第十七話 二人の次期生徒会役員
「というのも、さっきからわたしが提案しているのは、日野原くんと境川さんの二人を一年八組の次期生徒会役員にするということにほかならないのですから」
そう言う愛花に、くるみは首を傾げた。
「それはわかりますけど? なぜ次期生徒会役員になれば日野原くんが無視されなくなるんですか」
舟見が解説の役を買って出た。
「今回の『牽制』のバックに境川さんのグループがいたとしても、同じ次期生徒会役員の日野原くんを無視するわけにはいかない。いちいち揉めていては、内申書の点数が下がるってこと」
くるみは、うんうんと頷いている。
「任せられれば、仕事はしますよ」
秀雄は慇懃無礼に言った。クラブ活動でちまちま稼ぐ内申書の点数などどうでもいいと思っていたが、生徒会活動ともなれば点数どころか見る者の印象が違う。自分の性格は自分がよくわかっている。そんな柄じゃない。自分からは決して名乗り出たくはないが、おぜん立てされるのならば話は別だ。境川さんと一緒、というのは気にかかるが。
「なら、話は決まりですね。それでは」
そう愛花は言うと、三人を残して立ち去ってしまった。必要がなくなれば、ただちに去る、というわけか。
取り残された三人は、しばし、その後ろ姿を目で追いかけた、が。
「あ、時間、時間!」
突然、くるみがすっとんきょうな声を上げた。門限の時刻までに寮に戻るのに、ギリギリの時刻だった。三年生だからと言って寮の門限を無視していいわけはない。愛花は本当に急いでいたのだ。
「日野原くん、帰ろうか」
舟見は、少し緊張していたのだろうか、ややぎこちなく椅子を引いた。
「そうだね。話は済んだみたいだ」
秀雄も、カバンを手に取った。
「そういえば、水沢さんはどうしてここに?」
今更なことを舟見は気にした。くるみは答えられなくて黙り込んでいる。
「この食堂、けっこう人気あるみたいだね。月岡先生も見かけたことあるよ」
秀雄は話を逸らした。
「それはそうと、水沢さん、男子と女子が一緒にいるのをこの辺で見られるとよくないから、ここらで別れよう」
くるみは、物言いたげだったが、さようなら、と言って足早に消えた。秀雄にとって幸いなことに、舟見はくるみとの関係を問いたださなかった。
「たぶん、すぐに状況は変わるよ」
舟見はそう一言言ったきり、それ以外には会話らしい会話もなく、二人は寮に帰りついた。
確かに状況は激変した。次期生徒会役員名簿が校内に掲示され、秀雄と沙代里が生徒会役員に内定したことが知れ渡ると同時に、秀雄に対する集団無視がなくなった。舟見いわく、次期を同じくして秀雄抜きのSNSで無視の解除が伝えられたとのことだった。秀雄は、そんなSNSに興味はなかったが、舟見が頼みもしないのにわざわざ教えてくれたのだ。舟見が見せてくれた携帯端末には、こうあった。[日野原秀雄をクラス内秩序を乱した罪で無視の刑に処す][日野原秀雄に対する無視の刑は終了とする]。メッセージの配信者は、「王」。
ようやく、秀雄はクラスに興味を持ち始めていた。
クラスで無視が始まったとされる時点では、秀雄と接点があるクラスメイトは限られていた。水沢くるみと寺泊てい、そして比留田建だ。寺泊は、きっとメッセージの発信者が誰であれ、あの小物ぶりからして間違いなく従っただろう。だが、子爵の比留田は、おそらく「王」が誰かを知っていた。もちろん、秀雄でないほうのだ。なるほど、「王」が二人いるわけか。そりゃもめるはずだ。
「いやいや、おまえが生徒会役員とはなあ!」
教室で、真っ先に図々しく声をかけてきたのは比留田だった。
「まだ『次期』だけどね。まあ、成り行きだよ」
この比留田も、あのSNSには従った。王、いや女王の命に従った。秀雄には意外だった。少しヤンチャなことを格好いいと思っているような男子も、素直に従うことが。
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