第3話 野菜スープ

翌日、街に到着したバリーとエアリィはギルドの宿泊施設にあるバリーの自室に居た。


「お前、追放されてから風呂とか入ってなかっただろ?ソコに洗面所あるからそこで軽く水浴びしておきなよ。

ちゃんとした風呂には後で連れていく。」


バリーは敷地内の井戸から汲んだバケツ二杯の水を下ろしながら提案した。


「でも、僕は着替えもないよ?」


「お前が水浴びしてる間にギルドにお前の事を報告する、ついでにそれもどうにかするよ。

それまでは俺の子供の頃の服でも着て部屋で大人しくしてろ。」


バリーが着るには少し小さめの服をエアリィに投げ渡した。


「むぅ…どこまでも子供扱いする…。」


「何百歳でも子供なら子供だ。

じゃあ、行ってきます。」


バリーは部屋を後にし、エアリィは洗面所で水浴びを始めた。






~~~~~~~~~~





ギルド内

前日よりは幾分かマシにはなったがバリーが入るとまたヒソヒソと声が聞こえて来た。


「あー…居心地悪ぃ…どーせ、俺は悪食バリーさんですよぉ。」


悪態を着きながら受付に向かうと前日同様に受付嬢の『サン』が対応してくれた。


「ヤッホーサンちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。

丸腰の捨てエルフを森で拾った場合ってどうすれば良い?」


「唐突に何を言い出すんですか?丸腰の捨てエルフなんて居るわけ…。

まさか、食べたんですか!?エルフを!?エネミーじゃないですよ!?」


「食べてねーよ!

実は…。」


バリーは昨日あった事を簡単にサンに説明した。


「と、言うわけでこの街でその娘を面倒見て貰いたいんだけど…。」


「うーん…エルフが街にって前例がないので言い切れないですが、年齢は高いとは言え子供一人では難しいと思います。

せめて保護者が居れば…。」


「だよなぁ…。

仕方ない、拾った責任もあるし30年俺が面倒見るか…俺の方が先に逝ったりしそうなんだけど。」


「バリーさんは危険な所でも生き残りそうな気がしますから大丈夫ですよ!」


「…それ、貶してる?」


「誉めてるんですよ!バリーさんの名前があれば大丈夫だと思うのでとりあえず、街の住人登録の手続きをするためにそのエアリィちゃんを連れてきて下さい。」


「お?ギルドってそんな役所業務も代行してくれるの?りょーかいりょーかい!


…あ、そうだ。サンちゃんパンツくれない?」


「あ、ハイ!パンツですね!



……


………


ハイ?」


「パンツ、貰えない?」


「いいいいいいいいいきなり何を言ってるんですか!?変態!セクハラおじさん!!

そもそも私には『ジィ』くんって言う恋人が…。」


バリーの突然の発現にサンは取り乱し、恋人の名前まで暴露した。


「ヘー、オメデトサン。今関係ある?

あと、おじさんじゃねーよ20代だよ。」


「女の人の下着を欲しがるなんて変態以外の何があるんですか!?」


「あ、違う違う。今言ったエアリィは着替え持ってないんだよ。

上に着る服は俺の小さい時の服着せれば良いけど、下着がないんだよ。

見た感じ、サンちゃんとエアリィの身体のサイズ似かよってるし、『下着貰えないかなぁ』と思ってさぁ。」


「最初にそれを言って下さい!それにサイズが目算出来るなら素直にお店で買って下さい!」


真っ赤になりながらサンは早口で正論を並べる。


「うん、でも俺女性下着のサイズ表記とか分からないからさぁ。サイズ教えて?」


先日殴られた痕がようやく引いてきたバリーの頬は再び腫れ上がるのであった。





