第5話 プリンとコーヒーゼリー

コカトリス討伐後、一行は森の国のギルドに戻りギルドへの報告と報酬の受け取りをしていた。


「直接指名の依頼でもちゃんとギルドを通して、ちゃんとギルドに手数料取られる…。

仕方ないとは言え、世知辛いなぁ。


ガウリュさん、半身で大丈夫なんですか?」


「大体はニワトリとヘビだからねぇ。

それに、半身とはいかなくても結構な量食べちゃったし。」


「どこぞの大食いエルフが育ち盛りなもんで申し訳ないです。

じゃあ、また森の国に来るときは連絡下さい。」


背中を育ち盛りの大食いエルフにつねられながらバリーとガウリュは手を振り合い別れを告げ、ガウリュは運び手や護衛と共にギルドを後にした。









~~~~~~~~~~~~~~


「さて…エアリィ、リン、クエスト終わった所で申し訳ないがもう1クエスト連続で行けるか?」


「行けるけど…。」


「珍しくやる気ですねおにーちゃん。」


「お前は今日生まれたばかりで俺の普段も珍しいもないだろ…。

まぁ、いいか…サンちゃんいつものある?」


「ありますけど…よく皆さんが好き好んでやらないクエストやりますね…。

私も紹介はしたくないんですけど…。」


「むしろ俺は進んでやりたいクエストだからねぇ。

じゃあ、行ってきます。」


依頼書を受け取るとバリーはエアリィとリンを連れてクエストに向かった。










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「随分とやる気だけど、今から何を倒すの?

バリーの好物とか?」


「食ったことはないんだけど…俺の嫌いなエネミーだな。」


「おにーちゃんの趣味嗜好には興味ありません、何を倒すんですか?」


「フェアリー。

数週間に一度は街の近くに出るから俺が可能なら定期的に追っ払うようにしてるんだ。」


「フェアリーって人を転ばせたり、驚かせたりの悪戯をする程度の可愛いエネミーだよね?」


「何故、天下の中の下ハンターのおにーちゃんが進んでやってるんですか?」


「ああ、フェアリーは可愛くて、エネミーなのに子供程度には頭も良くて、人語を話して、こちらから危害を加えなければやることは悪戯だ。

研究目的以外でエネミーの飼育は当然、全世界的に禁止されてるがそれでも飼う人が居る位だ。


でも、フェアリーは最悪の形で好奇心が旺盛でなおかつ飽きやすい。」


バリーは珍しくイライラした口調でフェアリーの生態を話し始めた。


「例えば、人の歩く先にロープを張って転ばせるフェアリーが居るだろう?

でも、フェアリーはだんだんただ人が転んでる様子を見るのが飽きてくる。

そうなると、次は『風の刃を出す魔法で足を切断させればもっと派手に転んで面白いだろう』と考えるんだ。」


疑問の表情を浮かべていたエアリィも話を聞くと徐々に青ざめていった。


「それを悪意なくやってくる。

いかんせんコミュニケーションも表面上取れるし容姿も良いから人間も警戒しづらい。


下手な巨大エネミーよりも凶悪だと俺は思ってるよ。」


『ソーナンダーコワイネー』


「でも危険度自体は軽視されてるから報酬低いけどな…って居たぁぁぁぁぁ!?」


『フフフフフフ!オドロイタ?オドロイタ!』


いつの間にか三人は20cm程度の淡い光を放つ背中に虫のような翅をつけた小人に囲まれていた。


『ツギハドウヤッタラオドロクカナ?』

『ウシロカラツツイタラオオキナヒカリヲダソウ!』

『メヲツブシタホウガオオキナコエガキコエルヨ!キット』


十数翅のフェアリーは散り散りになりながらも甲高い子供のような声で次の悪戯を考えている。


「聞こえてるんだよ…!」


バリーは弓に矢をつがえてフェアリーに向けて放った。

その矢の鏃は通常の矢とは違い、小さな球体が付いている。


「あんな小さいのに矢なんて当たるの!?」


「…当たらねぇよ?」


フェアリーは嘲笑しながら余裕の表情で矢を避け、矢はフェアリー達の頭上まで飛んで行った。


「エアリィ、あの矢に魔法弾を放ってくれ。最小限の威力で。

リンは防御体制。」


「え?うん、とう!」


エアリィが小さな魔法の弾を放ち、先に飛んでいた矢に当たる。

すると鏃の球体が破裂し、白い煙が周囲に広がった。


『ケホッケホッ!ケホッ!』

『ナニコレ!?』

『クルシイ!クルシイ!』


フェアリーの群れの半分ほどを包んだ煙を吸い込んだフェアリーは咳き込んで、息苦しそうに地面に落ちた。


「あとは…。」


バリーは落ちたフェアリー一匹一匹にナイフを突き立てた後に首を切り落とし始めた。


「何をやってるの…?」


「さっきの煙だけだと討伐までは出来ないから動きだす前に首を切り落としてる。


そら、来るぞ。」


『オトモダチガコロサレタ!』

『ユルセナイ!ユルセナイ!』


生き残ったフェアリー達は怒り、魔法で光の弾や風の刃を三人に飛ばし始めた。


しかし…。


「おねーちゃん、隠れて!」


エアリィの前にリンが飛び出すとリンの小さな体が隆起して大きな壁を作った。(どさくさに紛れてバリーも壁の後ろに隠れた)


「リンちゃんありがとう!」


「そんな事出来るのかよ!?

高性能過ぎない?この妹。」


「自慢の妹だからね!

えーと…煙に弱いの?」


「素早いけど耐久力ないから範囲攻撃ならなんでも良いけど、今回は吹き飛ばさない方向でやれる?」


壁を迂回してきたフェアリーの攻撃を回避しながら二人は作戦を話し合い。


『イタ!イタヨ!』

『オトモダチヲカエシテ!』


「モチロン!食らえぇ!」


一斉に襲いかかってきたフェアリーの群れにエアリィが杖を向けるとフェアリーは急に動きを止め。


『サ…サムイ…』


その一言を最後に全翅が地面に落ちて息絶えた。


「氷魔法か…?イメージ的には氷塊がドカーン!

みたいな感じだけど、こんなに静なか魔法なんだな。」


「それ、どこの絵本の世界の魔法?少なくともエルフの使う氷魔法は杖の先に低温の空間を作ってその範囲を氷らせる魔法だよ?

それを応用して氷塊をドカーン!も出来なくはないけど…。」


「それだったら最初から地面をドカーンなり炎でドカーンなりすれば良いでしょう?」


エアリィの魔法の説明にリンが正論を付け加えた。


「ソウッスネ…。」


バリーは妖精のような声で返事をした。











