第11話 マヨネーズ焼き

ドラゴン討伐から1週間後…バリーとエアリィ、リンに加えてギルドの事務員のネルムは森の国と機械都市の境に位置する大きな池に馬車を止めて釣糸を垂らしていた。


「ねぇ、なんで僕達はこんな所で釣りしてるんだっけ?」


「それはね、お腹が空いたからだよ。

エアリィちゃん。」


「おにーちゃんがおねーちゃんにちゃん付けするの気持ち悪いです。」


「まぁ、腹が減ったのは半分本当だけど…。」


「半分はもう既に夜なので機械都市の門が閉じていたからですよね?」


「そう、機械都市は日が落ちると門を閉じて出入りが出来なくなるし、周りにエネミーも居ないしから釣りをしてるワケ。」


「それはそうだけど…そもそもなんで機械都市に行こうとしてるの?」


「色々と理由はあるけど、最大の理由はドラゴン討伐から帰って息つく間も無く届いたコレだな。」


バリーは懐から一通の手紙を取り出した。















~~~~~~~~~~~~~~~~


一週間前、ギルドにて


「長旅お疲れさん!ドラゴンに殺されかけたり、エルフの里が焼かれたり、まさか俺様達のギルドのハンターが巷で噂の魔王だったりで大変だったな!」


ギルドのリーダー、キルスが大笑いしながら帰還したバリー達の肩をバシバシ叩いてきた。


「最後のは語弊がないです?

因みに今回の報酬の方は…。」


「まぁ、報酬を出してくれるエルフがあんな感じになっちまったからなぁ…。

悪いけど大幅に下げさせて貰うことになると思うぞ。」


「アレだけやって赤字かぁ…。」


「そう、気を落とすな!

そんなお前に…なんと!手紙が届いてるぞ!

字面的に女っぽいな、彼女か?」


「申し訳ないけどアンタと違って女に興味ない。

えーと…『エデ』からだ、珍しい。」


煙たそうな顔をしてキルスから手紙を奪い取る形で受けとるとその場で開封して読み始める。


「えーと、『バリーへ


突然のお手紙失礼致します。

今、私の屋敷にお客様が来ておられるのですが、その方が貴方のエネミー料理について興味を持ち、是非貴方からお話を聞きたいと仰っています。

お忙しいとは思いますが息抜きと思って機械都市ギアリスにお越し頂けると幸いです。


お越しの為に馬車も向かわせたので必ず来ること。


エデより。』」














~~~~~~~~~~~~~~


「と、言うわけ。」


「なるほど、でもなんでネルムくんまで連れてきてるの?」


「それは…。」


「お前、前のドラゴン戦で杖を失くしただろ?

買ってやろうと思ったんだよ、この前言ってた最新式のヤツ。

それでどこで手に入れたか知ってるネルムくんに同行をお願いしたって訳。」


「なるほど…。


そう言えば、そのエデって人はどんな人なの?」


「俺の学友で、家の繋がりで小さいときからつるんでる腐れ縁…かな。

あと、俺が知ってる中で特に色々と凄いヤツ。」


「え?それってどういう…。」


「おねーちゃん、引いてます。」


「あ、ホントだ!えーと…えい!」


エアリィが震えた竿を引き上げると全身が黄色の混じった乳白色の魚が釣り上がった、乳白色の体の先にある妙に目立つ赤い口から体色と同じ乳白色の液体を垂らしながらピチピチと跳ねて抵抗している。


「…なんですかね?この魚。

魚とは思えないツルツルした触り心地してますけど…。」


エアリィがモタモタしているので代わりに針を外したネルムが持つととても自然の生き物とは思えないツルツルとした表面をしていた。


「生臭いと言うより酸化したみたいな臭いだなぁ…。




…酸味はあるが、酢をそのまま飲むような鋭いモノじゃない。

それに卵のような濃厚なまろやかさもあるな。」


バリーは自身の指に魚の口から垂らした液体を着けて臭いを嗅いで舐めた。


「うわっ…。」


「なんで今さらエネミーの体液舐めた程度でドン引きするんだよ!?

肉食うのも体液舐めるのも一緒だろ!?」


「えー…それはどうだろう?」


「見てろよ!今日の晩飯でこの体液を使った料理でギャフンって言わせてやるからな!」


「それはそうとおねーちゃん、おにーちゃん。

アレを見てください。」


リンがエアリィの服の裾をクイクイッっと引っ張って指を指す。


《サンマ…三麻?三魔ァァァァ!》


その先には刀のように鈍い鋼色に光る体に細い手足、その先端に鋭く長い爪を持った人の身の丈程の『魚』が馬車の馬に襲いかかり、補食していた。


「「馬ぁぁぁぁぁぁ!!」」


「安心して下さい!あの馬は機械で出来た馬型の魔法生物(ゴーレム)です!」


「その馬を普通に食ってるヤツに対してどこが安心できるんだよ!?