~~~~~~~~~~





一方、バリーの部屋ではエアリィが水浴びを終えて部屋を物色していた。


「服は手足の丈はともかく、肩幅とかがちょっと足りてないなぁ。

あと、まだちょっと汚れてる気がする…。


えーと、野菜の苗…乾燥させてるスパイス…コレは料理本かな?よく分からない言語のヤツもある。

ホントに料理関係のモノばっかりだね。」


本棚を調べていると小さなメモ帳をとレポート用紙大量に見つけた。


「『エネミー食から解決する食料不足問題とエネミー増加問題』…バリーのレポートだ。

評価は…D。」


ページを捲ろうとすると部屋の扉が開いてバリーが帰って来た。


「人の恥ずかしいモノ見てるんじゃありません。男の部屋にある本の中でも日記やレポートと裸が写っている本は子供は読んじゃいけません。」


「ビックリした…。でも、バリーって昔からエネミー料理について考えてたんだね。

学者でも目指してたの?」


「そんな事より、お前を住人登録出来るからギルドに行くぞー。

終わったら風呂と服屋に連れていって最低限生活できるようにしないとだし。」


露骨にはぐらかしながらバリーはエアリィを連れ出した。




~~~~~~~~~~~



ギルドに到着し、バリーとエアリィが住人登録をしていると初老の男性が二人に話しかけてきた


「ようバリー!森で珍しい猫拾ったんだって?」


「あぁ、キルスさん…かわいい猫でしょ?ギルドで面倒見てくれません?」


『キルス』と呼ばれた男の冗談に冗談っぽく本音を言いながらバリーは振り返った。


「拾ったら拾ったヤツが面倒見るのが道理だろ?

それに、俺に預けて良いのか?まぁ…俺のパーティに入れるには若すぎるけどなぁ!ハッハッハッ!」


「ムッ…もしかして猫って僕の事?僕は猫じゃなくてエルフなんだけど!

それに、言っておくけど僕は魔法のセンスは同年代でもトップだったし魔力も高いって長からのお墨付き貰ってたんだよ。


と言うかバリー、この人だれ!?」


二人の冗談にエアリィは不快感を感じ、言い返した。


「あぁ、この人はこのギルドの責任者で町のリーダー役もやってる…」


「『キルス』だ!よろしくな子猫ちゃん!

街の人は親しみを込めて『ナイスガイ』と呼んでるぜ!」


「へ…へぇ…よろしくナイスガイ。」


「誰も呼んでないから普通に呼んでやりな…強いて言うなら『キルスのエロジジイ』とでも呼んでやりなよ。


因みに、この人のパーティはこの人の愛人も兼ねてるからオススメしないぞ。

ハーレムパーティとか今時流行らないだろ…。」


それを聞いてエアリィは顔を紅潮させた。


「ギルド運営も忙しいし、滅多にハンターらしい仕事しないからなぁ…。

それに、この程度で顔を真っ赤にさせてる子猫ちゃんじゃ若すぎるし…俺のパーティに誘うのはまた今度な?」


「えーと…手続きの書類書けました?」


セクハラとも取れる談笑をしていると住人登録の手続きをしていたサンに催促をされた。


「えーと…お名前は『エアリィ』さん、ハンター希望動機は『ここなら衣食住揃うんでしょ?』…。

…ハンターギルド自体が流れ者多いからってテキトーすぎません?」


「だって、事実だし…。

それに、僕強いよ?里の中でも弓はともかく魔法の扱いは同年代で一番だったから!」


自信満々のエアリィを見てキルスは思い付いたかのように笑いはじめた。


「よーしよし、そんなに自信満々なら採用試験でもすっか!

丁度脅威度もそんなに高くなさそうな依頼が農園から来た所だし、お嬢ちゃんにやってもらおうか。

コレをこなして見せたら人種とか流れ者とか拾い猫とか抜きにして住人登録出来るようにしてやるよ。」


「ちょっ…キルスさん!そんな勝手に…!」


「まぁまぁ、一泊させるのもバリーの家に居候させるのも俺達には対して変わりはしねぇじゃん?

それに、エルフだなんだなんて気にするのなんて街のじいさんばあさん位じゃねぇの?


と、言うわけで頼んだぜ!お嬢ちゃん!

バリー、お前も付いていってやれよ?」


サンのため息をよそにキルスは二人にクエストを依頼した。


「ハイハイ…相変わらずその場のノリでテキトーに決めるよな…。」


「まぁ、良いじゃん僕の住人登録も出来て僕の実力も証明出来る良い機会だよ。

で?僕たちは何をすればいいの?」


自信満々でエアリィはキルスに依頼内容を尋ねた。


「ん?『農園の雑草駆除』。」










~~~~~~~~~~









『ウードリア第三農園』

ウードリアの街から少し外れた巨大な農園で主に野菜を作っている。

巨大な農園のため周囲の森からのエネミー対策として常にギルドへ偵察や護衛、討伐の依頼をしているギルドの大口顧客である。


「大きいね…。」


「野菜だけじゃなくて作物や家畜を作ろうとするとエネミーに荒らされる、だから護衛をつける。

でも金がないと護衛もつけられない、そして護衛に使った人件費も含めて作物は高値になる。


エネミーのせいでだーれも得をしない世の中だよ。」


「だから憎いエネミーは食べちゃおうってなったの?」


「そこまで短絡的じゃないけどな…。」


「で、僕たちはここの雑草を抜けば良いの?

