタコだったりタマゴを崇める宗教もあるっぽいから分からんけど、宗教観が大きくなると同じ神を崇めるにしても段階や階級みたいなのがあるのかい?」


「さぁ…?あるんじゃない?

少なくとも俺はここの人間は最上位の階級でヤバい奴らと思ってる。」


話をしながら門の前に着いた二人、セイエンが入口で門番をしていた騎士に何かの書類を見せると門が開かれた。


「ご苦労、取引は屯所で行って貰うので着いてこい。」


「ハイハイ喜んで。」


騎士に着いていくと豪奢な聖堂、その隣の質素な宿舎の前に荷車を駐めるように伝えられた後にへと案内された。


「おや?こっち?てっきり隣かと思ったんけど…。」


「モチロン納品は隣で行って貰う、ただ客人にはまず女神様のご本尊の拝顔を許している。

教皇様や我々騎士以外ではなかなかお目にかかれないからありがたくお祈りしてから取引をしようじゃないか。」


「お気遣いどーも。

僕はこの国の宗教に関しては分からないけど、この大口取引は間接的にこの女神のおかげだし、お祈りさせてもらいますよっと。」


「女神様の寵愛のない国とは、我々からしたら嘆かわしいがな。

荷車引きのお前は?」


「俺?俺も宗教観については微妙だな。

結局人の営みは人が作ってるし、そもそもあまり深く考えた事もないし。」


「…まあいい。

中にはご本尊だけだなく他の騎士が祈りを捧げている、失礼のないようにしろよ。」


釘を刺した後に騎士が扉を開くと壁や床に天井、柱や備え付けえてある椅子に至るまで全てが純白で統一された空間の奥で10メートルはあろうかという巨大な女神像が微笑みながら佇み、柔らかな光と静寂に包まれた空間を見下ろしていた。


「おお…。」

「デカい…それに…。」


「心地の良い魔力だろう?世界各地に点在する女神様の像とは桁違いの量だ。

このご本尊が健在な限りはこの機械都市においてエネミーが栄える事はないだろう。

おや?あの方は…?」


女神像の足元、一際明るく陽の光が差し込む場所にて跪いて祈りを捧げる騎士が一人。

その騎士は声に気がつくとゆっくりと立ち上がりこちらに振り向いた。


「やはり、静謐卿でしたか。」


「ご苦労様です『砂塵卿』。

ええ、僅かな刻でも女神様へ祈りを捧げたく…。」


「流石、我が騎士団で最も信心深いお方です。

そうだ、ご紹介します。

こちらは海の国の商会のものです。」


「マイネームセイエンよろしく、今回は我が商会の商品をお買い上げ感謝。

アンタが騎士団の代表さん?」


「ええ、一応部隊の一つを任されています静謐とお呼びください。

おや?アナタはこの前の…。」


セイエンと握手を交わした静謐卿はバリーを見ると顎に指をつけて何かを考えるような仕草をした。


「確か、ハンターの方だったと記憶しているのですが…。

お辞めになったのですか?それとも女神様の洗礼をご希望に?」


一瞬、静謐卿の細く微笑んだめの色が変わり、バリーを鋭く見つめた。


「違う違う、俺はこのセイエンの依頼を受けてるんだけど今は狩猟するようなエネミーもいないから簡単な手伝いをしてるだけだ。」


「なるほど…なら、私が気にかける事はありませんね。

どうぞ、女神様へお祈りを捧げ罪を洗った後に屯所の方へお越しくださ…。」


「お兄ちゃああああああああああああああああああああああん!」


突然、聖堂の扉が開き雷の如き轟音と共に紺色の軽量鎧を改造し、学生服を思わせるミニスカート姿の胸に赤茶色の騎士のエンブレムが光る赤い長髪で細身な少女が駆け寄ってきた。


「セイヒツお兄ちゃんただいま!サジンお兄ちゃんもただいま!あのねコハクね!今日はとっても素敵なお土産がー。」


「『琥珀卿』、都市内の偵察お疲れ様です!」


「はぁ…琥珀卿…いつも言っているでしょう?まずは我々ではなく女神様に帰還の報告、そして聖堂内女神様の御前ではお静かに。

それと、お客様もお見えになっているのですから騎士の品位を下げぬような振る舞いを…。」


「ごめんなさーい…。」


「えーと…その娘は?」


は琥珀卿、我々女神騎士団の一員で私と同じ部隊長です。」


「コハクだよ⭐︎

よろしくねー!商人のお兄ちゃん達。」


「よ…よろしく…って、彼って言った?」


「ええ、我々は女神様より洗礼を受けた言わば

彼はこのような見た目口調ですが男性です。」


「コハクはコハクが可愛いって思った格好をしてるだけだよー⭐︎

似合うのにオトコノコの服もオンナノコの服も関係ないよねー?」


「そ…そうだね。」


「所で、お土産とは?」


「あー、そうだったそうだった。

じゃーん!見てみて、このエネミーはねー人語を話せるのー⭐︎

魔王に関して何か知ってたら尋問できるよー。」


「…!」


琥珀卿が皮袋から取り出したは体を小さく丸めて中心から紫色に変色している。

バリーはそのを見ると彼に殴りかかる。


「どうされました?ここは女神様の御前…暴力は厳禁ですが。」


しかし、その拳は琥珀卿には届かず静謐卿に受け止められ、背後では砂塵卿が剣を突きつけた。


「離せ…ソイツはエネミーとは無関係だ。」


「それはお兄ちゃんと女神様が決めるから、商人のお兄ちゃんには聞いてないよー?