なんだ!?あの魚(?)。」


「『サンマ』って叫んでましたし、サンマではないですか?」


「サンマは普通手足や鋭い爪はないよ!?」


「だからそのサンマをモチーフにしたエネミーかなぁと思いまして…。」


「そうだとしても変な調味料を出す魚とは思えない魚が釣れて、明らかに海の魚が森の陸上に居るんだよ!?」


《サンマァァァァ!》


今までの周辺の環境に適応しているエネミーとは一線を画す突然の魚型の異形に驚き騒いれば当然、サンマ達もその騒ぎへと目を向ける。

サンマ達は一直線にバリー達に飛びかかってきた。


「しかも速い…!」


バリーは手持ちのナイフでとっさに一匹の攻撃を防御、火花が散っている。


「あ、コレヤバイな…。」


サンマの力はバリーの腕力を凌駕しており、鋭い牙を持った口はバリーの頭を食らわんと伸ばしている。


「妹キック!

無事ですか!?」


「ドラゴンの時より死を覚悟したかも…。

つか、ナイフが使い物にならなくなったんだが!

コレ、料理にも使うヤツなんだが!」


リンの跳び蹴りでサンマは吹き飛び、助かったバリーがナイフを見ると爪の当たった部分の刃先は欠けていて、切っ先の一部は切り落とされている。


《サンマサンマサンマサンマ三魔ァァァァ!》


蹴りを入れられて怒ったのかサンマは怒りを露にしながら立ち上がった。


…が。


「こっちだぁ!」


ネルムがサンマの飛ばされた先に走り、炎の魔符を剣の持ち手に張り付け立ち上がったサンマの首を下から切り上げた。


《サン…マ…マ…》


飛び上がったサンマの首は弧を描いて池の中へ落ちていき、サンマの体は血を吹き出しながら地面へと倒れた。


「ふぃ~。

恐ろしいエネミーだったな…。

ありがとう、ネルムくん。」


「いえ、前衛として当然の事をしただけです。」


「俺とエアリィは遠距離だしそもそもエアリィは武器なし、リンは小さい状態だと力弱いから白兵戦は向かないからなぁ…。」


「どなたかとパーティ契約します?

ギルドで仲介しますよ。」


「いや、決まったパーティメンバーとか人間関係拗れそうだからパス。」


「断り方が世知辛い…!」


「ちょっと皆!あの魚(?)の頭が竿を垂らしてる先に落ちてから全員の竿が引きまくってるんだけど!

助けてぇぇぇ!」


池の方からエアリィの叫び、その方角を見るとエアリィは4本の竿を持っててんやわんやしていた。


「あー…あのサンマの頭部が撒き餌になったんですかね?多分。」


「戦闘力ないとは言え、あのサンマの化け物居る状態で釣りしてたの…?