~~~~~~~~~~~~~~~


「お湯も沸いたし…フェアリーを調理していくか…。」


「食べるとは言っていたけど、今までのエネミーと比べると人っぽさが凄くて食欲がいつも以上に湧かないんだけど…。」


「そんなワガママなエルフのお嬢さんも安心!こちらをご覧下さい。」


声高にバリーがポーチに手を入れると白い粉が入った木のボウルを取り出した。


「おにーちゃんは料理になると無駄にテンション上がりますね。

…そちらは?」


「フェアリーは死んでも死体は残さず一般的に『妖精の粉』と呼ばれる白い粉末になるんだ。

因みに普通はフェアリーが飛んだ跡に少量残るだけだが、死体だと量が多い。

魔力を通しやすいから武器や防具の加工で重宝されるらしいけど、今回は妖精の粉の納品はクエストの条件にないからこれを食ってみる。


これをコカトリスの卵と一緒に混ぜる。」


「コカトリスの卵の親子丼は濃厚で美味しかったけど…妖精の粉ってどんな味なの?」


「舐めたら甘かった。

今回はこれで甘いものを作るぞ。」


「ヘビの卵と人型の粉末で甘いもの…。」


嫌そうな顔のエアリィを横目にバリーはそこに牛乳を加えて小さな容器に濾しながら入れていく。


「これを沸騰したお湯に入れる。」


容器をお湯に入れると温まった所から徐々に固まっていき、1分足らずでプルプルの感触になった。


「マジか…砂糖だけじゃなくて凝固剤になるのか。

万能だな…妖精の粉。


じゃあ、このままリンの魔力測定用にコカトリスの卵不使用のゼリーも作るか。」


「そうか、コカトリスの卵使ったのをリンちゃんが食べたらフェアリーに含まれる魔力なのかコカトリスに含まれる魔力なのか分からなくなるんだね。」


「その通り、だから沸騰したお湯に妖精の粉を入れ…。」


バリーが妖精の粉をお湯に入れようとする手をリンが掴んで制止した。


「自分は甘いものを作っておいて、私には味のない水ゼリーですか?」


「お前、食事必要ないって言ってたじゃん…。」


「食事は必要ありませんが味は分かります。

あれを入れて下さい。

私(土)にも栄養ありそうですし。」


リンはバリーが淹れようと準備していたコーヒーを指差した。


「…分かったよ、コーヒー味なら良いんだな?」


バリーは「仕方ない…」とため息をつきながらお湯にコーヒーの粉末を溶かし、そこに妖精の粉を入れると先ほど同様にプルプルになる程度に固まった。


その後、氷魔法を入れた小型魔法冷蔵庫で約10分冷やして取り出す。


「少し冷ましたら…。


『フェアリーとコカトリスの卵のプリン』と『フェアリーのコーヒーゼリー』完成!」


バリーは完成したプリンとゼリーをエアリィの前に並べ、自分はコーヒーゼリーを一掬いしてリンの前に差し出す。


「…おにーちゃんに食べさせて貰わなくとも自分で食べられますが。」


「そう言えばそうだな。」と言いつつエアリィがプリンを口に入れると同時にリンへと食べさせた。


「あまぁい!魔力も味も濃くて疲れも取れる!

僕、コレ好き!」


「お前は何でも好きだろ?

とは言え、喜んで貰えると作りがいがあるな…。


リンはどうだ?」


バリーがリンの方を向くとそこにはバリーを見下ろす大きな妹(リン)の姿があった。


「マンドラゴラよりも量及び質共に上回ってますね。

コーヒーが私の体にも栄養となりかなり良質な食品と言えましょう。」


「すごいな…。早速だけど測るぞ。」


伸びた身長を測ると215cm、マンドラゴラの三倍に届く勢いの伸びであった。


「想像以上の魔力量だなぁ。

流石高級食材…じゃなくて高級資材。」


「高いの?コレ。」


「ああ、戦う前に言った通りフェアリーはあまり狩猟対象にならないし、フェアリー自体も狩猟しづらいからなぁ…。

このプリンやゼリーだと森の国の農場で半年汗水垂らして働いてやっと一個作れる量買えるかな?」


「バリーってバカなの?」


「うるせー。納品依頼じゃない自分で狩ったエネミーの素材をどう使おうと勝手だろ。


高級プリンなので俺も食うぞ。」


そう言ってバリーがプリンに手を伸ばすと…。


《Graaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!》


耳を劈く咆哮と共にバリーの目の前に巨大な鉤爪を持った手が現れ、プリンとゼリーを吹き飛ばした。

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