それってただの農作業だし、ハンターに依頼する事ではないような…。」


エアリィは呟きながら依頼書を広げた。


「依頼書は良く読みな。

雑草は雑草でも『マンドラゴラ』、立派なエネミーだよ。

作物を直接荒らす訳ではないけど周りの土から養分吸って枯らすんだとさ。」


「ふーん…植物のエネミー…あんまり見たことないかも。

そのマンドラゴラが農園の一角に発生したから駆除するのが今回の依頼なんだね。」


「そう言うこと、さっき農園の人に聞いた時はこの辺だって言ってたけど…。」


辺りを見回しながら歩いていると前方に歪な色と形の葉を生やした植物が群生していた。


「何あれ?あれもここの野菜?」


「この辺は作物を作ってないって言ってたぞ?

それに畑なら畝とかあるだろうし。」


「じゃあ、アレがターゲット?

確かにあの野菜は食べたくないなぁ…。」


「食べるぞ?」


「え?」


「今回は依頼があったけど、マンドラゴラって鎧や武器に加工も出来ないからハンターから見ても素材としての価値ない、つまり積極的に狩る対象にならないんだ。

でもエネミーだから数を減らしたい、美味かったら狩る価値出ると思わないか?」


「えぇ…見た目悪いからないと思うよ…。」


「いいから、攻撃攻撃。」


バリーの持論にツッコミを入れながらもエアリィは杖に魔力を込め始める。


「近くでは作物作ってないって言ったよね?

