いのちの暗点
田島春
私は、それを最初に見た時からずっと不気味だと感じていた。
でも今は違う。
その目が付いた赤い節と、くびれ。
細部を見る度に心に恐怖と……恍惚が忍び寄ってくる。
最初に見たのはネット上でだ。それは大きなイベントのロゴの決定案として報じられ、珍妙極まり無いその姿はネットの住民を虜にした。
反応は私と同じく不気味だとか、グロテスクだとか。
ホラーやそういう要素を持つ作品から様々な引用がなされた。
でも私には……どうにもその、引用されたどれもがしっくりこなかった。
不気味とかそういう部分は共有しているのに、そこだけは良くわからなかった。
私はそれを気にも留めなかった、的外れの意見が騒ぎの中でやんややんやと出るのもよくある事だ。私がそれに馴染めないだけ。
少し経ってから、皆それをおもちゃにし始めた。
これも……特段珍しい事では無い。
でもそこに何か違和を感じた、早すぎる。
確かにネットというやつは年々そういうコンテンツだかの消化の速度が早くなっている。
だがそれにしたって、早すぎたのだ。
まだ24時間も経ってないのに。
今なら分かる、あれは正しく防御反応だ。
貶め、俗化し、馴染ませる。
そうして恐怖を和らげ、身近なものとして適応していく。
なんて事だろうか。
私はそれを理解して馬鹿だと思った、恐れすぎだと。
私はしばらくしてからその行為の副作用を理解して恐怖した、なんてものを身近に置こうと……馴染ませて、定着させようとしているのだと。
そして私は、その適応の波に乗り遅れた。
それに気付いたのは随分後だ。
私はそのロゴを眺める。
目は五つある、よくネタにされる合成的なあれそれなら奇数はおかしいな、と鼻で笑った。
面白くグロテスクなのは、それが等間隔では無いという事だ。
偏りがある、2と2と1。
色々な話が、舞い込んでくる。
例えばそれは、前のイベントのものを参考にしたとか。
私はそのロゴを見た。
幾何学的図形だ、ロゴらしいロゴ。
均等な五角形に配置された欠けた円。
中心に添えられた小さな円が全体を統合するかのような配置だ。
整っている、それが感想だった。
そしてその欠けた円が気になった、何かが違う。
同じであり、違う。
答えは向こうから飛び込んできた、欠けた部分が目を模していると見れば似ている、と。
確かにそうだ、だがそれ以上の何かおかしな事がある。
私は新しい方のロゴを見た。
不均等な配置、生命というにはあまりにもグロテスクというそれ。
内臓とも肉塊とも違う何か。
目の数は一緒、違いは何だ?
そうだ、外を向いているんだ。
どちらのロゴも外を向いている、まるで中心から目を逸らすように。
だから見てしまうのだ。
だからグロテスクなのだ。
円状の有機物は、ミクロやマクロや解剖すれば知らないが、見ることのない形だ。
そして目は、全部外を向いている。
外を向いている。
外を向いている。
外を、向いている。
徹底して、外を向いている。
旧ロゴを見る。
欠けを目として見ればそれは、まったく反対を見ている。
整っている、故にそれは無視の意図が露骨なのだ。
ロゴを見る。
その目の向きはバラバラで、位置も不均一。
だからこそ、その無視の意図は強い。
まるで、自身の内に興味が無いような。
まるで、自身の内に見てはいけないような
あ
円、黒の円。
旧ロゴにはあった円が無い。
そうだ、最初からそこには何も無いのだ。
だけれども私は見た、目じゃないものと目が合った。
この円が、輝きだというのなら。
その中心にあるはずのないはずのこれは
これはなんだ?
なぜ、ないはずのまんなかのそれ
なんだ?お前は
生命ではなく、輝きでもない、お前は。
いのちの暗点 田島春 @TJmhal
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