あの腹ペコエルフ娘…。」


三人は急いでエアリィから釣竿を受け取り、魚を釣り上げた。


…しかし、その後釣り上げた魚は先ほどの白い液体を吐くエネミーであった。
















~~~~~~~~~~~~~~~~


「さて、今日の晩飯を作っていきますか。

魚は鮮度落ちやすいし、サンマの皮とかを武器や防具の素材には出来なそうだから全部焼いて食べるぞ。」


「うぇぇ…最近、エネミー料理にようやく慣れて来た自覚はあるけど、流石にコレはイヤだなぁ…。」


焚き火の前に並んだ食材は白い液体を口から垂れ流してる小魚の山と胴回り1メートルはある巨大なサンマのような怪物。

普段の数倍はグロテスクで人を寄せ付けない空気を醸し出していた。


「サンマ(?)を一般的なサンマの半分位のサイズに切り分けたら塩を振って余計な水分を抜く。

…と言いたい所だけど、俺のナイフは天に召されたので。」


バリーはおもむろにサンマの片腕を掴み、その腕の先の鋭い爪でもう片腕を切り落とした。


「コレを使います。」


鋭いナイフと遜色ない白銀に輝く爪は切り落とした所からポタポタと血液を垂らし、時折ピクピクと痙攣している。


「お、試し切りしてみたけど前のナイフよりよっぽど切れるぞ!」


「うん…良かったね…。

ちゃんと洗ってから使ってね…。」


バリーは水で爪を洗ったら改めてサンマを切り分けて網で焼き始めた。


「そして、この謎の小魚から取れたサンマ用ソースをかけて焼きます。」


「サンマ用ソースって…。」


「だって、名称わからないし。

じゃあ、エアリィが決めてくれよ。」


「えー…じゃあ、サン『マよ』うソースからマヨソースで。」


「オッケーそれ採用。

じゃあ、マヨソースをかけてしっかり火を通したらそこに唐辛子の粉を少しだけ振りかけたら…『サンマのマヨソース焼き』完成!」


「うぅ…悔しいけど美味しそう…!

でも、元々はアレだと思うと…!」


「えぇい!つべこべ言わずに食べてみろ、腹ペコエルフ!」


ネルムの前にも一人前取り分けながらバリーは口にねじ込むかのようにサンマを刺したフォークをエアリィの前に付き出す。

エアリィが目をギュッと瞑りながら一口齧る。

すると警戒していた表情は和らいだ。


「美味しい!

甘味のある油が玉子っぽい風味のマヨソースと相性良いし、少しの酸味と唐辛子の辛味がアクセントになってる!」


「めちゃくちゃ感想上手になってるじゃん…。」


「サンマの苦味がマヨソースで和らいでますし、美味しいですねこのソース。」


「しかし、このソースは殆ど魔力ないですよ。

サンマの化け物の魔力はそこそこです。」


丁寧にナイフとフォークで食べてるネルムの横でバリーから一口食べさせられ、身長が122cmに伸びたリンは口をモゴモゴさせながら魔力に関しての感想を述べる。


「サンマ…だと魚の名前になるから『三魔』と仮称しておくか。

魔力はそこそこっと…。


マヨソースの魚は…マヨソースフィッシュ…なんかしっくり来ないな…。」


「マヨソースのケースみたいな魚なんですからマヨケースで良いのでは?」


「確かにマヨソースを抜いたこの魚はキレイな透明ですし、内臓や皮はとても食べられそうにないですもんね。

では、マヨケースを少し濁らせて『マヨネーズ』なんてどうでしょう?」


「お、それっぽい。

じゃあコイツはマヨネーズってことで。」


「よし。」と一言呟くとエネミーの特徴を書いたメモを書き記した。


「え?そんな簡単に決まって良いんですか?」


「新しく見つかったエネミーの正式名称なんて誰も知らないんだから良いんだよ。

おめでとう!このマヨネーズが図鑑に載ったらネルムくんが名付け親として歴史に名を残すぞ!」


「からかわないで下さい!」


顔を真っ赤にしたネルムの叫びが森に木霊した。
















~~~~~~~~~~~~~~~


翌日、一行は森と繋がる機械都市の門で手続きを行っていた。


「ウードリアギルド所属のネルムです。

後ろの方々は同じくギルド所属のバリーさんとエアリィさん、エアリィさんが作成したゴーレムです。

こちらがギルド所属証明とエアリィさんのゴーレムの所持証明です。」


「森のギルドの者か、機械都市への滞在理由は?」


「都市に住まわれるエデ様よりの招待です。こちらが招待状です。

それと…。」


十数分、ネルムと門番が問答し手続きの後に一行は身体検査を受けて門を通された。


「結構厳重に調べられるんだね。」


「貴族とかもいらっしゃるので厳重なんですよ。

通行証等が無ければ出入りは出来ませんし、資格が無ければ武器を持つことや購入も出来ません。

エアリィさんは森のギルドでのハンター資格があるので問題はないですよ。」


「おねーちゃんの体にベタベタ触って、とんだセクハラヤローでしたね。」


「まぁ、あちらさんも仕事なんだから許してやってくれ。

それに、仕事で他人の体触って喜ぶ人間なんて多くないぞ。」


最後に身体検査を受けていたバリーが合流した。




…小さな荷物を一つ持った以外はほぼ手ぶらの状態で。


「バリー!?弓は!?魔符は!?エネミーの食材はどこに置いてきたの!?」


「エネミー食材と調理器具は危険な可能性があるから専門機関…ガウリュさんの居る学園の魔法生物学科に送ってくれるってさ。

その他はあそこの門で預かるらしい。」


「なんで?ハンターの資格があるなら武器とかを預かる必要ないんじゃないの?」


「あぁ、言ってなかったっけ?

俺、この都市でやらかした事があるからこの都市ではハンターの資格ないんだ。

まぁ、その事は後で詳しく教えるから取りあえずは行くか。


エデに会うのは…めんどくさいから後でいいか。」


「まずはお前の新しい杖を入手したいからネルムくん、案内お願いできる?」


「その必要は不要ですわ。

そのめんどくさい人と会うのも、新型の杖を入手するのも一ヶ所行けば事足りますもの。」


突然、銀髪のショートヘアーでメイド服姿の小柄な少女に車椅子を押された青いロングヘアーの右手と右足のない落ち着いた雰囲気の女性が一行の目の前に表れた。


「げっ…。

よ、よう…『エデ』…。」


「お久しぶり…バリー。」


上品な笑顔の女性とは対照的にバリーは女性の顔を見るとひきつったように笑った。

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