それとも…お兄ちゃんはこの娘のことを何か知ってるのかなー?」


「ソイツは俺の仲間のゴーレムだ。

それと以外が俺の事をお兄ちゃんと呼ぶんじゃねぇクソ野郎!」


激昂したバリーは静謐卿の手を振り払った。


「ほう…。」













〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


数時間前


「うーん…高いところから見ても手がかりなし…。

まぁ、エネミーへの殺意の高い騎士集団も居ますし、目立つ場所は避けますか…このまま屋根越しに。」


「『屋根越しに逃げて魔王様に報告だ。』とでも言うきかな?

逃さないぞ⭐︎」


「…は?」


リンが振り向くとそこに居たのは女学生を思わせる出立ちの可憐な騎士、琥珀卿が短剣を突きつけていた。


「誰ですかアナタ?

行っておきますけど私は魔王のクソ野郎とは関係ない魔法使いのおねーちゃんに作られたゴーレムですよ?」


「『コハク』?コハクはねー、さっきキミが言ってた殺意の高い騎士様だよー⭐︎

誤魔化しも出来るんだねー相当魔法生物の作成に長けた魔法使いに作られたんだろうねー

本当にそのおねーちゃんが作ったかどうかはー…に決めてもらうからー大人しくコハクに着いてきてくれない?」


「『お断りします。』と言ったら?」


「キミも『妹』らしいし、妹同士であまり手荒な事はしたくないけどー…えいっ⭐︎」


「無駄っ…なっ…!」


琥珀卿が短剣を振る、リンはそれを回避するも即座に伸びてきたコハクの脚、そのに履かれたヒールが魔法により伸びてリンを貫いた。


「つーかまーえた⭐︎

逃げようとするとはますます怪しいなー。

お兄ちゃんたちにしっかりお話し聞かせてね⭐︎」


「体が…動かな…!」


肩に深々と刺さったヒールの周囲からリンの土褐色の肌が徐々に紫色に変化していく。


「抵抗しない方がいいよー?

今、コハクのカワイイ靴からは土壌を侵食する毒魔法を流してるからねー。

土ゴーレムには効くでしょー?」


「くっ…はっ…。」


琥珀卿の足を掴んで抵抗するもリンの体は徐々に毒に蝕まれ、次第に意識が切れた。


「あーあ気絶しちゃった。

死んでは…いないね?じゃあ、このまま持って行くねー⭐︎

待っててね女神様そしてお兄ちゃん!コハク、えらいえらいして貰うために帰るから!」















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「なるほどなるほど…このエネミーは貴方の仲間、つまりと言うことですね?」


「もう一度言うが俺たちは魔王とは無関係だ、さっさとその手を離さないと…。」


「おや?先のエルフの里では貴方は状況をよく見る方である。と認識していましたが立場をお分かりにならないですか?」


「やめろバリーくん、キミの仲間はあの騎士の手中。

その仲間をエネミーと暫定して、それを庇っているお前は相手からしたら魔王の手下としてみられて当然。


アンタもアンタだ、騎士の性か知らんがどうやら魔王がらみになると冷静さを失うらしい。

冤罪かも知れないのに話も聞かずにふっかけるのが騎士の仕事かい?お前らの女神様の教えはそんなに過激なのかい?」


熱くなっているバリー、それを威圧する静謐卿を制すようにセイエンがバリーと静謐卿の間に立つ。


「お前…お兄ちゃんと女神様をバカに…!」


「…貴方は本当に魔王とは関係ない、女神様に誓ってそう言い切れますか?」


「俺は宗教に関わらない人間だから女神に誓うとかは言えないけど、魔王とは数回会っただけで仲間でもなんでもねぇよ。」


「しかし私とて世界を混沌に落とし女神様の理想を阻む疑念をそう簡単に収める訳にはいきません。」


「そうだな、俺はなんと言われても引き下がる気はないし。

恐らくアンタも折れる事はないだろ?」


「ええ、話し合いではどこまでも平行線でしょう…。

なので、。」


静謐卿は自身の着けていた白い手袋をバリーの前に投げ捨てた。


「この決闘で貴方が勝利した場合はこの場に限り大人しくこのエネミーをお返ししましょう。

ただし、私が勝利した場合は貴方含め魔王軍の容疑でさせていただきます。

それでよろしければ…。」


「アンタに対しては前に会った時から薄々会話が成立しないタイプだと思っていたから、殴って解決できるならそれの方が分かりやすいし手っ取り早い…。

正直ガラじゃないけどその決闘、受けて立つ!」


バリーは床で存在感を示す手袋を手に取る事なく蹴り上げて静謐卿に返した。

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