第2.5話 ただのコーヒー

「さて…エアリィ、コレからお前をどうするか決めないといけないよな…。

訳ありなのは分かってるが、話せる範囲で構わないから事情を教えてくれ。

森の奥地に住んで人とは殆ど関わりのないエルフ、しかも子供がこんな人の街の近くの森で行き倒れかけてるのは不自然だし。


ほい、コーヒー。飲める?」


食事を終えてコーヒーを淹れながらバリーはエアリィに説明を求めた。


「の、飲めるよ!分かった。…苦っ。

でも、その前に僕は284歳で人間の君より年上だよ?子供扱いは止めて欲しいんだけど。」


「(コーヒーを苦い顔で飲んでるヤツが何言ってるんだか。)まぁ…エルフは長命の種族って聞くからな…284歳が人間換算でどの位だか知らないから何とも言えないな。」


「永く生きる仲間だと2000歳前後まで生きるよ。」


「…じゃあ、単純計算で人間換算すると14歳程度の子供じゃねーか!」


砂糖をエアリィのカップに入れながら改めて子供扱いを始める。


「むぅ…。

実は僕、里から追い出されたんだ。」


「…何があった?(想像以上にヤベーヤツ助けたかも知れないな。)」


「あ、別に人殺ししたとか魔王の魔力に当てられてダークエルフになったとかじゃないよ。

でも、コレを見て。」


エアリィが徐に靴を脱いで素足になると足の親指を指差した。


「…良く見ると先っぽ1cmもない位が半透明になってるな。」


「ゴースト症候群(シンドローム)って言うんだって、手足の指先から徐々に半透明になって最終的に胴体まで達して死んじゃう病気、原因も治療方も分からないんだって。

他人に伝染する病気じゃないんだけど『村が壊滅したら~』とか『我が里の若者からこのような病が~』とかを認めたくないんだってさ。」


「おいおい…そんな事で若いヤツを追い出したってのかよ?」


「エルフって数が少ないし、プライドも高いからさ。

こうして忌子となった美少女エルフのエアリィちゃんはほぼ丸腰で里から追放、魔法の天才だったからエネミーの攻撃を掻い潜りながらなんとかここまで来た所で魔力切れを起こして小型エネミーに殺されかけていたのでしてめでたしめでたし~。って訳。」


「所々ツッコミ所作りながら語っても、めでたくねぇよ…。」


「でも、バリーが助けてくれて嬉しかったよ。

いくら間も無く死ぬ身だとしてもあれにお腹を突き刺されて苦しみながら死ぬとかゴメンだから。」


冷め始めたコーヒーを見つめながら語るエアリィの顔からは強がりと憂いを読み取れた。


「ハァ…。我関せずの人間のつもりだけどエルフの里への怒りとかその処分を受け入れているお前へ言いたい事とか色々あるな…。

何はともあれ、助けたヤツの世話くらいはしてやる。

幸いココは街にはそう遠くない、夜が明けたらソコに案内してやるよ。」


「ホント?ありがとう!

…でも僕、さっきも言った通りほぼ丸腰だよ?お金とかもないよ?」


「そこなんだよなぁ…。街に住むって言ったって何かと金は居るし、働くったってエルフなんか珍しい人種が身売りとかの『人権?なにそれ?金になるの?』みたいなのに目付けられたら助けた意味がねぇし。

ま、色々な所に相談してダメそうだったらお前が死ぬまでの少しの間で良ければせめて笑顔で死ねるように面倒見てやるよ。」


苦い顔をしながらも明るく強い口調でバリーはエアリィの肩を叩いた。


「…ありがとう、なんかバリーのおかげでホッとしたよ。」


少し涙目になりながらエアリィは感謝を伝える。


「でも、もしそうなったらお金大丈夫なの?」


「まぁ、『俺は大金持ちだ!』とは言えないけど、ハンターになってから貯めた何に使うか分からない貯金は結構あるから当分は心配すんな。」


「バリーって結構お人好しだね。

ホントありがとう!もしそうなったらよろしくね!」


涙を拭いたエアリィは満面の笑みで答えた。


「おう、自ら俺のエネミー料理を食ってくれたヤツに退屈はさせねぇよ!」


バリーも親指を立てて笑顔で返す。


「…所で、話をしんみり方向に返しちまうかも知れないけど、お前のその病気ってあとどれくらい持つんだ?」


「んー…。里のお医者さんが言うには30年持てば良い方だって。

短いけど、バリーが居れば大丈夫だよ!」


「お…おう、そうだな…。街に受け入れられて住めるようになるといいな…。」

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