少し威力高くていい?」


「まぁ…いいんじゃない?」


バリーはエアリィを子供と思い侮っていた。




しかし、それはすぐに覆される事になった。


「とぉぉぉぉう!」


気の抜ける掛け声と共に前方のマンドラゴラの群生に凍てつく風が襲いかかり、その大半が地面ごと氷結、息絶えた。


《!?》


辛うじて生き残った数体の個体が葉の部分より下から体となる根の部分を地面から引き抜き驚きの仕草、群れの仲間を攻撃した二人を見た。


「…エアリィさん、本気出しすぎじゃないッスか?」


「言ったでしょ?僕は魔法の天才だって。

それにエルフの魔法使いはこの位は大人になれば出来るよ?」


「マジかよヤバいなエルフ。」


《━!!》


残ったマンドラゴラが叫び声を上げ、手にあたる根を前に出すとその前に土塊が集まり二人へ射出された。


「危なっ!」


そう言いつつもバリー既に弓につがえていた矢を放ち土塊を撃ち落とした。


「魔法の天才でも討伐依頼の場合、ターゲット全ての絶命を確認するまで気を抜くなよ?」


攻撃してきた個体を矢で撃ち抜きながらバリーはハンターとしてのアドバイスをする。


「ごめん。」


エアリィも謝りながら魔法で風の刃を飛ばして残った個体を倒した。


「まぁ、コレだけ強い魔法を使えればハンターとしては問題ないな。


基本を覚えれば。」









~~~~~~~~~~~~~








「おぉ~ありがとない。

農園の魔草の駆除はちゃあんと確認出来たぞぉ。

報酬はギルドの方から払われると思うけど、せっかくだからこれも持ってかっせ!」


農園にマンドラゴラ駆除を報告した二人は管理者の『ノウド』から小振りな袋を受け取った。

その中には少し形の変形した茶色の球根、玉ねぎが入っていた。


「おぉ…玉ねぎ切らしてたからありがたい。

でも、貰っちゃって良いんすか?」


「おらいで食う分を分けるだけだ、ギルドには内緒にしっせよ?」


「やった!まともな野菜だ!」


「ギルドには内緒って言われたから食べちゃうか…。

スープとかでいいかな?


ノウドさん、調理場とかあります?あったら借りたいんですけど…。」


ノウドに案内されて屋外の調理場へ移動、火をおこして調理の準備を始めた。


「手は洗ったか?」


「はい!」

バリーとエアリィはお互いの前に自分の手をかざした。


「髪は縛った?」


「はい!」

バリーは頭に三角巾、エアリィは普段の長い髪を一つに結っている。


「火は着いたな?」


「はい!」

エアリィの魔法で薪は激しく燃えている。


「さて、では料理を始める!

今日のメニューはスープだ!」


「具材はさっき貰った玉ねぎだね。」


エアリィが袋から玉ねぎを取り出した。


「それとさっき狩ったマンドラゴラだ!」


バリーも自身の袋からマンドラゴラを取り出した。


「なんで!?」


「一度俺と飯食ったなら察してくれない?

俺はエネミーを食べるためにエネミー狩ってる男だぞ?」


「うーん…実際、それに助けられたからあんまり言い返せない…。

…ま、いっか。」


「意外と切り替え早いな…。

じゃ、始めるぞ。


包丁つかえる?」


「家の手伝いとかもしてたし、大丈夫。」


「じゃあ、この雷牛(ストーンカ)の肉を燻して作ったベーコンを1~2枚薄く斬って、それを親指の間接程度の長さで切り揃えて。」


バリーは先日手にいれてスモークしていた雷牛の肉を保存用のポーチから取り出しエアリィに渡した。

エアリィも『雷牛の肉がなんであるのか?』と言う疑問は置いておき、エアリィは肉を恐る恐るスライスする。


「…。

大丈夫か?怪我するなよ?」


「だ…大丈夫だよ…。」


エアリィの手つきに心配しながらバリーは先ほどの玉ねぎとマンドラゴラの皮を剥いて手際よく一口大に切る。


「マンドラゴラの葉も…アクセントで使えそうだな。」


そう言うとマンドラゴラの葉一枚を細かく刻んだ。


「よし、エアリィ切れたか?」


バリーが振り返るとエアリィの手からは鮮血がポタポタと流れていた。


「ゴ…ゴメン…。」


「…目を離した俺が悪かった。」


涙眼で謝るエアリィに対してバリーも申し訳なさそうに謝り、切り傷に布を巻いた。




~~~~~~~~~~~~~~~




鍋に水と切った具材を入れて火にかけ、煮えるまでの間、バリーは止血をしたエアリィの絆に薬を塗って処置をしていた。


「エルフって手先が器用な種族じゃなかったのか?」


「全員がそうとは決まってないよ…。

人間だって全員が頭が良いって訳じゃないでしょ?

僕は魔法の天才だけど、料理の天才ではない!

指先も透明だし!」


「なんでソレを胸はって言えるんだよ…。

ま、料理もおいおい覚えて行けばいいだろ。続けていけば嫁くらい行けるようになる。」


「いいよ、どうせ数十年で死んじゃう病気だし。

失敗したのも指先が透明になって使えなくなってきてるからだと思うし。」


「嫁になるとかはともかく、そんな事言うなよ…。


世の中、医療も進んでるんだからもしかしたら治る日が来るかも知れないじゃん?


さて、スープもそろそろ煮えたかな?

食事にするか。」


バリーは軽く味見をすると器にスープを注ぎ乾燥した胡椒の実を砕いて一つまみ振りかけ、千切ったマンドラゴラの葉をスープに浮かべた。


「ほい、『玉ねぎとマンドラゴラの野菜スープ』完成!」


「匂いだけで凄い魔力だね。」


「そうなの?分からん。

じゃあ、手を合わせて~。」


「「いただきます」」


「!?!?!?」


二人がスープを口に運ぶとエアリィは途端にむせ帰った。


「熱いんだから落ち着いて食えよ…。」


あきれ気味にバリーが水を渡し、エアリィはそれと一緒にスープを飲み込んだ。


「いや、熱いのもあるんだけど…。

濃い!このスープ魔力が濃い!

この前のウサギ肉のパイとは桁違いで濃くて吸収も良さそうだからすぐに大きな魔法が撃てそう。」


「へぇ…そこら辺は考えた事なかったな…。」


バリーはスープを飲みながらもメモを取っている。


「見た目が不揃いなニンジンっぽかったからニンジンの代わりに使ったけどニンジンほどの甘味はなくて苦味があるな。」


「ちょっと薬っぽい匂いもするからスープ向きじゃないかもね。

僕は好きだけど。」


エアリィはおかわりを要求するように皿を出しながら味の評価をした。


「意外とクセのある味が好みなんだな…。


それにしても魔力か…。

よし、エアリィコレからお前を面倒見るにあたって一つ条件がある!」


バリーはメモ越しにエアリィを不敵な笑みで見つめながらとある提案をした。

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